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2000年改正少年法5年後見直しの意見書を提出
 (ニューズ・レター26号)
2月1日に、杉浦正健法務大臣に少年法の改正に関する意見書を提出しました。
当日は、岡村代表、土師幹事、松村幹事および少年事件の被害者である会員の方々(一井彩子さん、岡崎后生さん、鈴木八恵子さん、松尾美恵さん、山田佐知子さん)が出席しました。

意見書作成にご協力いただき、また当日もご同行いただいた守屋典子弁護士に以下のとおり意見書提出までの経緯や当日のようすをまとめていただきましたので、意見書(別添)とあわせてご覧ください。
杉浦法務大臣に意見書を提出
杉浦法務大臣に意見書を提出

少年法改正5年後見直しに向けて
弁護士  守屋 典子 

 少年事件の被害者のほとんどは、ほんの少し前まで、加害少年の更生という名目のもとに、加害少年の氏名さえ教えてもらえず、知らないうちに審判が終わり、最長で2年位後に人の噂で社会に戻ったことを知る。そういう状態におかれていました。

しかし、少年法の定める制度はあまりにも被害者の保護に欠けるという批判が広がり、2000年の少年法改正で記録の閲覧・謄写、意見聴取、結果の通知という3点の被害者配慮規定が盛り込まれました。少年事件の被害者が強く要望する審判傍聴については何の規定もおかれませんでしたが、ただ、5年後にこの改正法の見直しを行うという付則が盛り込まれました。今年の3月がその5年後見直しの期限となります。

そこで、あすの会では、少年事件の被害者やご遺族にアンケートをお願いしたり、直接お話をうかがったりして、どのような点について被害者が改正を求めているか検討し、意見書を作成しました。特に重大事件の被害者等には、要保護性の審理も含め審判傍聴できる制度、また、社会記録を含め閲覧できる制度にするべきであるとしました。

その他にも、2000年改正法で導入された閲覧・謄写や結果の通知の期間制限や正当理由の撤廃、保護者の責任の明確化、記録の謄写料の無料化、被害者の審判結果への不服申立制度・捜査段階での早期の情報提供制度・被害者の未成年の兄弟姉妹に対するケア制度・公費による代理人制度の創設などを求める内容となっています。

意見書は、2月1日に法務省に杉浦正健法務大臣をお尋ねし、直接お渡ししました。大臣は、2000年改正の際にも関わられたとのことで、少年事件の被害者問題に深い関心を寄せられており、前向きに検討する旨のお話をくださいました。

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2000年改正少年法5年後見直しの意見書
平成18年2月1日
法務大臣 杉 浦 正 健  殿
全国犯罪被害者の会(あすの会)
 代表幹事 岡  村   勲
  1. 被害者の審判出席     
  2.  2000年少年法改正で制定された被害者配慮規定の改正     
  3.  重大犯罪の原則逆送(法20条2項)     
  4.  修復的司法     
  5.  被害者等の審判への不服申立制度     
  6.  少年法の範囲外で改正するべき点

 2000年に少年法が改正され、初めて少年事件の被害者等(被害者及びその遺族を含む)に対する配慮規定(記録の閲覧・謄写、意見聴取、結果の通知)が定められた。それ以前には、何らの権利もなく、保護も配慮も受けられなかった少年事件被害者等にとって、この改正は一歩前進ではある。

しかし、いずれも被害者等の権利として認められているわけではない上多くの制約もあり、事件の当事者である被害者等が少年審判の手続きから合理的な理由なく排除されているという事態を改善するものではない。

被害者等から見れば、加害者が成人か少年かは全くの偶然にすぎず、加害者が成人であろうと少年であろうと、被害者等は十分な保護を受けなければならない。

しかし、現行の少年事件手続きでは、加害少年の健全育成の目的のもとに、そのプライバシー保護ばかりを重視し、被害者等には審判の傍聴さえ認めず、被害者等は加害少年の氏名を含む事件の情報提供もほとんど受けられないのが実情である。

 2005年12月に閣議決定された「犯罪被害者等基本計画」は、その重点課題の一つとして「刑事手続への関与拡充への取組」をかかげ、その中で「刑事司法は、社会の秩序の維持を図るという目的に加え、それが『事件の当事者』である生身の犯罪被害者等の権利利益の回復に重要な意義を有することも認識された上で、その手続が進められるべきである。

この意味において、『刑事司法は犯罪被害者等のためにもある』ということもできよう。また、このことは、少年保護事件であっても何ら変わりはない。」と述べている。これは、少年司法は加害少年のためのみならず、被害者等のためにもあるということを明確に述べたものである。

 今回の5年後見直しにおいては、犯罪被害者等基本計画における上記見解を確認し、2000年の改正において取り残された被害者等の審判傍聴を実現することを含め、以下のような制度を新たに創設されたく、意見を述べる。
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1.被害者の審判出席
  • 重大事件の被害者等の少年審判への出席を認めるべきである。
(理由)
【1】
少年審判は非公開とされている。そのため、被害者等は裁判官が少年審判規則29条に基づき、その裁量によって出席を認めたごく例外的なケースを除き、審判に出席できないというのが現状である。

しかし、適正な事実認定をしてもらいたい、少年がどういう主張をするかを聞きたい等を理由として、審判出席を希望する被害者等は極めて多い。現在の審判は加害少年の健全育成に対する協力者のみで構成されており、事実認定も不十分な面があることは否定できない。

2000年の改正法で検察官関与や裁定合議制が導入されたが、その適用事例は極めて制限的である。加害少年の主張に対して反論する者のいない審判廷では、少年が事実に反する主張をした場合でもその主張がそのまま認められ、虚偽の事実認定が行われる可能性がある。

加害少年が適正な事実認定を受け適切な処遇を受けることは、被害者等の回復に不可欠である。また、仮に審判において加害少年がついた「嘘」がそのまま事実として認定されて軽い処遇決定となれば、それは加害少年にとっても決してプラスではなく、その更生にとって有害であることは明らかである。

このように、少年審判においてもその適正な事実認定が極めて重要であることは明らかであり、被害者等は審判において加害少年が何を述べ、どのように事実認定されるかをきちんと自分の目で確認したいとして審判への出席を希望しているのである。

そして、審判には原則として検察官が出席していない以上、加害少年の主張を聞いた結果、事実に反する部分がある場合はもちろん、ない場合にも、被害者等に審判廷で加害少年に対し質問したり、意見陳述をしたりする権利を認めるべきである。

【2】
  1. そこで、被害者等の審判への出席(傍聴を含む)は、審判非公開の理由ないし目的に抵触するのか。被害者等が出席することで、はたして非公開の理由・目的が侵害されるのかの検証が必要となる。


  2. そこでまず、そもそも公開とは何かが問題となる。これまでの実務では、審判は非公開(少年法22条2項)とされていることから、被害者等も当然のようにその対象に含まれると考えられ、その審判傍聴は許されないとされてきた。

    しかし、公開とは一般の傍聴を許すことである。
    一般とは通常、利害関係者ないし事件関係者以外の者を意味する。そうであるとすれば、被害者等は事件の当事者であり、利害関係者そのものであるから、公開原則から直ちに被害者等の傍聴が認められないという結論は導かれない。

    現にアメリカやドイツでは、少年審判は非公開とされつつ、被害者自身は利害関係者として審判への出席が認められており、これは審判非公開原則が直ちに被害者等の傍聴の否定を帰結するものではないことを示すものである。

    一般国民と被害者等は全く異なる立場にあるということを理解することが、被害者等の審判傍聴を考える上での不可欠な視点である


  3. ところで、被害者等の審判出席に対しては、審判非公開の理由ないし目的とされている
      1)少年のプライバシーの保護、
      2)社会的烙印の回避、
      3)少年の主体的な手続き参加の保障(自由な意見表明の保障)
    が侵害されるとして反対する意見がある。

    しかし、以下のとおり、これら反対意見には理由がない。

    第1に、少年事件においては、事件の背景に家庭環境や保護者の問題が存在していることが多く、少年のみに責任を負わせることが妥当でないため、非行事実以外に少年の家庭環境や生育歴等を考慮してその処遇を決定する必要があるとされる。

    そうであるとすれば、少なくとも被害者が死亡したり重い障害を負ったりした重大事件の場合には、少年が事件を起こすに至った背景を知ることなしに、被害者等の納得は得られない。

    加害少年のプライバシー情報がメディアを含む一般国民に対しては保護されるべきであるとしても、上記の理由から、少なくとも重大事件の場合、被害者本人はその情報がたとえ加害少年の要保護性に関する情報すなわちプライバシーに属するものであったとしても、これを知る権利を有すると考える。

    重大事件に限って言えば、被害者等の知る権利は、少年のプライバシー権を上回ると考えるべきである。

    あるいは、加害少年は、重大事件の被害者等に対しては、そのプライバシー権を主張できないと言いかえてもよい。したがって、重大事件の被害者等は要保護性の審理を含め、審判の全部に出席できるとすべきである。

    第2に、社会的烙印の回避であるが、被害者等が審判に出席したからといって、加害少年に犯罪者あるいは非行少年としての社会的烙印が押される関係にないことは明らかである。

    メディアに審判を公開すれば、報道を通じて加害少年に社会的烙印が押されるということはある。しかし、被害者等の審判出席と社会的烙印との間に因果関係はないのであって、この点からも、非公開という場合に、被害者自身と一般国民とを分けて考える必要があることが明らかである。

    ただし、出席した被害者等に対しては、審判確定前であることにかんがみ、正当な理由なく知りえた情報を漏洩することを禁止する規定を設ける必要はあろう。

    第3に、加害少年の主体的な手続き参加の保障、つまり審判で加害少年に自由な意見表明権を保障することは、少年事件における適正手続き保障という意味においても重要なことである。

    被害者等の審判出席に反対する論者は、被害者等が出席すると加害少年が萎縮して自由な意見表明ができなくなるおそれがあるということを、その主たる反対理由とする。しかし、その理由とするところは、まさに「おそれ」であるにすぎず、何らの検証も経ていない。

    そもそも、少年はひとりひとり年齢も性格も考え方も異なるのであり、中には被害者等の前できちんと弁明したいと希望する者もいるであろう。少年であることを理由に一律に萎縮のおそれを主張する論拠は薄い。

    もし被害者等が出席している審判廷では主張したいことのある少年でも主張できなくなってしまうというのであれば、そのような状況の中でも少年を励まし、フォローするのが付添人の役割であろう。

    加えて、少年が被害者等の前で萎縮する理由を考える必要がある。少年が被害者等の前で萎縮するとすれば、それは少年が内心において非を認めている証拠であり、それはまさに少年の反省の第1歩であると認識すべきである。

    さらに、前記のように被害者等の出席しない審判には、検察官が関与する場合を除いて加害少年の主張に反論する者は存在せず、事実認定に関しては加害少年の主張がそのまま受け入れられている部分を否定できない。

    被害者等が審判に出席すれば、加害少年は嘘をつきづらくなり、本当のことを言う可能性がある。そうであるとすれば、被害者等の審判出廷によって加害少年の自由な意見表明が侵害される「おそれ」よりも、被害者が審判に出席することによる適正な事実認定を優先させるべきである。

    これは、上述したように、加害少年の更生にとってもプラスであることは明らかである。

    これに対し、被害者等の審判傍聴反対論者からは、審判は短期間に行われるものであるため、加害少年の反省が進んでいない場合もあり、そのような状態の少年の姿を見、その主張を聞くことは被害者等にとってもプラスとは考えられないから、被害者等の審判出席は認めるべきではないと主張されることもある。

    しかし、加害少年がそのような状況にあることの説明を受けた上で、それでも審判出席を希望するか否かは被害者自身の選択でしかない。そのような状況でも出席を希望する被害者等に対し、「あなたにとってプラスにはならないから、やめたほうがいい」などと言える第3者は存在しないのである。
【3】
以上の理由により、被害者等の審判出席が認められるべきである。この点については、現行規則29条で被害者等を審判に出席させることは可能とする考えもある。

少年審判規則29条の条文は「裁判長は、審判の席に、少年の親族、教員その他相当と認める者の在席を許すことができる。」と規定するのみで、その「相当と認める者」について何ら限定を加えるものではないから、現行審判でも被害者等の傍聴は認められているとする見解もある。

また、冒頭で述べたように、ごく限られたケースではあるが、実際にそのような運用がなされた審判もある。しかし、同条は従来の実務では加害少年の更生への協力者のみを想定しており、被害者等の審判出席を認めるに際しては、新たにその旨の明文を規定する必要があろう。

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2.2000年少年法改正で制定された被害者配慮規定の改正
(1) 被害者等による記録の閲覧及び謄写(法5条の2)
  • 被害者等による記録の閲覧・謄写許可の要件として「正当な理由」「相当と認めるとき」があげられているが(法5条の2)、これらの文言は削除するべきである。
  • 「確定後3年」以内(同条の2第2項)という条件を撤廃するべきである。
  • 謄写手数料を無料化するべきである。
  • 一定の重罪事件被害者には社会記録の閲覧・謄写も認めるべきである。
(理由)
【1】「正当な理由」「相当と認めるとき」の文言の削除
 
ア.
「相当と認めるとき」とは、不当に少年の健全な育成を妨げ、不当に関係人の名誉もしくは生活の平穏を害し、または調査もしくは審判に支障を生じさせるなどの不当な影響が出る場合を意味するとされるが、いずれの理由も、閲覧・謄写した者がその情報を不当に利用した場合に生じる不都合を列挙したものにすぎず、これは同条の2第3項において、不当な利用を禁止する条項がある以上、重ねて規定する必要のないものである。

また、そもそも他人の生命・身体等というプライバシー以上ともいえるものを奪った加害少年について、被害者等との関係においてさえ、そのプライバシーを尊重せよと一方的に主張することの不当性に気づくべきである。

イ.
「相当と認めるとき」とは、不当に少年の健全な育成を妨げ、不当に関係人の名誉もしくは生活の平穏を害し、または調査もしくは審判に支障を生じさせるなどの不当な影響が出る場合を意味するとされるが、いずれの理由も、閲覧・謄写した者がその情報を不当に利用した場合に生じる不都合を列挙したものにすぎず、これは同条の2第3項において、不当な利用を禁止する条項がある以上、重ねて規定する必要のないものである。

また、そもそも他人の生命・身体等というプライバシー以上ともいえるものを奪った加害少年について、被害者等との関係においてさえ、そのプライバシーを尊重せよと一方的に主張することの不当性に気づくべきである。


【2】確定後3年以内という条件の撤廃
閲覧・謄写の期間を確定後3年に限定したのは、民事の損害賠償請求権の時効期間などを考慮したものとされているが、このような条件は撤廃すべきである。

記録の閲覧・謄写は、上記のように民事の損害賠償請求権の行使のために必要な場合に限られるべきではないから、被害者等の「知る権利」に資するものとして、記録が保存されている限り閲覧・謄写には応じるべきであり、閲覧・謄写ができる期間を制限すべきではない。

【3】謄写料の無料化
現在、記録の謄写費用は、民事訴訟費用等に関する法律が準用されているが(法5条の3)、被害者等が謄写料を自己負担しなければならないというのはあまりに不合理であるから、無料とするべきである。

【4】
社会記録には主に少年のプライバシーに関わる事項が記載されている。
そのため、少年のプライバシー保護のためにその閲覧・謄写は厳格に制限されている。

しかし、被害者が死亡したり、深刻な障害が残るような重大事件の被害者の場合、被害者等はその事件によって一生を失ったのであるから、少年がそのような事件を起こすに至った理由をその家庭環境や養育歴も含め、知る権利があると考えるべきである。

ただし、被害者等は社会記録を閲覧することで知り得た少年のプライバシーに関する事実を、正当な理由なく公表してはならないという制限を設ける必要はある。

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(2) 被害者等の申出による意見の聴取(法9条の2)
  • 被害者等の意見陳述権とし、被害者等の申出を待たずに、裁判所の方から被害者等の意見陳述の意思の確認をすべきである。
  • 意見陳述ができる者の範囲を拡大するべきである。
  • 但し書きの「相当でないと認めるとき」の例外規定を削除するべきである。
  • 被害者等の意見は、審判期日に裁判官が被害者等から直接聴取するべきである。
(理由)
【1】
被害者等の意見陳述権とするべきである。
現在、裁判所による意見の聴取という形をとっているが、裁判所が必要と認める場合に被害者等の意見を聴取するというような制度ではなく、被害者等が自分自身あるいは自分の身近に起こった犯罪について、心情その他の事情を裁判所に対して陳述することのできる権利として認められるべきである。

【2】
被害者等の申出を待つのではなく、裁判所から被害者等に意見陳述の意思の有無を確認するべきである。
現在は、被害者等の申出が要件とされているが、被害直後の混乱状態にある被害者等にとって、意見を述べたいと思っても、その機会を逃してしまうことも多々起こりうる。

少年事件の被害者等のうちの多数が意見を述べることを望んでいる現実からしても、被害者等の申出を待たず、裁判所の方から、被害者等に対し、意見の陳述を行うかどうかの意思確認を行うべきである。

これは、被害者配慮規定の存在を被害者等に知らせる際、同時に意思確認を行えばいいことであるから、裁判所にとっても格別の負担にならない。

【3】
「また、意見陳述を行うことができる者を拡大すべきである。
現在の文言では法5条の2と異なり「被害者が心身の重大な故障がある場合におけるその配偶者等」が申出人から除外されている。その趣旨は、被害者本人が意見を陳述できる場合にはできるだけ本人から聴取すべきということであろう。

しかし、心身の故障によっては、本人の意見陳述は可能ではあっても困難である場合もある。そのような場合、本人が配偶者等代わりの者の陳述を希望する場合にはこれを認める必要がある。

【4】
「事件の性質、調査又は審判の状況その他の事情を考慮して、相当でないと認めるとき」被害者等の意見聴取を行わないこととされているが、この文言は削除されるべきである。

「相当でないとき」の例としては、被害者等が多数のため、その全員から意見聴取すると手続的な負担が大きくなる場合などがあげられている。しかし、被害者等が多数である場合には、書面での意見提出等の適宜の聴取方法を採ることによって解決できるのであるから、これは不要な規定である。

本条の趣旨は、被害者等の心情等を聴取することにより、審判が被害者等の心情や意見をも踏まえてなされていることを明確にして、少年審判に対する被害者等をはじめとする国民の信頼を確保するとともに、少年に被害者等の心情や意識を認識させ、少年の反省を深めてその更生に資することにあるとされている。

その趣旨にかんがみ、国民の信頼確保及び少年の更生のためにも、被害者等の意見陳述を広く認めるべきである。

【5】
原則として、審判を担当する裁判官が直接被害者等の意見を聞くべきである。現在は、家庭裁判所調査官による聴取が多く行われている。

被害者等としては調査官に話した以上、自分の伝えたかったことのすべてが裁判官に伝わっていることを期待してしまうものであるが、調査官が被害者等から聞き取った事項を自分の言葉でまとめて、裁判官に伝えているため、被害者等が期待するような伝達がなされない場合が多く、それは被害者等にとって失望の種となっている。

そもそも、被害者等の心情は、警察官や検察官による調書にも記載されていることが多いのであって、それとは別に被害者等の意見陳述を認める制度が存在する意義は、それが審判を行う裁判官に直接伝わるという点にある。

また、聴取の方法については、家庭裁判所の裁量に委ねられているが、被害者が病床にあるなどの場合を除いては、原則として、被害者等が審判に出席し、少年が在席する審判期日において被害者等に意見を陳述させる方法で裁判所自らが意見を聴取すべきである。

この場合、少年が萎縮してしまう等の懸念が聞かれることがあるが、萎縮は更生への第一歩である。むしろ、少年にとって、被害者等の顔や被害の程度を目の当たりにしないまま、自分の犯した罪を反省するなどということは不可能であり、実際に対面することが、少年の真の反省を引き出すきっかけとなるのである。

そして、審判廷における意見聴取を行う場合には、被害者等への付き添い、ビデオリンク制度等に関する刑訴法の規定が準用されるべきであるし(刑訴法157条の2ないし4)、どうしても審判廷に出廷できない被害者等もいるであろうから、仮に被害者等による審判傍聴が認められるようになったとしても、この意見陳述の制度は存置されるべきである。

(3) 被害者等に対する審判結果の通知(法31条の2)
  • 被害者等の申出を待たずに通知すべきである。
  • 試験観察の場合にも通知するべきである。
  • 通知は主文及び理由の要旨に限定するべきではない。
  • 「相当でないと認めるもの」に対する例外規定を削除するべきである。
  • 「確定後3年」以内という条件を削除するべきである。
(理由)
【1】
審判の結果について知りたくないという被害者等は少ないと思われる。
審判結果の通知について3年という時間的な制限を撤廃するならともかく、仮に撤廃しないのであれば、審判結果については被害者等の申出を待って通知するのではなく、原則通知することとするべきである。

被害者等が精神的な安定をある程度取り戻し、審判結果について知りたいと考えた時には既に3年が経過していたという事態は大いにありうるからである。被害者等がその通知をいつ読むかは全く自由である。被害者等はその通知を読める時期が来たら読めばいいのである。

【2】
試験観察は、一時的にしろ少年を社会復帰させるものであるから、この場合にも被害者等に通知をするべきである。

【3】
「理由」は要旨に限定すべきでない。
被害者等は、自分に被害を与えた加害者がどのような理由で、いかなる処分を受けたのかを知る権利を有する。
もし、加害少年の友人の氏名等、開示に適さない部分がある場合には適宜その部分を隠す等の処理を施せば足りる。

【4】
「相当でない場合」との文言は削除すべきである。
「相当でない場合」の例としては、被害者等が通知内容をみだりに公表するおそれがある場合等があるが、本条3項に既に係る行為を禁止する規定があり、重ねて規定する必要はない。
それ以外に、通知に相当性を必要とする理由は見あたらないから、このような文言も不要である。

【5】
確定後3年以内という条件は削除するべきである。
損害賠償請求権の行使との関係で、このような期間制限が設けられているが、前述のとおり、このような制限には何らの合理性もないから、このような文言は削除されるべきである。

また、(1)で上記したように、被害者等の申出によらない原則通知制度がつくられれば、このような条項は不要となる。

(4) 被害者配慮規定の告知
  • 家庭裁判所は事件の送致を受けたら直ちに被害者等に対し、個別に必ず少年の氏名・住所、被害者配慮規定及び審判期日の告知を行うこととするべきである。
(理由)
2000年の少年法改正によって、記録の閲覧・謄写、意見の聴取、結果の通知等の制度が新設されたことを知っている被害者等は極めて少ない。

改正以降に被害にあった人たちの中でも、このような制度があることを審判が終わるまで誰からも教えてもらえず、したがって、これらの制度について全く利用することができなかったと述べる被害者等は少なくない。

このようにせっかく制度ができても、当事者である被害者等がその制度の存在を知らないのであれば、まったく意味がないものとなってしまう。そこで、家裁は事件送致を受けたら直ちに、少年の氏名・住所、被害者配慮規定の告知とともに、審判期日の通知も必ず行うこととして、被害者が上記制度を実際に利用できるようにするべきである。


(5) 加害少年の保護者の教育の必要性
  • 少年の保護者の責任を明確にするべきである。
(理由)
2000年改正法では、保護者に対する措置として「家庭裁判所は、必要があると認めるときは、保護者に対し、少年の監護に関する責任を自覚させ、その非行を防止するため、調査又は審判において、自ら訓戒、指導その他の適当な措置をとり、又は家庭裁判所調査官に命じてこれらの措置をとらせることができる」と規定した(法25条の2)。

少年事件においては、その保護者の責任は重大である。少年が、非行に走る背景には、少年自身の問題のみならず、保護者の少年に対する監護のあり方や接し方、夫婦関係・親子関係のあり方を含めた家庭環境そのものが重要な要素として存在する場合が多いからである。

そのため、少年の非行の責任は少年のみにあるのではなく、その保護者や社会にもあるというのが少年法の考え方である。それにもかかわらず、従来、少年法には保護者の責任の取り方についての規定が存在しなかった。

2000年の改正では、上記のような条文が設けられたが、保護者が家庭裁判所の指導等に従わなくても罰則があるわけではなく、何の強制力も有しない上、内容的にも不十分である。

そもそも、加害少年を少年院に送致し、保護・教育をして社会に戻しても、保護者や家庭が全く変化していなければ、その更生は困難であろう。加害少年の保護者は、加害少年に対してネグレクトや身体的・精神的・性的虐待をしている場合も少なくない。

そのような場合、そのような保護者の改善なくしては、加害少年の更生も難しい。

そのような意味において、保護者に対する教育・指導は少年の更生にとって極めて重要な意味を持つ。被害者等の中にも、少年がその未熟性や成長発達の可能性ゆえに成人とは異なる処分を受けるならば、その保護者の責任を重くするべきであるという意見が強い。

少年事件の背景には、保護者の養育態度や家庭環境が重要な要素として存在する以上、そのような養育態度をとり、そのような家庭環境をつくった保護者にも責任を負わせるべきであるという考えである。

したがって、25条の2に定められているような措置の必要性については疑いもないが、保護者に対するより積極的な指導や教育プログラム受講の罰則付きの義務化等が定められるべきである。

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3.重大犯罪の原則逆送(法20条2項)
  • 重大犯罪の原則逆送に関する法20条2項は原則どおりに実施されるべきである。
(理由)
【1】
この条文の根拠は、故意の犯罪行為によって被害者を死亡させるという重大な罪を犯した場合には、少年であっても刑事処分の対象となるという原則を示すことにより、何物にもかえがたい人命を尊重するという基本的な考え方を明らかにし、少年に対して自覚と自制を求める必要があることにあるとされている(衆議院法務委員会における提案者答弁)。

審判は、少年にとって、それまでの意識を変える機会である。そうであればこそ、「保護」される審判だけでは不十分である。寛大な処分が必ずしも少年の成長にとって有益であるとは限らない。なお、重大犯罪の原則逆送に関しては、逆送をされると審理が公開されることになるため、法廷で少年が萎縮してしまい、言いたいことも言えなくなるという批判もある。

しかしながら、萎縮は更生の第一歩である。多くの傍聴人の存在により、自らの犯した罪の影響の大きさに気づき、また被害者等の姿を見、声を聞き、無惨な被害状況を知ってこそ、初めて加害少年は反省の気持ちを抱き、そこから更生は始まるのである。

また、捜査を十分に行い、正確な事実認定を行う必要があることは少年事件も成人事件と変わりはない。しかしながら、家庭裁判所における少年審判は事実認定を目的とするものではなく、少年の保護を第一とする場である。したがって、事実認定を正確に行い、少年が人間の生命の尊さを十分に実感するためにも、重大事件においては、刑事裁判所における刑事裁判を経る必要がある。

事実認定を十分に行わなかった場合、少年自身にとっても、自らが犯した行為が曖昧にされた感じを受けることとなるが、それが真摯な反省に結びつかないことは明らかである。

【2】例外の適用、法55条の存在

刑事処分以外の処分を相当と認めるときは、家庭裁判所は逆送決定をせずに、保護処分等を選択する余地が残されている(法20条2項但書)。

この例外の適切な適用により、嬰児殺や付和雷同的な傷害致死事件である等の事情から逆送が相当でないと認められる場合等については、保護処分決定が出されている。

このようにして、一律に逆送されるのを防ぐことができる。また、少年法55条により、家庭裁判所への再移送が認められており、真に適切と考えられる場合には、家裁で保護処分を受ける途が確保されている。

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4.修復的司法
  • 重大犯罪の原則逆送に関する法20条2項は原則どおりに実施されるべきである。
(理由)
修復的司法についてはさまざまな捉え方があり、現在では未だその定義すらも一義的ではない。
したがって、その定義や運用方法によっていろいろな考え方がありうるが、被害者等にほとんど権利が認められず、また保護もない現在のような状態では、修復的司法が被害者等にとって有意な制度として機能する保障がない。

加害者との関係を修復したいと考える被害者等はほとんど皆無なのであって、その言葉自体にも違和感は大きい。被害者等から見れば、修復的司法を実践した(加害者と話をした)ということで、あたかも加害者と仲直りしたり、加害者を許したかのような印象をもたれかねないことにも強い抵抗がある。

したがって、修復的司法について何らかの制度化に向けての取り組みを開始する事については、現段階では反対である。

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5.被害者等の審判への不服申立制度
  • 被害者等の審判に対する不服申立制度を新設すべきである。
(理由)
審判を受けた加害少年側からは、
  1)決定に影響を及ぼす法令の違反、
  2)重大な事実の誤認、
  3)処分の著しい不当を理由として、抗告をすることができる(法32条)

これに対して、被害者側はどんなに審判結果が納得できないものであっても、不服申立を行うことができない。かろうじて、検察官関与の決定がなされた事件にかぎり(上記最高裁事務総局家庭局の報告によれば、平成13年4月1日からの4年間で合計90名についてしか検察官関与は行われていない)、検察官が抗告受理の申立てを行うこととされているので(法32条の4)、抗告受理の申立てを行うよう検察官に働きかけることくらいしかできない。

しかも、この抗告受理の申立ては、検察官の抗告権ではなく、「高等裁判所が相当と認めるとき」のみ受理されるという極めて中途半端な制度である。

加えて、申立理由は、
  1)決定に影響を及ぼす法令の違反、
  2)重大な事実の誤認に限定され、処罰の著しい不当は抗告受理申立の理由から除外されている。

被害者等にとっても、また、加害少年にとっても、厳格な事実認定は極めて重要な意味を持つ。検察官による抗告が上記のように極めて不十分なものである以上、審判で不当な事実認定が行われた場合に、被害者等に何らの不服申立手段が認められていないことは、立法の過誤である。
事実認定の重要性にかんがみ、被害者等に固有の審判に対する不服申立制度を新設すべきである。

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6.少年法の範囲外で改正するべき点
  • 被害者等に対しては、少年が逮捕された段階で、被害者等からの要求を待たずに、少年及び保護者の氏名・住所を通知するべきである。
  • 被害者等の未成年の兄弟姉妹に対する支援制度を創設するべきである。
  • 被害者等に、事件発生直後から公費で代理人がつく制度を創設するべきである。
(理由)
【1】被害者等への情報提供
2000年の改正で、審判開始決定後の記録の閲覧・謄写が認められたことで、被害者等はこの時点で加害少年の氏名や事件内容等についての情報を入手できることとなった。

警察や検察の通知制度により入手できる場合もあろう。しかし、事件直後で混乱をきわめた被害者等に自発的な行動を求めることは酷な場合が多い。

少年及びその保護者の氏名・住所は、少年が逮捕された場合、警察から被害者等の請求なしに通知するべきである。

被害者等が希望しない場合もあるので、被害者等からの請求を待つべきであるとする意見もあるが、事件の詳細についてはともかく、少年の氏名や住所も知りたくないという被害者等はいないと思われる。

【2】被害者等の兄弟姉妹のケア
少年犯罪の被害者等が、加害者とほぼ同年齢の少年であるケースは少なくない。

その場合、その被害者等にはやはり年齢の近い兄弟姉妹がいることが多い。少年が被害にあった場合、その兄弟姉妹がどのような大きなショックを受け精神的に傷つくかについては、これまで何らの配慮もされることがなかった。

しかし、これらの兄弟姉妹は、被害者等である兄弟姉妹が殺されたり、重い障害を負ったりすることで深く傷つき、不登校となったり、引きこもりとなるなど、その将来を理不尽に奪われてしまうことが少なくない。

被害者等の兄弟姉妹も少年である。少年法は少年の健全な育成をうたうが、加害少年だけに目を向け、被害にあった少年のみならずその兄弟姉妹に対しては何らの支援も用意しないという現状はあまりにもへんぱ偏頗である。

それらの兄弟姉妹の置かれている状況に合わせて無料のカウンセリングを受けられる制度や教師を自宅に派遣して自宅で授業を受けられる制度などを早急につくる必要があろう。

少年法が加害少年の為の法律であり、被害を受けた少年の保護・支援についての規定を盛り込むことが困難であるとすれば、別個に被害少年保護法のような法律を制定すべきである。

【3】公費による被害者等代理人制度の創設
少年事件の被害者等に事件直後から公費による代理人が必要であることは、成人事件の被害者等と変わりはない。

しかも、被害者等は被害を受けた直後は混乱状態にあるから、被害者等が自ら弁護士を見つけて連絡をとることは、被害者等に困難を強いるものである。

被害者等からアクセスするのではなく、弁護士の方からアクセスし、少なくとも最低限、今後の事件処理や被害者等の権利等を説明し、被害者等が権利行使の機会を失わなくてすむような制度を創設するべきである。

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