「犯罪被害者のための総合的施策のあり方に関する提言」(自由民主党)が出されました
あすの会は、「自由民主党政務調査会司法制度調査会経済活動を支える民事・刑事の基本法制に関する小委員会」に2月から出席してまいりましたが、このたび「犯罪被害者のための総合的施策のあり方に関する提言」(自由民主党)がまとめられ、6月15日に杉浦正健内閣官房副長官に提出され、翌16日には小泉総理に対してその実現を要望されました。
両日とも当会の代表も同席しました。
提言は非常に立派なもので、被害者の尊厳を認めてこなかったことを反省し、被害者の権利を尊重し、訴訟にも参加させなければならないことが明記されているほか、経済的、精神的に被害者を支援することは国の責務とする犯罪被害者基本法を早急に策定して、必要な施策を講じなければならないとしています。
細かい点は別として私たちの主張がほぼ全面的に認められておりますので、是非ご覧ください。
立派な提言が出たとはいえ、これを立法化し、具体化してゆく過程では、既存の制度や法文化との衝突をきたす様々な困難が予想され、従来にもまして活動を続けなければならないと考えています。凶悪犯罪は相変わらず増え続けています。
被害者が安心して生活できる社会をつくるため、今後ともよろしくご支援を願い上げます。 委員会は現在までに8回開かれましたが、あすの会も7回出席してきました。2月26日には、岡村代表幹事が意見陳述を行いました。
平成16年6月15日
犯罪被害者のための総合的施策のあり方に関する提言
(経済活動を支える民事・刑事の基本法制に関する小委員会)
自由民主党政務調査会
司法制度調査会
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はじめに
自由民主党政務調査会・司法制度調査会・経済活動を支える民事・刑事の基本法制に関する小委員会では、本年2月から14回にわたって「犯罪被害者のための総合的施策のあり方」について精力的に検討を進めてきた。わが党は、これまでも犯罪被害者のための施策について強い関心を寄せてきたところであるが、昨年、小泉総理が、犯罪被害者及びその家族(以下、あわせて「犯罪被害者」という。)の悲痛な声を受け、「生命の尊さ」を見つめ直して犯罪被害者のための施策の検討を進めるよう指示したことをきっかけに、小委員会において論議を重ねてきた。
小委員会では、犯罪被害者や被害者支援団体からヒアリングを実施するだけでなく、委員会の開催に当たっては、犯罪被害者や被害者支援団体の参加を得、犯罪被害者の目線で検討を進めた。その結果、犯罪被害者が一日も早く被害から回復し、安心して社会生活を送れるよう、これまでの支援の立ち遅れを取り戻し、犯罪被害者のための総合的な施策を実現することが政治の責任であるとの認識で一致した。
こうした認識のもと、犯罪被害者に対する施策を総合的かつ迅速に実施していくためには、
- 一日も早く基本法を制定し、犯罪被害者の権利を守り、支援する原則を明らかにした上、犯罪被害者のための施策の理念、総合的施策、施策を実施・推進していくための体制を含むグランドデザインを明らかにすること、
- 基本法にのっとり、総合的施策の全体像を盛り込んだ基本計画を作成すること、さらに
- 基本計画に従ってさまざまな施策を、期限を定めて着実に実行していくこと、
が必要である。
私たちは、直ちに基本法の制定に向けた取り組みに着手するとともに、小委員会において、これまで提出された要望(課題)について引き続き施策の具体的な内容を検討するものである。 国は、本提言に述べる犯罪被害者のための施策の基本的な考え方に基づき、現行法制のもとで実施できるものについては、予算の確保、運用上の工夫を行うことにより、迅速に実現していくべきである。さらに、政府は、法律改正などの措置が必要な施策については、わが党主導のもと、実現のための基本計画を策定し、期限を定めて着実に施策を実現していくべきである。
近年、オウム真理教関係者による地下鉄サリン事件や大阪池田小学校児童殺傷事件など、何の落ち度もない者が突然生命を奪われ、あるいは身体を傷つけられるという事件が多く見られるようになってきた。犯罪被害が多発し、国民の誰もが犯罪被害者となる可能性が高まっている中で、犯罪に巻き込まれた被害者の心身および社会的・経済的損失はきわめて大きいにもかかわらず、十分な支援を受けられないまま、犯罪被害者が立ち直れず社会から孤立している状況が見受けられる。
わが国における犯罪被害者のための施策の充実については、これまでも世間の耳目を引く事件の発生のつど要望としてあげられ、近いものでは平成12年に犯罪被害者保護二法が成立し、平成13年には犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律が大きく改正されるなど、一定の前進が見られた。
しかし、これらの施策は個別的なものにとどまり、犯罪被害者が望む継ぎ目のない支援や刑事手続上の地位の確立などを含む総合的施策の実現はいまだ達成されていない状況にあり、次のような問題が顕在化している。
- 刑事司法においては、犯罪被害者は被害を受けた当事者として明確な位置づけがなされていないため、被害直後から捜査・裁判の一連の刑事手続過程で、犯罪被害者による真実を知りたい、真実を知って欲しいとの基本的要望すら十分に満たされておらず、司法への不信が根強く見られる。
- 犯罪被害者が犯罪のダメージから立ち直るための支援(以下、「犯罪被害者への支援」、「支援」という。)は、犯罪被害発生後間もないほど効果的とされるが、地域や犯罪の種類等により支援体制に差があるため、実際には、支援の手が差しのべられることなく長期間にわたって放置される悲惨なケースが見られる。たとえ、現在行われている被害者支援を受けることができたとしても、これは主として刑事裁判が終わるまでであって、犯罪被害者は、その後の悲しみや喪失感を癒すすべもなく放置されている。
- 支援のための一元的な体制が整備されていないため犯罪被害者への支援をめぐっては、被害回復の過程で被害者支援を担当する機関や担い手が入れ替わり、縦割りの弊害や相互連携のまずさから、被害者が誰に支援を頼んだらよいのか混乱することも多い。
- 犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律が改正されても、被害者に対する給付金の支給は十分と言い切れないばかりか、住居の確保、医療や年金の手当てなど日常生活を送るための支援も必ずしも十分ではなく、犯罪による精神的なダメージを治療する専門家の数も決して多くはない。
- 犯罪被害者に接する関係者は、捜査関係者、医療関係者、学校関係者、行政の担当者、報道関係者など様々で、犯罪被害者に対する配慮が必ずしも十分ではない場合も多く、犯罪被害者に二次被害が発生し、被害のダメージからの回復がさらに遅れるケースが少なくない。
第2 犯罪被害者のための施策についての基本的な考え方 |
- 【1】なぜ国による犯罪被害者のための施策が必要か
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国は国民に安心で安全な社会生活を提供する責務を負っている。しかし、通り魔的な事件の発生を防ぎきれず、しかも何の落ち度もない国民に被害が生じてしまった事実は、国がその責務を十分果たしていないことを示しているともいえる。
もちろん被害者を傷つけたことについて、本来責任を負うべきは加害者である。したがって、犯罪被害者は、加害者に対する損害賠償請求を行い、これによって民事的な被害の補填・補償を受ける権利を有している。しかし、加害者に十分な資力がないため、民事手続による被害の補填・補償が実効的に機能しない結果、犯罪被害者が泣き寝入りしている場合も少なくない。
こうした犯罪被害者の被害が補填・補償されない状態が放置されると、法秩序全体に対する国民の信頼が損なわれることにもつながりかねない。そこで、このような場合には、社会秩序や公益の維持のため、国による犯罪被害者のための施策が実施されなければならない。
また、国が加害者を適正に処罰するためには、捜査・公判への犯罪被害者の協力が欠かせない。しかしながら、これまで長年にわたって、このような犯罪被害者の刑事手続での協力の面ばかりが強調され続け、犯罪被害を受けた当事者に、尊厳ある主体としての十分な配慮がなされてこなかったことは否定できない。
このような状態が続くと、犯罪被害者が捜査・公判手続に協力しなくなり、刑事手続や国家に対する信頼を喪失し、国民が安心して生活できる社会を維持できなくなる惧れがある。
さらに、加害者は、釈放後、社会復帰できるよう国によって助けられるのに対し、犯罪被害者は、裁判後、加害者が刑務所で本当に反省しているのか、謝罪の気持ちがあるのか、出所後きちんと更生していけるのかを知らされることなく放置され、生涯苦しみ続けることにもなるのであり、不安であるとともにやりきれない気持ちになる。
したがって、犯罪被害者の刑事司法への信頼を取り戻すためには、これまでのように刑事司法への協力の側面ばかりを強調するのではなく、犯罪被害者を被害を受けた当事者として適正に取り扱うべきであり、これは、まさに国としての責務である。 このように国には犯罪被害者を支援する責務があるとともに、国は、国民に対し、犯罪被害者の立場への理解を求め、犯罪被害者が地域社会の助力を受けながら犯罪のダメージから回復していくことができるようにしなければならない。
- 【2】犯罪被害者のための施策の目的、理念、国の責務は何か
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- 目的
犯罪被害者の権利を守り、犯罪被害者の被害の回復及び社会復帰を支援するとともに、犯罪被害者の刑事手続における地位を確かなものとすることにより、社会秩序と公益の維持及び刑事司法への国民の信頼の確保を図り、もって国民が安心して安全な生活を送ることができる社会の実現に寄与すること
- 理念
犯罪被害者は、個人の尊厳が尊重され、その権利に基づき、被害の内容、程度、状況等に応じた適切な取扱いを受けるこ とができる地位を有すること。ただし、国による犯罪被害者のための施策の実施は、加害者の民事責任及び刑事責任を減じるものではない こと
- 国の責務
国は、犯罪被害者が受けた被害の回復及び犯罪被害者の社会復帰を支援する責務を負い、犯罪被害者のための施策を実現するため、法制上及び財政上その他必要な措置を講じなければならないこと
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- 【1】総合的施策
(1)刑事手続における犯罪被害者への情報開示および参加の実現
- 犯罪被害者保護二法により、これまで意見陳述、公判手続の傍聴への配慮、公判記録の閲覧謄写など、被害者に配慮した制度が整備されてきたが、依然として改善すべき問題点が残っている。
これまでは、刑事手続への協力の面ばかり強調され、犯罪被害者は尊厳ある主体としての十分な配慮を受けないできた。犯罪被害者が被害を受けた当事者であることを明確にし、刑事手続における犯罪被害者の参加を実現し、刑事手続の中で被害者の意見をより反映していくことが必要である。
【具体策として考えられること】
- 犯罪被害者に対する加害者情報などに関する情報等の提供の拡充
・起訴・不起訴の別
・判決の内容
・矯正施設内における処遇
・仮釈放
・帰住先
- 犯罪被害者の意見をより反映させるための刑事手続の見直し、など
- (2)被害回復のための経済的支援の拡充
- 犯罪被害者の経済的な損害を一刻も早く回復し、社会で自立して生活できる仕組みを整える必要があり、犯罪被害者給付金制度を拡充するとともに、様々な生活面(医療、年金、住居等)の支援を行っていく必要がある。
【具体策として考えられること】
- 犯罪被害者給付金制度の拡充(給付金の金額の増額、受給対象の拡大、支払いの迅速化)
- それまでの住居に居住することが困難になった犯罪被害者に対する公営住宅への優先的入居の確保
- 重い後遺症を負った犯罪被害者に対する医療の給付や年金の手当て
- 就職あっせん等生活の糧を得るための機会の提供、など
- (3)精神的支援策の充実
- 一般的なものとしては、医療機関・保健所において、精神保健相談、PTSD対策研修、研究事業が実施されているが、犯罪被害者に特化した精神的ケアの体制は確立していない。このため、犯罪被害者が専門的なケアを受ける体制を整備する必要がある。
【具体策として考えられること】
- 犯罪被害者への精神的支援の在り方及びPTSD等各種の心理的外傷についての調査研究等の推進、など
- (4)支援の担い手の育成及び支援のための幅広いネットワークの基盤整備
- 犯罪被害者には、被害発生直後から犯罪被害者が立ち直るまでの間、継ぎ目なく様々な支援が行われるべきであり、被害者の置かれた状況に応じて、息の長い支援が必要である。
また、広く全国どこでも十分な被害者支援を実施するためには、犯罪被害者支援を担当する捜査関係者や被害者支援員などを拡充するのみならず、例えば現在、加害者の改善更生の過程で被害者と接する機会がある全国約5万人の保護司の活用なども検討すべきである。
さらに、捜査機関等において被害者支援に携わる人々と民間被害者支援団体のボランティアとのネットワークを創り上げていく必要がある。
現状では犯罪被害者に対する配慮が十分とはいえない結果、担当者によって対応の仕方がまちまちであったり、組織間・担当者間の連携が円滑さを欠き、犯罪被害者にとって二次被害の原因ともなっている。
被害直後の犯罪被害者に対する対応が犯罪のダメージからの回復の成否に極めて重大な影響を及ぼすため、細心の注意が求められる。
犯罪被害者への支援にあたっては、日本司法支援センターや日本弁護士連合会・弁護士会その他の関係機関とも連携しながら、犯罪被害者を支援する弁護士等の確保や、犯罪被害者に必要な情報を提供していく必要がある。
【具体策として考えられること】
- 警察庁及び検察庁その他の関係機関における犯罪被害者支援のための人的体制の整備
- 更生保護官署及び保護司の協働態勢による継続的な支援体制の整備
- 国と民間被害者支援団体との連携強化
- 捜査関係者、裁判関係者、被害者支援ボランティアヘの研修
- 日本司法支援センターとの連携や日本弁護士連合会・弁護士会その他の関係機関の協力による犯罪被害者支援弁護士等の確保・情報提供等必要な援助の提供
- 犯罪被害者が安全で平穏な生活を確保できるための一時保護、など
- 【2】基本的施策を実施、推進するための体制作り
(1)一元的な推進体制
- このように犯罪被害者のための総合的施策は、多岐にわたる内容を含んでいるため、複数の機関がかかわっていることが明らかになった。今後は、犯罪被害者のための総合的施策を一体化して推進していかなければならないが、これまでの各省庁における個別的な犯罪被害者のための施策の取り組みを見ても、総合的施策の推進をそれぞれの省庁に任せたままにしておくことはできない。
犯罪被害者のための総合的施策を実現するためには、省庁を超えた横断的な体制が必要である。しかも、総合的施策を着実に実現していくためには、それぞれの施策の実現について、進行状況を総合的に管理していく必要もある。したがって、総合的施策の実現のためには、省庁の縦割りにとらわれない横断的な体制を作り上げるべきである。
【具体策として考えられること】
- 政府内に総合的な基本政策を実施、推進するための組織、有識者も参加する会議等を置く。
- この組織、会議等において、犯罪被害者対策の基本計画案を作成し、実施状況の監視や推進を行う。
- (2)人員及び関連予算の確保
- これまで述べた犯罪被害者のための総合的施策を実施するためには、そのための人員及び関連予算の措置が必要であることは言うまでもない。
犯罪被害者のための総合的な施策は多くの省庁及び関係機関の施策の集合体であるが、省庁横断的な体制のもと、各省庁等において犯罪被害者のための施策を拡充し、また、新たな施策を打ち立てるにあたっては、それぞれの施策が十二分に行われるような予算措置が講ぜられるべきである。
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私たちは、犯罪被害者のための基本法を制定し、犯罪被害者の権利を守り、支援する原則を明らかにした上、犯罪被害者のための施策の理念、総合的施策、施策を実施・推進していくための体制を含むグランドデザインを明らかにするとともに、基本法にのっとり、総合的施策の全体像を盛り込んだ基本計画を作成し、さらに、基本計画に従ってさまざまな施策を、期限を定めて着実に実行していく。
そのために、総合的施策の全体像を明らかにし、検討すべきテーマに優先順位をつけ、緊急かつ必要性が高いものから着手し、着実に実現していくため、進行の管理と施策の評価を行っていく必要がある。
現在、わが党の憲法調査会が犯罪被害者の権利の憲法上の位置づけについて議論を行っていることを受け、憲法調査会の動向も見定めながら、小委員会において、犯罪被害者の権利について検討を行っていく必要がある。
なお、今回の検討作業において抽出された対応策のうち、現行法制度の下で実施できるものについては、基本法の制定過程と併行して、迅速に実施していくことが必要である。
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