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全国犯罪被害者の会■マーク シンポジウム・大会
第4回全国犯罪被害者の会 シンポジウム・総会
2002.12.8
-代表幹事挨拶・ご来賓からのご祝辞の概要 犯罪被害者の体験報告
-シンポジウム 総  会
-決  議  懇親会
2002年(平成14年)12月8日(日)、東京の日比谷三井ビル8階ホールにおいて、全国犯罪被害者の会(あすの会)主催によるシンポジウムおよび総会が、全国犯罪被害者の会を支援するフォーラムの支援を受けて開かれました。


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代表幹事挨拶・ご来賓からのご祝辞の概要 
代表幹事  岡 村   勲
会の発足から今日に至るまでの活動経過およびこれからの抱負が語られ、ヨーロッパ調査の折々に耳にした『被害者を証拠品にしてはいけない』という言葉に意を強くした、日本の司法制度についても早急に改めなければいけない、と固い決意を込めて訴えました。

日本弁護士連合会会長  本 林   徹 氏
現在、日本弁護士連合会は、犯罪被害者に対する総合的な支援に関する提言・発表を目指し、犯罪被害者支援委員会を中心に以下の3点が検討されていると述べられました。
  1. 犯罪被害者の救済・支援を目的とする犯罪被害者基本法への立法活動
  2. 国費による被害者支援弁護士制度の新設
  3. 被害者参加の問題には、刑事訴訟への参加および修復的司法といわれる和解・対話という2つの参加方法
 さらに、「わが国の刑事司法が、公の秩序維持という観点そのためだけにあっては絶対ならない。深刻な被害を被って苦しんでいる被害者の方々の権利保護というものが、十分に同時になされなければいけないと考えている。」と語られました。そして、犯罪被害者の権利確立を目指す当会とともに歩むという力強いお言葉を、日本弁護士連合会の決意として結んでいただきました。 2003年度秋の人権擁護大会(日弁連主宰)において、シンポジウムのテーマとして「被害者の刑事司法への参加」を予定しておられるとのご報告もされました。

全国犯罪被害者の会を支援するフォーラム代表  高 橋   宏 氏
 フォーラムメンバーのご紹介後、当会の運動を日本人の正義に訴える正しい運動と評価してくださり、「この運動の完結こそが、わが国の正義、公平の確立となり、現在日本の閉塞感に大きな希望を与えるものだ。」と述べられ、力強い支援の約束をしてくださいました。

東京都知事 石 原 慎太郎 氏 メッセージ
全国犯罪被害者の会第四回シンポジウムの開催を、心からお慶び申し上げます。  加害者の人権が過剰に守られていることに対比して、被害者やご親族の人権はほとんどないがしろにされ、悲惨な状況に置かれています。

被害者と加害者の立場が倒錯していることは、社会的にも不平等なことであり、その是正は、犯罪被害者という限られた人達の立場を守るためだけではなく、国家社会の健全な維持のために不可欠な良識の育成と発展のために重要なことです。

 現在、被害者やご親族の精神的な支援活動や被害の回復や軽減を図るため、全国の被害者支援センターや被害者相談室が活動していますが、このシンポジウムが、大きな歪みを生じてきている日本の社会を正常化し、健全な発展を導いていく道標となることを念願しています。

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犯罪被害者の体験報告

  犯罪被害者となった5組6人の方から警察の対応、家族の経済的負担、少年法への不満、精神障害者の犯罪などの体験報告があった。
浦 中 邦 彰 さんの母
邦彰は、夜中に友達の車で家の前まで送ってもらい下車したところ、通りがかった暴力団組長にいきなり殴りつけられたのです。組長は、愛人の事で奥さんと口論をした直後で腹を立てていて、その腹いせに息子たちに殴りかかったのです。警察の度重なるミスにより見殺しにされ、暴力団たちに拉致され、リンチを加えられ、殺されました。

裁判が始まって、事件は認めるが殺意は無かったと言われても、反論することもできず、傍聴席に座って、黙って裁判を見守ることしかできないのです。私の場合、最初から、裁判には弁護士も兵庫支援者センターの方々も付き添ってくれています。裁判記録の謄写も、11月19日には私宅へ届きました。2年前の話からすると皆様の運動の成果なのでしょうか。私は恵まれていると感謝しています。全国の犯罪被害者の方々が一日も早く支援を受ける事ができますよう心から祈っています。発表の場を与えて下さった岡村先生、両手の温もりを忘れません。

山 本 忠 国 氏
私は、静岡に住む48歳の会社員で、妻と長男・次男の4人家族です。 長男鉄兵が被害にあったのは、1996年9月15日当時、高校2年生16歳の時でした。何ら関わりの無い事で数人の成人から殴る蹴るの暴行を受け意識不明の重体となり、入院直後からの手術費用等の高額な医療費、車椅子やベッド・住宅改築に要する費用等の経済的負担は、まだ家のローンも残っている我が家にとっては非常に大変なものでした。

また、民事訴訟を起こし、何千万という賠償額が判決として下されても、加害者側に支払能力がなければ、訴訟を起こした費用もすべて被害者側の経済的負担となって重くのしかかってきます。

犯罪被害者給付金制度も多少改正されましたが、まだまだ十分だとは思えません。加害者には、国の費用で国選弁護人がつけられ、刑務所の中での治療費も国の負担だと聞きます。被害者・遺族・家族が被害から一日も早く回復する為にも、早期かつ簡易な手続きでの経済的支援を強く望みます。

鈴 木 八恵子 氏
私は、一人息子を罪も無いのに残虐な方法で殺されました。悪い事をして殺されたのかと心配しましたが、結局、金目当の犯行でした。何も悪い事をしていないのに酷い殺され方をして、どんなに苦しく、痛く、悔しかったかと大声で泣き叫びました。同時に、少年法のことを考えさせられました。どんなに鬼のような殺人者でも、人権という少年法に守られて前科もつかず、2、3年で少年院を出てしまう。

今の法律では、絶対死刑にもなりません。日本の法律は正しい者の味方でなく、悪い奴の味方だと思います。無念にも死んでいった被害者の事を考えない、生きていれば鬼より悪い殺人者でもかばう法律です。少年審判では、被害者側は出席できず、加害者側だけの裁判で、自分の都合のいい事だけ話をすると思います。遺族の言い分は何一つ通じず、不公平な裁判です。そして、いつの間にか何処かの少年院に入ってしまい、なんの知らせもありません。息子を殺した少年二人は、三年も経たないのに出所しました。息子が哀れで涙の出ない日はありません。

殺人被害者のご遺族2人
姉妹で (1)事件概要と遺族感情 (2)訴えたいことについて を発表させていただきました。
  1. 平成11年4月、父(68才)と祖母(89才)が自宅で、精神病歴のある隣人の男に殺害 されました。犯人の趣味である盆栽に、父がいたずらをした、という思い込みが発端でした。しかし、そんな事実は全く無く、犯人の妄想だったのです。にもかかわらず、鉈を使った凶行におよび、父と祖母は、尊い命を奪われてしまいました。刑事裁判では、二度の精神鑑定結果の後、「心神耗弱」との判断から「懲役20年」の判決になり、刑が確定しました。

  2. ア:事件前、両親は警察へ相談に行きましたが、「子どもの喧嘩じゃあるまいし」と、取り合ってもらえませんでした。事件の芽は、最初は小さなものかもしれませんが、警察には市民を守るべく誠実な対応を望みたい、と訴えました。

    イ:刑法39条にある「心神喪失と判断されれば無罪、心神耗弱と判断されれば刑が減軽される」という現法律は、精神障害の加害者のみを守り、被害者や遺族が泣き寝入りしなければならないということになります。精神障害者の犯罪も、犯した罪そのままに裁かれるべきで精神障害者である加害者の人権のみが重要視されている今の司法の在り方を、再考していただきたい、と訴えました。

田 村 紀久子 氏
私の夫は、注意した男に殴られ転倒し頭を強打、意識不明のまま110日後に亡くなりました。転んで怪我をしたのかと思いましたが、救急隊員から「誰かに殴られ重傷を負ったのですよ」と言われ、初めて犯罪に遭ったのだと知りました。大学付属病院の救急救命室に10日、その後病室に移りました。一家の大黒柱である夫の入院で収入はなくなり、10日毎の高額な入院請求額の支払いは、経済的にとても負担でした。

入院費用も大変でしたが、深刻なのは入院先です。3ヶ月位たった頃、転院先をさがすよういわれました。必死に探しましたが、受け入れ先の病院はなかなかみつかりませんでした。犯罪により重傷を負い受け入れ先の無い人に、公的な病院を提供する制度ができたら、安心して治療看病に専念できると思います。

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シンポジウム 〜被害者の刑事手続きへの参加をめざして〜

今回のシンポジウムは、ヨーロッパ調査団の報告を受けて、『被害者の刑事手続きへの参加を目指して』がテーマであった。これは非常に珍しい、画期的なシンポジウムである。おそらく、日本において、犯罪被害者の刑事手続きへの参加をテーマにして市民のシンポジウムが開催されるのは、これが初めてであろう。また、外国においてそのような参加の制度が現実に存在していることを市民に詳しく公開するのも、これが初めてのことである。
 日本で、参加を実現しようとすれば、どうしても国民の理解を得ることが必要である。その意味では、このシンポジウムが、参加の歴史をつくる貴重な第一歩となったと思う。以下に、その概要をご報告する。
1.ヨーロッパ調査報告 *内容の詳細は、シンポの当日発刊された『ヨーロッパ調査報告書』をご参照ください。

(1)ドイツ(報告担当者 高 橋 正 人 氏)

被害者が、刑事裁判に参加できる制度としては、私人起訴、訴訟参加、附帯私訴の三つの制度があること、それぞれについて、図面によるわかりやすい説明がなされた。 ドイツでは、2002年9月16日から20日までの間、白い環、ヒルフェ(州立支援センター)、ヘッセン州・ベルリン州司法省、ヴィースバーデン・ベルリン地方裁判所、ベルリン地方検察庁、ベルリン弁護士会などを視察した。

訴訟参加は、純粋に刑事裁判において被害者が当事者として参加する制度であり、証人に対する質問、証拠の提出、求刑、上訴など検察官と同じような権利が認められているので、被告人に直接質問ができ、また、その場で被告人の言い分に反論することもできる。検察官とは異なった求刑をすることもできる。この手続きについては、ヴィースバーデンの裁判所が特別に模擬裁判をしてくれたので、そのビデオが上映された。

また、訴訟参加をした被害者と検察官とが異なった求刑をしたときに、裁判官は被害者の意見を軽く見ることはないかとの質問に対しては、「そのようなことはありません。検察官は公益の立場から発言し、被害者は自分の受けた苦しみから発言するので、両者は立場が異なっているので、意見が違うことは当然であり、こうした異なった立場からの意見を総合的に審理してこそ、正しい結論に到達します。」との回答であった。

ドイツ訪問で一番大きな印象は、どの訪問先においても一致して、
「犯罪被害者は“証拠品”ではなく“当事者”である。」
と回答されたことである。


また、被害者が刑事裁判に参加すると復讐の場になって法廷が混乱するということはないのか、という質問について、ヴィースバーデンのクーベ裁判官が、 「被害者が参加したからといって法廷が混乱するということはありません。しかし、もしその様なことが起きたとしたらそれは裁判官の資質の問題です。」 「法廷を混乱させないようにする権限と責任は裁判官にあるので、もし被告人や被害者が混乱させようとしたら、裁判官がこれをやめさせればいいのです。」 と極めて明解に説明されたことが印象的であった。

被害者が参加することで被告人が不利にならないかとの質問については、ベルリン地検において、「もし、被告人が大変ならば弁護人を二人つければ足りること。」とこれまた単純明快な回答を得た。また、弁護士らからも、「被害者の権利を拡大しても被告人の権利がなくなる訳ではない。もともと乏しかった被害者の権利を被告人が持っている程度まで引き上げたにすぎない。」との回答が得られた。

一方、加害少年との和解については、ミュンヘン大学法学部のシェヒ教授によると、「加害少年の更生のために被害者を話し合いの席につかせようという雰囲気から、次第に被害者の立場を考えようという流れに変わってきている。」とのことであった。

また、附帯私訴(刑事判決イコール民事上の損害賠償判決の制度)については、連邦司法省の見解によると、「裁判官が面倒くさがってやりたがらない現状にあるので、附帯私訴を義務化する法案が議会にかけられようとしており、おそらく何らかの形で成立するであろう。」との見通しを示され、今後も、ドイツではさらに被害者の権利が拡大していく傾向にあることが感じられた。

総じて、ドイツでは被害者が刑事裁判に当事者として参加することは、当然のこととして受け入れられている、という印象で、日本への導入について大変大きな自信となった。

(2)フランス(報告担当 酒井 宏幸 氏)
ドイツの調査報告に続いて、フランスの調査報告が行われた。
パリでは、9月23日から27日までの間、イナヴェム、パリ検事局、パリ弁護士会、司法省、予審裁判所、重罪院、そして被害者支援協会を視察した。

フランスでは、古くから私訴制度と予審制度が存在し、予審裁判官が捜査を指揮し、公訴提起が行われる。私訴は、予審・公訴のいずれにも関係するが、その中心は附帯私訴である。ドイツでは附帯私訴はほとんど利用されていなかったが、フランスはほとんどの刑事裁判で附帯私訴が行われ、原則となっていることが解った。最近の改正で、附帯私訴の提起がより容易にできるようになり、ファックスで事件の概要と請求する損害賠償額を明示して訴状を提出することにより、訴訟提起ができるようになった。

附帯私訴として刑事裁判に参加した被害者は、検察官とほぼ同様の権利を行使することができ、ドイツの訴訟参加と同様の効果が認められる。但し、求刑については、法制度上は検察官のみが行うことができ、参加した被害者はできない。これは、被告人にどの程度の刑を科すべきかは、公の秩序維持の観点から判断すべき問題であり、被害者の個人的利益との関係で判断すべき問題でないとの考えによるとのことであったが、被害者の最終意見陳述の際に、求刑にわたる事項が主張されることが多く、事実上行われているようであった。

私訴が予審と関係する事項では、予審開始請求としての私訴がある。これは、捜査開始命令的な特徴を有し、予審判事をして捜査を開始させる効力を有するものである。ただ、検察官が予審開始請求を行わない場合に効力を持つが、その利用はあまり有意義なものとは言えず、政治的な事件等において有効活用されていることも解った。  フランスでは、従前から存在した私訴以外に、近年、被害者の権利として多くの権利が認められるようになった。

附帯私訴の利用方法が改善し、予審段階で被害者に、6ヶ月ごとに捜査状況を報告するよう義務付けられ、公判記録の写しも無料で交付を受けられるようになった。訴訟参加以外でも、損害賠償について、刑事補償委員会が、加害者に代わって被害者に完全賠償する制度が存在し、附帯私訴と共に被害者の社会的復帰を容易にしている。かかる刑事補償委員会の存在により、附帯私訴は、より訴訟参加としての意義が強くなっている。

かかる被害者への国家の対応は、全て国家として国民に対する義務であるとの考えに基づいている。すなわち、社会秩序を確保する義務のある国家が、その義務に違反し、犯罪を防止することができなかった場合、加害者に代わって損害を賠償し、社会秩序の維持回復のため行われる刑事裁判においても、被害者を参加させることにより刑事裁判に対する国民の信頼を確保し、国家自体に対する国民の信頼を維持することができると考えているのである。

刑事裁判にもっとも強い関心を抱く事件当事者が、その刑事裁判を信頼しない場合、国民一般の刑事裁判に対する信頼をも確保できないのである。かかるフランスの考え方に調査団は強い感銘を受け、日本の国家としても、被害者の訴訟参加並びに国家による完全賠償制度が導入されるべきであるとの強い確信を得て帰国した。 ドイツ・フランスと2週間に渡る調査は、各自仕事の都合をやりくりして実現したものであるが、事前の勉強会では解らなかった訴訟参加の実体を把握することができ、また、そのことによる実務上の弊害は生じないことが解ったことは、大きな収穫であった。

2.パネルディスカッション
1)ドイツの調査で途中から同行して下さった加藤克佳氏は、 附帯私訴審理が義務づけられ、また、裁判官の負担の増加などの手続き的な問題が改善されるなど条件が整えば、日本においても、訴訟参加と附帯私訴を合体したような制度を導入することは十分に可能である。との積極的な見解を示された。

しかし、問題は加害者に支払い能力がないときは、附帯私訴の判決が出ても実効性がないので、この点は、フランスのように国家が完全な補償をする制度を設けるべきである。罰金刑の一部をその財源にすることも考えたらどうか。との実質的損害回復の制度的補償も提案された。そして、今行われている司法改革について、裁判は専門家だけでやるものだという視点を改め、事件の当事者である被害者の参加する方法を考えるべきである。(市民参加の改革で)裁判員制度だけでは片手落ちである。との問題提起をされた。


2)フランスの調査にあたって質問事項の作成などで ご協力いただいた小木曽綾氏は、 フランスの被害者政策は、常に3つの柱(1.加害者からの迅速な損害回復、2.国家による補償、3.支援団体などによる支援活動)を全体として追求してきたこと、また、その理念は社会の安全を守るのは国の義務であり、その義務が尽くせなくて犯罪による被害が生じてしまったときは、国による被害者支援義務がある、という考え方に基づいていること。

を説明された上で、被害者支援の立法としては、特に、2000年の法律が、被疑者・被告人の権利と被害者の権利とのバランスをとるということで、司法機関は、手続きの全ての段階で被害者の権利に注意を払うべきである旨が明文で定められた、ことを紹介された。そして、重大な犯罪では、ほとんどの被害者・遺族が私訴原告人として刑事裁判に参加している、とのことであった。

また、国家の補償制度である、犯罪被害者補償基金からの補償支払額は2001年の総額が1億8000万ユーロ(日本円で約216億円)に上っていることを紹介された。日本への導入については、ドイツ型の訴訟参加は賛成できないが、フランスのように附帯私訴的なものであれば考え得るとの見解を示された。


3)桶川事件の報道の在り方などに鋭いメスを入れてこられた、テレビ朝日ニュースキャスターの鳥越俊太郎氏は、ドイツ、フランスの被害者参加の報告を聞いて、被害者が刑事事件に参加するということは今まで考えたこともなかった。日本の司法制度のなかでしかものをみていなかった。

「目から鱗という感じ」と驚きの感想を述べられた。しかし、長年の刑事事件の取材の経験から、えん罪が存在することも事実であり、これとの関係で、被害者の参加を考えたときに、実際に、日本で実現するとなると個別的にはかなり難しい問題が出てくる場合が予想される。との指摘もされた。

そうしたことを踏まえつつも、基本的には、被害者が刑事裁判の中でなにも言うことができない、検察官を通してしかできない、という今の制度については、前々からおかしいと思ってきた。それは、裁判は「お上がやるもの」「専門家、法曹三者がやるもの」というお上中心の思想につながっている。

そういう意味で、ドイツの「被害者は証拠品ではない。」という言葉に大変な衝撃を受け、また、フランスの、加害者が誰であるかに拘わらず国家から完全な補償を受けられるという制度についても大変な衝撃を受けた。従って、これは日本に早く導入した方がいい。その為にメディアという立場からサポートしたい。


4)調査団を代表してパネラーを務められた垣添誠雄弁護士と守屋典子弁護士は、会場からの発言に答えるかたちで、不起訴記録の被害者への開示の問題などについて、日本の裁判での経験や、フランスの制度を紹介した。


5)太田一樹氏の特別発言3人のパネラーの発言の後、オーストリアで実際に刑事裁判への参加の経験をもっておられる太田一樹氏からその体験談が紹介された。太田氏の妹さんは、オーストリアのザルツブルクにピアノ演奏家として留学中にクロアチア人留学生に殺害された。犯人は、逮捕され殺人は認めたが、その動機について男女交際中に別れ話を持ち出されたのでかっとなってやった、と嘘の供述をした。

これがオーストリアは勿論日本でも報道されたため、妹さんの名誉が著しく侵害されてしまった。妹さんを殺害され悲嘆に暮れていたご両親やご兄弟は、せめて妹さんの名誉だけでも回復する方法はないものかと思案した末、オーストリアの日本領事館に相談したところ、弁護士を紹介され、そこで、オーストリアには被害者が刑事裁判に当事者として参加する方法があることを知らされた。

刑事裁判に参加した太田氏は、妹さんをよく知る友人たち7人を証人に立て、犯人が妹さんと交際していた事実は全くないこと、金を取るための殺人であったことを立証した。この裁判では、検察官も男女関係のもつれによる殺人であると犯人の言うままの冒頭陳述をしていた。

しかし、友人7人の証言の結果検察官は勿論、犯人も金目当ての殺人であることを認めた。そして、8人の参審員は、全員一致で犯人を強盗殺人で有罪であるとの評決を下した。太田氏は、発言の最後の締めくくりに、「被害者が刑事裁判に参加するということは、必ずしもよいことばかりでなく、もし、被害者の言うことが認められなければ、もっとひどい非難を受けることになるかも知れない。

でも、仮にそのような結果になろうとも、少なくとも天国にいる妹だけは、私の言いたかったことを替わって言ってくれてありがとう、と喜んでくれるはずだ。このように被害者が参加できる制度があって本当によかったと思っている。」と述べられた。その言葉は、会場内のすみずみまで深い感銘を与えた。

6)その後、会場との質疑応答や意見交換がされたが、そのなかで一番印象深かったものを紹介する。会場からの発言の中に「被害者が刑事裁判に参加することによって、えん罪が増えることになるのではないか」という疑問が出された。これに対して、長年えん罪事件の取材も続けてきた経験を持つ鳥越氏が次のように答えたのである。

「えん罪が現実に存在することは事実であるが、それは、被害者の参加の問題とは別に、昔から存在してきたことである。えん罪の原因は、警察官、検察官、裁判官の資質に問題があるからであり、また、それを許してきた社会に問題があるのであって、被害者が刑事手続きに参加することとは関係がない。被害者が参加したからといってえん罪が増えるということはない。

いまは、被害者の意見が刑事裁判に直接反映されていないことに問題がある。えん罪の問題と被害者の参加の問題は、別個の問題であるから、それを一緒にしてしまって右を取るか左を取るかという話しではない。」じつに明解である。

また、会場から殺人事件で娘さんを殺害されたが、犯人が不明のままでむなしく年月が経過してきた、フランスの報告で、犯人不明の時にも国家から完全な補償を受けられる制度があることを聞き、せめて、そのような完全な補償を受けられる制度が日本にあれば少しは気持ちが楽になるのだが。という感想が出されたことは、改めて、フランスの補償委員会制度を詳しく研究し、これを日本に導入する手だてを検討すべきことを痛感させるものであった。
3.総括(担当 諸 澤 英 道 氏)
発言が、法律専門家にどうしても偏ってしまったが、これは、裁判は専門家に任せるものという過去の意識の反映ではないかと感じた。これからは、専門知識の有無に拘わらず、みんながどしどし発言していくべきである。

今回のヨーロッパ調査のなかでは、岡村先生は、日本で被害者の参加に反対の理由としてあげられている事項(例えば、被害者が参加するとえん罪が増える、刑が重くなる、法廷が復讐の場になり混乱するなど)をどの訪問先においても何度も何度も繰り返して質問した。

どの訪問先からも同じ答えしか返ってこなかったが、それでも岡村先生は聞き続けた。ドイツ訪問中はくどいと感じたほどであったが、日本に戻って、相変わらず反対の意見が強くだされている現状に接すると、実は、どの訪問先でも同じ回答しか返ってこなかったことが非常に重要な意味を帯びてくることに気づいた。即ち、被害者の参加について20年の経験をもつドイツでは、えん罪が増加するなどというようなことはない、と一致して認識されていることである。そのことは、日本での導入に当たり非常に勇気づけられる。

また、参加ということだけでなく、完全なる補償の問題、情報の公開という問題も今回のシンポの中で触れられた。特に、情報の公開ということでは、日本では、不起訴記録とか、精神障害者の犯罪、少年の犯罪の場合に特別扱いとなって被害者に公開されていない。しかし、被害者は、事件の当事者として自分の事件に関するあらゆる情報を知る権利があるのであって、特別な地位が認められるべきである。

それは、国際的な常識となっている。われわれは、いままでは刑事裁判とはこのようなものだと固定的に見ていたことも、改めて見直すことができるということがわかった。今回のヨーロッパ調査報告は、われわれにそのことを教えてくれている。 諸澤氏は、国家刑罰権の由来などを説明されながら、概要上記のようなまとめをされた。

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総  会

 シンポジウムに引き続き、本村幹事を議長に総会が開催されました。
冒頭、岡村代表幹事から、以下のとおり報告と今後の活動方針の説明が行われました。 あすの会発足当初の全国民的な熱い支援が思い起こされる。最近では、皆様のご協力により国民に被害者が活動している団体もあるのだという認知がなされてきたことは喜ばしいことである。
そして今年は、当会が目的としている犯罪被害者の人権および被害回復制度がどのように確立されているのか、その方面で先進国であるヨーロッパに調査団を派遣することが出来た。調査団は、全国の9人の弁護士、大学の先生で構成され、当会の岡村代表幹事が団長を務めた。

9月中旬から下旬まで2週間のドイツ、フランスでの調査であった。団員の先生方は、最高の調査結果を出すべく、事前の勉強会は10数回に及んだ。その内容も、各国での司法制度、また、その中で犯罪被害者がどのように扱われているかを多角的に勉強、研究され、万全の準備をされて調査に臨んだ。その結果、わが国の刑事司法における被害者の取り扱いは、先進国に比べて、20年以上遅れており、改善しなくてはならぬ事が山ほどあるとの感を深め帰国した。

すなわち、わが国の刑事司法は、国家および社会の秩序維持という公益のために存在し、犯罪被害者の利益のためにあるのではないとされ、被害者は、刑事司法上何の権利も与えられず、ただ「証拠品」として扱われるだけで、刑事手続きに参加できない。

被害者が、人間としての尊厳を侵された直接の当事者として、刑事事件の推移に大きな関心を抱くのは当然であり、刑事手続きに参加し、証人や被告人に直接質問し反論を行い、真実を知り、適正な処罰を願うことは、尊厳の回復のために欠かせないことである。このような当然のことが、ヨーロッパでは、20年以上前から行われている。

また、必要なら、被害者が多大なエネルギ−を要する民事の損害賠償等の請求権を同時に行使できる便利な制度も、ヨ−ロッパにはある。刑事司法が被害者のために存在すべきであるという理念の実現を強く求め、全国一斉に、署名活動を展開したいものと考えている。その後には、犯罪被害者の被害回復制度の確立、特に経済的な被害回復制度の確立に取り組みたい。活動報告、活動方針とも全会員の拍手のうちに了承されました。以上を踏まえて、決議案が提案どおり、満場一致で採択されました。
続いて、ヨーロッパ調査にご尽力いただいた先生方へ、当会代表幹事から、感謝状と記念品が贈呈されました。 以上、会員の盛大な拍手のうちに総会は終了しました。

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決 議

  1. 犯罪被害者は、証拠品ではなく、刑事手続きの当事者であり、刑事司法は、犯罪被害者のためにも存在する制度でなければならない。

  2. 犯罪被害者には、刑事手続きに参加する当然の権利があり、そのための制度を創設すべきである。

  3. 刑事手続きの中で、民事上の損害回復ができる制度を確立すべきである。
理   由
刑事司法は、国家および社会の秩序維持という公益目的のために存在し、犯罪被害者およびその遺族(被害者等という)の利益のためにあるのではないとされ、被害者等は刑事司法上何の権利も与えられず、刑事手続きに参加することができない。

捜査、公訴提起、公判審理には被害者等の協力は欠かせず、被害者等も悲嘆のなかで協力するが、これは捜査等が被害者等の利益のために行動してくれると思うからで、社会秩序を維持しようとの精神から出るのではない。起訴状、冒頭陳述書、論告要旨、判決などは送られてこず、法廷では、傍聴席で加害者の関係者とともに座らされ、加害者に対して何の質問も反論もできず悔しい思いをさせられる。

そのとき、刑事司法は被害者のためにあるのではなかったと気づき、単に『証拠品』として利用されているだけだったことを知り、司法不信に陥るのである。被害者等は、人間としての尊厳を侵された直接の当事者として、刑事事件の推移に大きな関心を抱くことは当然である。被害者等が刑事手続きの中に参加し、証人や被告人に 直接質問し反論を行い、真実を知り、適正な処罰を願うことは、尊厳の回復のために欠かせない。

また、被害者等が加害者に対して損害回復のため民事訴訟を提起することは、多大の時間、労力、費用を要し、大きな負担である。刑事裁判の手続きの中で、民事の請求権を行使することができれば(附帯私訴)、被害者等の負担も少なくなるだけでなく、司法全体からいっても経済的である。よって、刑事司法が、被害者等のために存在すべきであるという理念を明らかにし、訴訟参加および附帯私訴の制度の創設を強く求め、上記1、2、3のとおり決議する。
   2002年12月8日

                           全国犯罪被害者の会(あすの会)

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懇 親 会

懇親会は、総会に引き続き同じ会場で立食の形式で開かれました。参加者も会員だけでなく、一般参加の方、ボランティア、マスコミ、弁護士の方々等80人を超える多くの方々が参加し、林幹事と猪野幹事の司会で大変盛り上がりました。午前中の被害者体験報告、そして、今回のヨ−ロッパ調査団が大きな成果を挙げ、その報告を受け、シンポジウムも成功裏に終わったことから、懇親会は終始明るい雰囲気で進み、話も弾んだことでした。会たけなわの中、調査団に参加された先生方が、お一人ずつヨ−ロッパの進んだ制度について熱弁をふるわれました。

参加者一同、あらためてヨーロッパ並みの「犯罪被害者の刑事司法への参加」の実現を目指し、署名活動を展開しようと一致団結しました。300万人署名を目標に、明日からがんばろうという思いを抱き、それぞれの帰途に着きました。

なお、今回も、シンポジウム会場を無償で提供していただきました上、遠方から参加の方のために、ホテルを特別料金で利用させていただきました三井不動産様に、心からお礼申し上げます。
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