TOPICS(ニューズ・レター)


全国初の被害者参加制度を利用した裁判 傍聴記
 弁護士 望月晶子(2009.2.16)

これ以上はない!? というくらい、お手本のように完璧で見事な被害者参加でした。

 自動車運転過失致死で、被告人はすべて認めている事案でしたが、これまでの刑事裁判を大きく変える、本当に見応えがあるものでした。

被告人は全く反省しておらず、非常にふてぶてしい・・・・それが被害者遺族が被告人質問していく過程で露呈していきました。

 これまでの裁判であれば、 「電話をかけて謝罪に行きたいと言ったが断られました。そのため連絡をしないで謝罪に行ったところ線香をあげるのを断られ、門前払いされてしまいました。でもこれからも謝罪をしていきたいと思って います」  という形式的な反省が表明されて、それで終わっていたと思います。

下手をしたら判決でも「反省」が有利な情状にカウントされていたでしょう。でもそこを、被害者の兄がひとつひとつ聞いていきました(以下のやりとりは趣旨を反映させており、再現としては不正確です)。

「遺族の連絡先を知ってから謝罪に来るまで何日もあったのはなぜか」
 被告人「仕事を休めなかった」

* これをきっかけに、事件を起こしてもう運転はしないと言っていたのに、相変わらずドライバーの仕事を続けていること、謝罪より仕事を優先したことが露呈。

「家に入るのを断ったときに、『2時間かけて来た』とか『警察に言われて来たのに』とか言いましたね」
 被告人「事実2時間かかるし、警察に言われたから」

「犯行現場で、車を降りて手を合わせたり花をたむけたことはあるか」
 被告人「現場を通るときに手を合わせることがある」

「いつ通るのか」
 被告人「仕事で。赤信号で止まったら手を合わせる」

 「青信号だったらそのまま通過するということか」
 被告人「・・・・」


 弁護人からの尋問の最初では、遺族らに向かって頭を下げていた被告人でしたが、遺族がひとつひとつ聞いていくにつれて、どんどんふてぶてしい態度になっていきました。

 大切な人の命を奪ってろくに反省もしない。そんな被告人を目の当たりにして、遺族はどれほど悔しく無念だろうと思うと、傍聴していてたまりませんでした。

しかし、無念を抱えた遺族が丁寧に質問を重ねたからこそ、被告人がこれほどしょうもない人間、反省していない、という真実を裁判で露呈させることができたのだと思います。

画期的な出来事なのに、被害者が参加していることになんの違和感もありませんでした。

 遺族の姿が法廷の中にあること、被告人に質問すること、とても自然で、本来のあるべき?より完成型?な刑事裁判の姿を見た思いでした。

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