TOPICS(ニューズ・レター)


公訴時効をめぐる被害者の置かれた実状
  (2010.6.1)
全国犯罪被害者の会スペース1.公訴時効の完成を受けての無念な思い 全国犯罪被害者の会スペース 幹事 林 良平
全国犯罪被害者の会スペース 2.公訴時効が廃止されての思い全国犯罪被害者の会スペース幹事 内村和代

全国犯罪被害者の会スペース1.公訴時効の完成を受けての無念な思い全国犯罪被害者の会スペース 幹事 林 良平

あすの会設立時から、長期未解決事件被害者の問題は分科会が設けられ、それに取り組んできました。結果として4月27日公訴時効の撤廃/延長が可決成立したことは大変喜ばしいことです。特に即日施行というあまり前例のないことで、その日に時効完成の事例のご遺族はどれほど救われた思いでしょう。

このスピード施行は政府の善政だと評価します。それに引き替え、私の妻の事件は約3ヶ月前の今年1月24日の深夜に時効が完成しました。あの時の不合理に対する強い怒りと悔しさ、悲しみ、無念さは言い表せないほどでした。

 可決成立後の報道にはいろいろと賛否両論が渦巻いていました。その中で、ある被害当事者は「公訴時効の撤廃/延長により被害者や家族には、よりつらい制度になる可能性がある。 25年を超えてずっと遺族で居続けろというのは負担が大きい」「時効までに自分の人生を振り返って事件に区切りをつけ、悲しみから回復していくことも必要」と反対意見を述べていました。

不思議というより理解不能です。時効が過ぎてしまった被害者は、遺族や被害者ではなくなるのでしょうか。「事件に区切りを付け悲しみから回復してゆく……」は「犯人を逮捕できなくなることが、1つの区切りになる、回復してゆくきっかけになる」という論法です。

このふたつを帰納法で敷衍すれば「25年も遺族であることは、ものすごい負担だから一刻も早く被害者としての立場を棄てなさい」という結論に至るのではないでしょうか。

私の妻には時効の完成通知書が届きました。「15年経ったから、被害者ではなくなったと理解をしなさい、事件を忘れなさい、ほら、負担がなくなったでしょう」と言っているのでしょうか。

 妻は毎日、後遺症による痛みと戦い心身ともに苦しみ、家族は介護を続けねばなりません。時効成立の通知によってさらに、二次被害を突き付けられた気がしました。

妻を襲った犯人は数年前またも法を犯しました。逮捕され指紋を採られ、その指紋が一致したのです。しかし時効制度で捜査ができなくなりました。

 時効とはいったい何のためにあるのか再考してもらいたいです。この犯人を逮捕してもらいたいです。

司法の裁きを受けさせたい。私は遺族ではありませんが、犯人が逃亡したままのご遺族のお気持ちは私以上であると推察します。この反対論が被害者や社会に受け入れられるとは全く思えません。

 私自身は、「時効の撤廃は安全な街づくり、安全な国づくりの第一歩」と思っています。なぜなら、交通事故は厳罰でずいぶん減少しましたから、これと同じように殺人事件もこの法律で減少すると確信しているのです。

 今回の法律は「人を殺した罪」で「死刑相当」が対象であり未遂事件は対象外だったことは残念ですが、今後の見直しに期待します。

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全国犯罪被害者の会スペース2.公訴時効が廃止されての思い全国犯罪被害者の会スペース 幹事 内村和代

 事件が起きてから13年が経ち、あと2年もすれば犯人は無罪放免。自ら犯した罪を償うこともなく、追われることもなく、堂々と社会生活を送れるようになる……。公訴時効の廃止が決まったのは、まさにそんな時でした。

 1997年(平成9年)2月、千葉市内の自宅で、定年まであとわずかの高校教諭だった夫は強盗に遭い殺されました。事件発生後、毎月1回、捜査状況を知るために管轄署を訪ねています。

ずっと付き添ってくれている夫の友人、そして私の友人には感謝の言葉もありません。けれども一向に手がかりは見つかりません。

物的な証拠も乏しく、犯人に結びつく目撃情報も少ない中、過ぎていく日々はとてもつらいものです。一人暮らしになり、犯人が近くにいるかもしれないという思いから自然の音にも恐怖を感じ、長年住み続けた家から2002年8月に転居しました。

夫が苦労して購入した土地家屋は殺人現場だったということで流通の2分の1という価格でした。

 あすの会に入ってから、東京、浦和、小田原、横浜、千葉の裁判所で同じ犯罪被害者として傍聴を続けました。傍聴するたびに、自分の裁判に参加できないという悔しい思いが募りました。

そして、それまで遠いことに思えた時効という壁が、刻一刻と迫ってくるにつれて、果たして犯人は捕まるのだろうかという不安が増していきました。

 犯人につながる情報提供を依頼するためにビラ配りをした回数は13回に上ります。公的懸賞金の制度ができたときには、その第一回の案件として取り上げてもいただきました(前後には個人的に懸賞金もかけています)。

警察は捜査のために本当によく動いてくださり感謝しています。しかしこのまま犯人がつかまらなければ、時効という制度がある限り、すべては無に帰してしまう。

そのことが心に重くのしかかっていたのです。そして今年の4月27日、公訴時効がついに廃止されました。この日をどんなに待ち望んだことか、とっても言葉では言い尽くせません。

どんなに時間がたとうと、犯人が犯した罪は消えるわけではなく、遺族の苦しみは一生続くのです。罪の償いは絶対にしてもらわなければなりません。逃げ得は許さない制度ができたわけですから、犯人には自首をしてほしい。

たとえ自首しなくても、今後は、これまで以上に警察とともに犯人を追いつめていき、犯人が捕まるまで家族とともに頑張りたいと思っています。

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