TOPICS(ニューズ・レター)


弁護人の裁判欠席
― 山口県光市母子殺害事件より ―
  (2006.8.10)
〜被害者の立場から〜
幹事 本村 洋
2006年3月14日。最高裁判所で私の事件の弁論が開催される予定であった。
広島高裁判決から実に4年間経過したことになる。 弁論当日、遺族はそれぞれ福岡、岡山、鹿児島、山口から上京した。しかしながら、最高裁判所での4年ぶりの裁判は弁護人の欠席で開かれなった。

これほどの屈辱があるだろうか。 最高裁判所で弁論が開かれることは希で、これは死刑判決が下される可能性があることを意味する。

この事態を受けて、これまで5年以上担当してきた弁護士に代わって、急遽死刑廃止運動のリーダー格である安田・足立両弁護士が登場してきた。実に、最高裁弁論期日の2週間前にである。

そして、その交代したばかりの彼らが最高裁を欠席した理由の主たるものは、以下である。
  1. 弁護を引き受けたばかりで接見や記録の検討を重ねる時間が必要(3ヵ月延長を要求)
     
  2. 弁論当日は、日弁連会務である「裁判員制度下での模擬裁判」の研修のリハーサルがある 
上記理由は到底納得できない。彼らが弁護を引き受ける前から弁論期日は決まっていたのであり、時間がないとか、別の予定があるなどは言い分けにならない。

上記理由の1)が許されるならば、被告人は裁判期日の直前に弁護士を変更し続ければ、裁判を何回でも遅延することができる。

また、上記理由の2)などは、許し難い。弁護士の職務は裁判で弁護することである。それが日弁連会務を優先し、本当の裁判を欠席するなど背任行為も甚だしい。

今回の行為は、死刑判決を回避するための訴訟遅延行為以外に考えられない。

そして、何よりも悔しいのは、2006年2月4日に私は両弁護士に会っていることだ。
私は足立弁護士の依頼で「死刑執行停止に関する全国公聴会〜被害者支援と死刑問題〜」という死刑廃止運動を行っている弁護士の集まりに出席し、被害者の苦しい状況を懸命に訴えた。
その話を聞いた安田・足立両弁護士がこのような行為を行うことが悔しくてならない。

現在、私は裁判を欠席した安田・足立両弁護士の所属する弁護士会に対し、両名に対する懲戒請求をしている。

今回の裁判欠席に対し、日弁連が懲戒請求を認めない場合は、今回の弁護活動は正当な弁護活動であるということを認めたことになる。

私は、日弁連が社会正義を実現するため、厳粛な判断を下し、二度と弁護士の身勝手な行動で法廷を乱し、被害者を侮辱することがないようにして頂きたいと切に願う。

〜法律家の立場から〜
弁護士 山上 俊夫
裁判の日は当事者の都合を聞いて決めます。一度決まった裁判の日は、「よほどのこと」がないと変更してもらえません。

山口県光市母子殺害事件の弁護人は、裁判の日に出られないことがわかっていながら裁判の日の直前に事件を引き受けましたが、最高裁に「よほどのこと」はないと判断されて裁判の日を変更してもらえず、平成18年3月14日の裁判を欠席しました。

殺人罪のように重い罪の裁判では、弁護人が出席しないと法廷を開けませんので、法廷が開けなくなりました。
私は、本件では、法廷を開いてもよい事情があったと思います。

平成14年10月に上告趣意書が検察側から提出された後、弁護側には3年以上反論の機会があり、前任の弁護人から詳細な答弁書が出されています。

3か月も前に裁判の日が指定されながら、裁判の日の直前に弁護人を解任し、今まで全く出ていなかった事実を取り調べるよう求めるのは、裁判を遅らせようとするもので、正当な訴訟行為でないと言われても仕方がないと思います。

検察官も、同趣旨のことを述べて、弁護人欠席のまま法廷を開くよう求めました。
最高裁も、弁護人が出席しないことに何ら正当な理由はなく、極めて遺憾と述べました。
しかし、これだけはっきり弁護人を非難しながらも、最高裁が法廷を開かなかったのは、残念です。

刑事訴訟法が平成16年に改正され、裁判所は、弁護人に裁判の日に出て来るよう命じることができます(出頭在廷命令)。
この命令に反すると、過料の制裁があり、また、弁護士会に懲戒請求されますので、弁護人の裁判欠席ということはこれからは少なくなると思います。 

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