逮捕された被疑者は、起訴されるまでの間、釈放されない限り、その後は裁判官と面接した上で、10日から20日くらいの間、その身柄が拘束されることになります。この身柄拘束のことを「勾留」といいます。勾留される場所としては、法務省が管轄する「拘置所」がありますが、警察署の留置場もこれに代用することができるとされています。この場合の警察署の留置場のことを「代用監獄」と呼んでいます。
代用監獄が「代用」である以上、勾留の場所は、原則として拘置所とすべきと考えられますが、実際には、拘置所が空いていても、代用監獄に勾留されることもあり、全体の9割以上は代用監獄に勾留されていると言われています(確かに、拘置所の施設が不足しているという現状もありますが)。従来、代用監獄の施設・管理状況が劣悪であるとの批判もありましたが、最近では改善され、むしろ拘置所よりも施設・管理状況が整っているというのが現状です。
このように、いわば原則と例外が逆転している主な理由は、警察にとっては、被疑者を自己の間近に置いておくことにより取調べやその他の捜査を効率良く行えることにあります。しかし、他方で、被疑者が四六時中捜査官の手中に置かれるため自白強要などの人権侵害が生じやすいなどの弊害もあります。
死刑確定囚が再審で無罪になった事件の多くも、代用監獄の弊害に起因するものであり、代用監獄は冤罪にもつながる可能性があります。
1980年、政令が改正され、取調べを担当する捜査官と勾留事務を担当する留置担当官を分離することとし、この弊害の防止を試みましたが、その後も、食事時間やトイレなどの処遇についても取調べを担当する捜査官が指図するなどといった例が報告されており、依然として解消されていません。
平成17年5月18日、明治41年制定の監獄法が約100年ぶりに大改正され、「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」が成立しました。この法律は、名古屋刑務所の受刑者死傷事件をきっかけに、刑務所の在り方を見直した結果作られたものです。
しかし、この法律は、専ら受刑者(裁判により言い渡された刑を受けている者)に関するものであるのに対し、先程述べた代用監獄問題は、裁判前や裁判中に身柄を拘束されている者に関するものなので、この法律によって代用監獄の問題が解消されたわけではなく、依然として今後の課題として残っています。