- いま国会において総合法律支援法案が審議されていることはご承知の方も多いと思います。
これは、公費による市民への法律的サービスを行うにあたり、「日本司法支援センター」(以下単にセンターという)という独立行政法人を設立し、このセンターで弁護士や司法書士などの法的サービスを受けられるようにするものです。
そして、このセンターが行う業務のなかに犯罪被害者支援業務が独立の項目として入れられています。この法案の中では、犯罪被害者支援に関する定めは大きく分けて3つの方法により定められています。
- その第一は、犯罪被害者援助の本来業務として定められているものです。
法案では次のように定められています。(当初の案文から国会で修正されている内容も含む) 「被害者等の援助に関する次に掲げる情報及び資料を収集して整理し、情報通信の技術を利用する方法その他の方法により、一般の利用に供し、又は個別の依頼に応じて提供すること。この場合においては、被害者等の援助に精通している弁護士を紹介する等被害者等の援助が実効的に行われることを確保するために必要な措置を講ずるように配慮しなければならない。
- イ
- 刑事手続への適切な関与及び被害者等が受けた損害又は苦痛の回復又は軽減をはかるための制度その他の被害者等の援助に関する制度の利用に資するもの
- ロ
- 被害者等の援助を行う団体その他の者の活動に関するもの(第三〇条第一項五号)」 これによると、このセンターが行う犯罪被害者支援業務は「情報、資料の収集、整理」と「その提供」ということで、犯罪被害者支援弁護士の紹介などもその一環として行われるというものです。これを「本来業務」と呼んでいます。ここでは、あくまで情報提供が主眼です。
- 業務の第二は、委託業務方式による定めです。法案では次のように定められています。
「支援センターは、前項の業務のほか、これらの業務の遂行に支障のない範囲内で、第三四条第一項に規定する業務方法書で定めるところにより、国、地方公共団体、民法第三四条の法人その他の営利を目的としない法人又は国際機関の委託を受けて、被害者等の援助その他に関し、次の業務を行うことができる。
一 その委託に係る法律事務を契約弁護士等に取り扱わせること。
二 前号の業務に付帯する業務を行うこと。(第三〇条第二項)」
これによるとセンターが国などから被害者援助の委託を受けて、これをセンターと契約をしている弁護士に取り扱わせて被害者援助をすることができるようになっています。
たとえば、センターが国から犯罪被害者支援の委託をうけ、これを各地の弁護士会の犯罪被害者支援委員会の弁護士あるいは弁護士会と契約を結び、研修を受けている犯罪被害者支援に精通した弁護士に支援活動を行わせる体制を整えることができるようになります。
そうすると、犯罪被害者はセンターの公的費用でセンターの契約弁護士に一定の支援活動をしてもらうことができる可能性があります。ここで、「できる可能性」といったのは、この内容が「業務方法書」で定められることになっていて、法案上からは明確になっていないからです。
被害者がセンターに頼んだら一体どんな支援弁護を受けられるのか、その費用はどうなるのか、といったことがまるではっきりしていないのです。そこで、現在、日弁連犯罪被害者支援委員会では、できるだけ内容豊富な犯罪被害者支援弁護を公的費用で受けられるようにするために、プロジェクトチームをつくって、具体的なプランを作成中です。
どんな業務を犯罪被害者支援弁護として定めるか、弁護士に対する全国統一した研修マニュアルはどうするかなど、いろいろ検討しています。ぜひ、あすの会のご意見もどしどし日弁連にお寄せください。
- 業務の第三は、民事法律扶助による方式です。(第三〇条第一項二号)
これは現在行われている、民事法律扶助法による民事裁判や調停などを利用する時に資力のない人にその費用を立て替える制度をセンターで行うようにするものです。
しかし、現在の民事法律扶助法では、犯罪被害者が損害賠償の訴訟や調停をする場合に限られ、告訴、検察審査会申立、法廷等付添い、意見陳述の援助、記録の閲覧謄写説明、マスコミ対策、検察官や警察官との連絡、犯罪被害者給付制度の利用など犯罪被害者支援弁護は含まれていません。
そのために、新しくできるセンターに民事法律扶助が移行しても、これらの犯罪被害者支援弁護は含まれないことになってしまうおそれがあります。
では現在はどうしているかというと、これらの犯罪被害者支援弁護は弁護士会の法律扶助協会が日本財団からの援助金や贖罪寄付などを資金におこなっている自主事業によって行っているのです。ですから、もしこれがセンターへの移行により廃止されてしまうと、犯罪被害者支援弁護への資金援助は全くなくなってしまい、現在よりも後退した状態となってしまいます。
ですから、日弁連ではこの点も鋭く指摘して、このような後退は絶対に許されないので必ずいずれかの方式によりセンター業務として実現できるように、国会に働きかけて行く予定です。
- このように、司法支援センター方式による犯罪被害者支援弁護の内容は、
法律ができただけではほとんど不確定なものですから、いまからの内容設定が非常に大切となります。あすの会をはじめ、各地の支援組織、弁護士会など関係諸団体が一致協力してよりよい内容の公的犯罪被害者支援制度を作るため奮闘していきましょう。
※注 法案は4月27日に衆議院本会議を全会一致で通過し付帯決議がつけられました。その中には、『十全の財政措置を含む必要な措置を講ずるように努めること』という財政措置項目と、『国民の法的ニーズに応えられるよう常に見直しを行うこと』という見直し項目が入っています。
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