TOPICS(ニューズ・レター)


被害者参加制度における弁護士の役割
  (2007.11.1)
弁護士 高橋 正人
 本年6月20日、「あすの会」念願の被害者参加制度が国会で成立した。この制度でとくに際だつ点は、被害者が検察官と十分な打ち合わせを行い、密にコミュニケーションをとることが前提となっている点だ。

しかし、被害者は法律の専門家ではないから、検察官と打ち合わせをするとしても、円滑に意思疎通を図ることができるとは限らない。

幸い、このたびの制度設計にあたっては、経済的に恵まれない人には国の費用で弁護士を雇い、また弁護士の紹介も「法テラス」で一括して行うというシステムができることが、ほぼ既定路線となっているようだ。では、その弁護士にはどのような資質が求められるだろうか。

 この制度の中身を熟知していることは言うまでもない。しかし、そういった技術的なことよりも、より重要なことは、被害者の目線で事件を見ることができる資質だ。こういった視座で捉えることができる弁護士は、残念ながら少数に留まっているのが現状だ。

刑事事件では、「加害者の人権」だけが「人権」であると勘違いしている弁護士が多く、加害者の更生という観点から被害者問題を捉えてしまう人が少なからずおられる。

被害者が本当に求めていること、例えば「加害者にきちんと刑罰に服し罪を償って欲しい」「殺された人の名誉を守りたい」「本当は何が起こったのか知りたい」という要望を軽視し、「加害者にも将来があるのだからあなたもそれくらいのことは我慢しなさい」「殺された人にも落ち度があった」などと諭し、結果、被害者が望みもしない捜査段階での示談や公訴提起後の刑事和解を押しつけがましく被害者に勧めてしまう弁護士も多い。言語道断である。

 弁護士はまず、今まで司法試験で学んできた価値観(刑事事件を被告人対国家という図式だけで捉える考え方)を頭の中から一掃し、被害者もまた当事者なのであるという観点に立って、被害者の言い分に素直に耳を傾けることから始めるべきだ。

例えば、法定刑に死刑が含まれる犯罪であるなら、1人殺害された事案であっても、もし被害者が極刑を望むのなら、その要望はできるだけ反映させるよう法律の専門家として最大限の努力を払うのが被害者側弁護士の役割だ。

犯罪の成否とは直接に関係のない、被害者が事件でどれだけ精神的・経済的な苦しみを受けたか、犯行の動機は何なのか、加害者の今後の被害弁償の在り方などについても、被害者の要望を十分に取り入れて検察官に取り次ぐべきだ。

刑の相場はこうだから無理だと頭ごなしに否定したり、それは事件とは直接は関係がないから言っても無駄だとか、どうせ加害者からは一銭も取れないからやっても意味がない、などと切り捨ててしまうような弁護士は被害者支援をしない方がよい。2次被害を与えるだけだからだ。

 先日、大分で日弁連犯罪被害者支援委員会の全国大会があった。そこに加害者の刑事弁護を中心にやっておられる弁護士がおり、大会終了後の懇親会で個人的にお話しを伺う機会があった。

その弁護士は、(自分も被害者支援をやっていると前置きをした上で)「被害者参加制度ができたら、参加してきた被害者と刑事和解をどんどんやって事件をできるだけ早く終わらせ、加害者を1日も早く社会復帰させ更生させるためにこの制度を大いに利用したらよい」と言っておられた。

何か間違っている、勘違いしている、心の中でそう叫んでしまった。この制度は、被害者のための制度なのである。

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