附帯私訴制度案要綱


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附帯私訴制度案要綱なる

  現在、刑事裁判と民事の損害賠償請求の裁判は、別々に行われ、犯罪被害者等にとって時間、経済、労力の面で大きな負担となっています。
 一つの裁判所がこの2つの裁判をすることにする(附帯私訴)と、被害者の負担は大幅に軽減されます。

 あすの会はこの制度の実現を主張し、具体的な法案を研究してきましたが、ようやく出来上がり、 2005年10月28日、「附帯私訴制度案要綱」を公表しました。  この制度の実現を目指して、さらに努力していきましょう。
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附帯私訴制度案要綱の公表にあたって

犯罪の責任追及は、国による刑事裁判と、犯罪被害者等による民事裁判によっておこなわれるが、もとは同じ犯罪行為から生じた責任の追及だから、刑事裁判も民事裁判も、審理の対象や証拠は重なり合っている。証拠調べの法則に違いがあるとしても、二つの裁判所、裁判官が、同じことをしているのである。

民事訴訟は、刑事判決後に提起されることが多いから、その判決は、大幅に遅れることになる。

裁判は、犯罪被害者等にとって、精神、時間、労力、費用の面で多大の負担をともなうが、もし同一の裁判所、裁判官が、刑事裁判と民事裁判を扱ってくれるとすれば、犯罪被害者等の負担が大きく軽減されることは間違いない。


刑事裁判と民事裁判を、同一の裁判所がおこなうのが、附帯私訴制度である。

この制度は、ドイツ、フランスを中心とする大陸法系の国で発達しており、わが国でも、旧刑事訴訟法時代には存在したが、米国法の影響を受けた1948年の法改正で廃止になった。この廃止を惜しむ声は当初からあり、法務省も、1997年、犯罪被害者の被害回復制度について国民から意見を公募したとき、その検討項目のなかで、附帯私訴、訴訟参加の可否をあげているほどである。

当会は、訴訟参加制度とともに附帯私訴制度に大きな関心を持ち、2002年、学者、弁護士を中心とするヨーロッパ調査団をドイツとフランスに派遣した。その成果は、同年12月17日刊行の『ヨーロッパ調査報告書−被害者の刑事手続きへの参加をめざして−』に纏められている。

フランス、イタリア、オーストリア、旧東ドイツ等多くの国では、私訴権行使による附帯私訴が活発におこなわれている。旧西ドイツや現ドイツではあまりおこなわれていなかった。

これは、裁判官が、附帯私訴の申立てを理由を付さないで却下でき、しかも却下に対する不服申立て制度がなかったために、民事裁判までしたくない刑事裁判官が却下を続けたことに原因がある。
ドイツの司法省の担当者はこの風潮を憂い、却下決定には理由を付し、不服申立てできる法改正を準備中とのことであったが、2004年改正が実現した。

当会は、この調査に基づき、2002年12月から「犯罪被害者のための刑事司法」「訴訟参加制度」「附帯私訴制度」の実現を求める全国的な署名運動を展開した。
その数は55万人を超え、小泉総理大臣も犯罪被害者の保護救済を約束されるなど、国民的関心を呼び、昨年12月の犯罪被害者等基本法成立のきっかけになった。

当会は、ヨーロッパ調査後も、研究を続けてきた。
2004年7月8日には、『訴訟参加制度案要綱』を公表したが、この度『附帯私訴制度案要綱』を公表することにした。

犯罪被害者等基本法も、犯罪被害者等の損害賠償請求について、その被害に係る刑事手続との有機的連携を図るための制度の拡充(12条)を謳ったが、これは附帯私訴制度を視野にいれたものといわなければならない。

『附帯私訴制度案要綱』は、もとより要綱であるから、細部について詰めなければならない部分が多く残っていることは承知している。しかし、制度の骨子は十分示されているはずである。

この制度の特色は大きく言って3つある。
  • その1は、1つの裁判所が、刑事と民事の裁判をするということである(附帯私訴である以上当然のことであるが)。

  • その2は、実質的には、刑事判決が出てから、はじめて附帯私訴(民事裁判)の審理に取りかかるということである。

  • その3は、上訴審では、刑事と民事は別々の手続で審理するということである。


この要綱では、刑事手続のなかで、民事訴訟をおこなうという、大陸法的附帯私訴の発想が大きく修正されている。民事審理は、原則として刑事手続でおこなわないように組み立ててある。
犯罪被害者等は、刑事事件について証拠調べ請求、被告人等に対する質問等の訴訟活動をしたいとの強い希望を持っているが、これは『訴訟参加制度案要綱』の実現によっておこなうものと考えている。

もちろん加害者には資力がないことも多く、附帯私訴制度を導入しても、財産的被害が直ちに回復できるとは限らない。

しかし、民事訴訟は、犯罪被害者等が自己の尊厳を回復する重要な機能も有するので、そのためにも、訴訟遂行を容易にする附帯私訴制度が必要であることをご理解いただきたい。
附帯私訴制度の反対論者の理由は、『刑事裁判と民事裁判における手続に相違点(証明の程度、過失相殺などにおける立証責任の所在、自白法則、控訴審の構造等)があり、同一の手続でおこなうことに困難を生じる。

また、附帯私訴の申立人という当事者が増え、争点も増加するため、被告人側の防御の負担が増大し、訴訟が遅延するおそれがある。憲法上保障された重要な権利である被告人の迅速な裁判を受ける権利(憲法37条1項)が損なわれてはならない』(日本弁護士連合会)が代表的なものである。

しかし、この要綱は、刑事手続による刑事判決が出された後で、実質的な附帯私訴の審理を始めるのであるから、これらの批判は全く当たらない。

刑事手続のなかで、訴状と答弁書陳述のための口頭弁論を1回だけ開くが、その請求原因は、起訴状、冒頭陳述の範囲内で記載することになっているから、予断排除の原則に反しない。

ただ、第10の2項で定めるように、刑事手続に関する鑑定人、証人等が附帯私訴についても取調べが必要であるにもかかわらず、重ねて出廷することが困難であると予想されるときは、附帯私訴の立証に必要な限りにおいて、刑事訴訟法の証拠法則に従い、証拠調べをすることができることになっているが、これはきわめて合理性、必要性のある厳しい例外で、被告人の防御権を侵害するというほどのものではないし、このくらいのことで弁護人はたじろいではいけない。

争点増加、被告人の負担増大、立証責任、自白法則、控訴審の構造、いずれの問題もない。
刑事判決は、大部分が第1審で確定している。

これを原因判決とすれば、損害額や過失割合など僅かの立証だけで民事判決がなされることとなり、犯罪被害者等の負担は格段に少なくてすむ。
さらに、被告人にとっても、刑事判決の後で民事訴訟を提起されるより、事件全体の解決が早くなり、有利になるはずである。


以上のとおり、この要綱案によれば、反対する根拠もないのである。この要綱の公表により、附帯私訴についての認識がいっそう高まり、早急に実現するよう願ってやまない。

この研究に参加してくださったのは、諸澤英道常磐大学理事長、白井孝一、京野哲也、守屋典子、山上俊夫、高橋正人、前川晶、宮田逸江、池田剛志、松畑靖朗、久保光太郎、石山貴明、小林陽子、岡村勲の各弁護士であるが、フランスで実際に附帯私訴を体験された藤生好則さん、君江さんご夫妻、2002年の調査団の方々、当会の幹事、会員の皆さんからも貴重なご意見をいただいた。
これらの方々に、心からお礼を申し上げる次第である。

    2005年10月28日
     全国犯罪被害者の会(あすの会)
                     代表幹事  岡村 勲
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附帯私訴制度案要綱

第1 (目的)
この制度は、犯罪により害を被った者及びその相続人(以下「犯罪被害者等」という)が、その被害に係る刑事手続に附帯して民事訴訟を提起することにより、損害の回復を容易にすることを目的とする。

第2 (附帯私訴の提起)
犯罪被害者等は、その被害に係る刑事手続に附帯して、被告人に対し、損害の回復を求める民事訴訟を提起することができるものとする(この訴訟を以下「附帯私訴」という)。

第3 (附帯私訴の提起時期)
附帯私訴の提起は、刑事手続の第1審弁論終結前までにするものとする。

第4 (附帯私訴提起の方式) 
【1】附帯私訴の提起は、訴状を裁判所に提出しておこなうものとする。
 
【2】請求原因の記載は、起訴状及び冒頭陳述の範囲内でなければならないものとする。
 

第5 (印紙) 
附帯私訴に関する書類には、印紙を貼ることを要しないものとする。ただし、民事部又は他の裁判所に移送されたときは、この限りではない。

第6 (送達) 
【1】裁判所は、附帯私訴の提起があったときは、訴状を被告人(以下「私訴被告」という)に送達し、答弁書が提出されたときは、これを附帯私訴原告(以下「私訴原告」という)に送達するものとする。
 
【2】公判期日に出廷した私訴原告、私訴被告に対して、公判廷で、訴状、答弁書を交付したときは、送達したものとみなすものとする。
 

第7 (期日の指定) 
公判期日の指定にあたっては、私訴原告の意見を聞かなければならないものとする。


第8 (在廷) 
私訴原告は、公判に在廷することができるものとする

第9 (閲覧及び謄写)
私訴原告は、公判記録について閲覧、謄写することができるものとする。

第10 (刑事手続審理期間中の附帯私訴の審理)
【1】第1審の刑事判決言渡しまでの間は、訴状及び答弁書の陳述のための口頭弁論を開く以外は、附帯私訴に関する審理をおこなわないものとする。
 
【2】前項の規定にかかわらず、刑事手続に関する鑑定人、証人等が、附帯私訴についても取調べが必要であるにもかかわらず、重ねて出廷することが困難であると予想されるときは、附帯私訴の立証に必要な限りにおいて、刑事訴訟法の証拠法則に従い、証拠調べをすることができるものとする。
 
【3】前項の場合においては、裁判員は退席するものとする。
 
【4】私訴被告が、答弁をしない場合でも、擬制自白は成立しないものとする。
 

第11 (附帯私訴の審理及び判決)
【1】裁判所は、刑事判決言渡し後、裁判員退席の上で、直ちに附帯私訴についての口頭弁論を開くものとする。
 
【2】裁判所は、前項の口頭弁論において、新たな証拠調べ等の審理をする必要がない場合には、直ちに附帯私訴について判決を言い渡し、あらたな審理が必要である場合には、附帯私訴についてさらに審理をおこなうものとする。
 
【3】附帯私訴についての審理は、民事訴訟法によっておこなうものとする。
 
【4】附帯私訴の判決は、移送の場合を除き、刑事判決を原因判決としてしなければならないものとする。
 

第12 (証拠)
刑事手続で取り調べた証拠は、附帯私訴についても取り調べたものとみなすものとする。

第13 (合意)
刑事判決言渡し前に、附帯私訴の請求について当事者間で合意が成立した場合は、犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律4条によるものとする。

第14 (移送)
【1】私訴原告は、民事部又は民事訴訟について管轄を有する他の裁判所に、附帯私訴を移送する申立てをすることができるものとする。
 
【2】裁判所は、刑事判決言渡し後、口頭弁論を開いた結果、附帯私訴の請求が複雑で、刑事部で審理をおこなうことが著しく困難であり、審理の長期化が予想される場合には、私訴原告及び私訴被告の意見を聞いた上で、民事部に移送することができるものとする。
 
【3】前項の移送の決定には、理由を付するものとする。
 
【4】私訴原告及び私訴被告は、前項の決定に対して、不服申立てができるものとする。
 
【5】附帯私訴の移送があった場合は、第12の規定を適用するものとする。。
 

第15 (附帯私訴の却下)
【1】刑事手続に無罪、免訴、公訴棄却の判決又は決定がなされた場合は、裁判所は、附帯私訴について却下判決をするものとする。
 
【2】附帯私訴につき却下判決があった場合でも、附帯私訴を提起した時点で、時効中断があったものとみなすものとする。
 

第16 (取り下げ)
私訴原告は、第1審刑事判決言渡し後、口頭弁論を開くまでは、私訴被告の同意なくして附帯私訴を取り下げることができるものとする。

第17 (上訴)
【1】刑事判決、民事判決については、それぞれ別個に上訴するものとし、刑事の審理・判決は刑事部で刑事訴訟法により、民事の審理・判決は民事部で民事訴訟法によるものとする。
 
【2】上訴審の民事判決は、第1審刑事判決を原因判決としないものとする。
 
第18 (弁護士代理人)
【1】私訴原告は、弁護士を代理人として選任しなければならないものとする。
 
【2】私訴原告は、公費で代理人を選任することができるものとする。
 
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訴訟参加制度案要綱 趣旨説明
第1 (目的)
この制度は、犯罪により害を被った者及びその相続人(以下「犯罪被害者等」という)が、その被害に係る刑事手続に附帯して民事訴訟を提起することにより、損害の回復を容易にすることを目的とする。

■ 趣旨説明 ■
犯罪被害者等は、刑事事件の傍聴だけでも、精神、時間、労力、費用の面で大きな負担だが、その上、損害回復の訴訟を提起することは、容易なことではない。
刑事裁判も民事裁判も、同一の犯罪に係る審理だから、その対象や証拠はほとんど重なっており、別々の裁判所が審理することは、不経済なことである。

そこで犯罪被害者等が、その被害に係る刑事手続に附帯して民事訴訟を提起し、同一の裁判所が、刑事、民事の裁判をおこなうこと(附帯私訴)により、犯罪被害者等の負担を軽減し、損害の回復を容易にすることが、この制度の目的である。

第2 (附帯私訴の提起)
犯罪被害者等は、その被害に係る刑事手続に附帯して、被告人に対し、損害の回復を求める民事訴訟を提起することができるものとする(この訴訟を以下「附帯私訴」という)。

■ 趣旨説明 ■
附帯私訴の提起権者について、旧刑事訴訟法567条は「犯罪により身体、自由、名誉又は財産を害せられたる者」と定め、ドイツでは、「被害者又は相続人」としている(ドイツ刑事訴訟法403条)。フランスでは、「犯罪によって直接生じた損害を一身的に受けたすべての者」と定めている(フランス刑事訴訟法2条)。

この要綱では、「犯罪により害を被った者及びその相続人」としたが、旧刑事訴訟法にいう身体、自由、名誉又は財産を害せられたる者というのと変りはない。犯罪被害者等基本法は、「犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族」を犯罪被害者等と定義しているが(2条2項)、附帯私訴を提起する場合には、提訴権者を明確にする必要があるので、被害者とその相続人に限定し、これを犯罪被害者等と呼ぶこととした(第1)。
損害回復とは、損害賠償請求だけでなく、謝罪広告、盗品の返還等も含まれる。

第3 (附帯私訴の提起時期)
附帯私訴の提起は、刑事手続の第1審弁論終結前までにするものとする。

■ 趣旨説明 ■
旧刑事訴訟法568条の規定と同一の規定である。

第4 (附帯私訴提起の方式)
【1】附帯私訴の提起は、訴状を裁判所に提出しておこなうものとする。
 
【2】請求原因の記載は、起訴状及び冒頭陳述の範囲内でなければならないものとする。
 
■ 趣旨説明 ■
[第1項について]
附帯私訴提起の方式については、ドイツでは、請求の趣旨及び原因を特定して、書面又は口頭で申立てをすることになっており(ドイツ刑事訴訟法404条1項)、フランスでは、予審判事や警察に損害賠償請求の意思を示せばよく、その手段は、口頭でもファックスでもよいことになっている(無罪の推定と被害者の権利強化に関する法律)。

わが国でも、旧刑事訴訟法は、民事訴訟に準じて訴状を提出することが原則であったが、法廷で口頭によりおこなうことも例外的に許されていた(582条)

そこで当会の研究会でも、簡易迅速を旨とする附帯私訴の申立ては、書面又は口頭でもよいのではないかとの意見もあったが、手続を明確にした方がよかろうということで、現段階では、訴状を提出することにした。

しかし、簡易裁判所では、口頭での民事訴訟提起が許されているし(民事訴訟法271条)、提訴の方式については再考の余地があろう。

[第2項について]
附帯私訴は民事訴訟ではあるが、刑事手続に附帯するものだから、刑事訴訟法による制約を受けるのは当然である。そこで、予断排除の原則に従い、請求原因は、起訴状及び冒頭陳述の範囲内とした。

第5 (印紙)
 附帯私訴に関する書類には、印紙を貼ることを要しないものとする。ただし、民事部又は他の裁判所に移送されたときは、この限りではない。

■ 趣旨説明 ■
附帯私訴の訴状等に印紙を不要とすることは、旧刑事訴訟法時代におこなわれていたもので、附帯私訴のメリットの一つである。

ただし、附帯私訴が移送されれば(第14)、通常の民事訴訟になるのだから、印紙を貼用しなければならないことになる。

第6 (送達)
【1】裁判所は、附帯私訴の提起があったときは、訴状を被告人(以下「私訴被告」という)に送達し、答弁書が提出されたときは、これを附帯私訴原告(以下「私訴原告」という)に送達するものとする。
 
【2】公判期日に出廷した私訴原告、私訴被告に対して、公判廷で、訴状、答弁書を交付したときは、送達したものとみなすものとする。公判期日に出廷した私訴原告、私訴被告に対して、公判廷で、訴状、答弁書を交付したときは、送達したものとみなすものとする。
 
■ 趣旨説明 ■
附帯私訴が民事訴訟である以上、当然の規定である。 なお、私訴被告は答弁書を提出することを強制されず、提出しなかったがために、刑事手続において不利益を受けることはない。

第7 (期日の指定)
公判期日の指定にあたっては、私訴原告の意見を聞かなければならないものとする。

■ 趣旨説明 ■
私訴原告は在廷権があるのだから(第8)、私訴原告の出廷を可能にするための規定である。

第8 (在廷)
私訴原告は、公判に在廷することができるものとする。

■ 趣旨説明 ■
刑事手続で取り調べた証拠は、附帯私訴についても証拠となり(第12)、刑事判決は、附帯私訴判決の原因判決になるのだから(第11の4項)、私訴原告が刑事手続の審理について重大な関心を持つことは当然である。従って公判で在廷できるようにした。

しかし、在廷の義務はない。
当然のことだが、在廷とは、法廷のバーのなかの席に座ることであり、傍聴席に座ることはこれに当たらない。

第9 (閲覧及び謄写)
私訴原告は、公判記録について閲覧、謄写することができるものとする。

■ 趣旨説明 ■
刑事手続について取り調べた証拠は、附帯私訴についても取り調べたものとみなされるから(第12)、私訴原告が公判記録を閲覧、謄写できるようにする必要がある。

第10 (刑事手続審理期間中の附帯私訴の審理)
【1】第1審の刑事判決言渡しまでの間は、訴状及び答弁書の陳述のための口頭弁論を開く以外は、附帯私訴に関する審理をおこなわないものとする。
 
【2】前項の規定にかかわらず、刑事手続に関する鑑定人、証人等が、附帯私訴についても取調べが必要であるにもかかわらず、重ねて出廷することが困難であると予想されるときは、附帯私訴の立証に必要な限りにおいて、刑事訴訟法の証拠法則に従い、証拠調べをすることができるものとする。
 
【3】 前項の場合においては、裁判員は退席するものとする。
 
【4】私訴被告が、答弁をしない場合でも、擬制自白は成立しないものとする。
 
■ 趣旨説明 ■
[第1項について]
刑事手続の審理の遅延防止、証拠法則の違い、予断排除等を考慮して、刑事判決までは、附帯私訴について、訴状と答弁書の陳述のための口頭弁論しか開かないこととした。

この場合、裁判員は、附帯私訴には関係ないのだから、退席いただいてもよいのだが、請求原因は、訴状、冒頭陳述の範囲内であるから、予断を与えるおそれもなく、わざわざ退席させる必要もないのではないかと考えた。口頭弁論後に裁判員が入廷するか、あるいは退席するなどの制度を作ることも可能である。

[第2項について]
刑事判決があるまでは附帯私訴の審理をしないといっても、刑事の審理に出廷した鑑定人や証人等が、附帯私訴の審理にも証拠調べがどうしても必要であるにもかかわらず、重ねての出廷が困難であると予想される場合もある。
このような場合は、例外的に附帯私訴の立証に必要な限度で、刑事訴訟法の証拠法則に従って、審理をおこなうことができるようにした。 この程度のことで、被告人の防御権が制約されるとは考えられない。

[第3項について]
裁判員は、附帯私訴には関係がない。従って、2項の場合には、裁判員は退席するものとした。

[第4項について]
附帯私訴が民事訴訟であるといっても、刑事手続のなかでおこなわれるものだから、黙秘権を有する被告人が附帯私訴の請求に対して答弁をしないからといって、自白したとすることには問題がある。 そこで、被告人が答弁をしない場合でも、擬制自白にはならないこととした。

第11 (附帯私訴の審理及び判決)
【1】裁判所は、刑事判決言渡し後、裁判員退席の上で、直ちに附帯私訴についての口頭弁論を開くものとする。
 
【2】裁判所は、前項の口頭弁論において、新たな証拠調べ等の審理をする必要がない場合には、直ちに附帯私訴について判決を言い渡し、あらたな審理が必要である場合には、附帯私訴についてさらに審理をおこなうものとする。
 
【3】附帯私訴についての審理は、民事訴訟法によっておこなうものとする。
 
【4】附帯私訴の判決は、移送の場合を除き、刑事判決を原因判決としてしなければならないものとする。
 
■ 趣旨説明 ■
[第1項について]
裁判所は、刑事判決言渡し後、直ちに附帯私訴について口頭弁論をおこなうものとした。刑事判決言渡し後、いったん閉廷し、休憩後に附帯私訴の口頭弁論をおこなうことも可能である。 準備書面の提出や証拠調べ請求をする場合は、判決日に持参するよう、裁判所があらかじめ私訴原告、私訴被告に伝えておくことが望ましい。 私訴原告、私訴被告が相応の準備が必要という場合は、改めて口頭弁論期日を指定することになる。

[第2項について]
口頭弁論の結果、新たな主張や立証がないときは、直ちに判決を言い渡すものとした。 請求原因の基礎となる事実は、原因判決となる刑事判決(4項)に現れているが、損害額や過失割合などについて争いがあるような場合は、さらに審理をおこなって附帯私訴の判決をすることになる。

[第3項について]
附帯私訴は、民事訴訟であるから、当然の規定である

[第4項について]
附帯私訴の審理及び判決は、刑事の審理を前提にし、刑事判決を原因判決としておこなうものとした。これによって、民事の審理の時間、労力、費用等が少なくてすむ。 刑事判決言渡しの前後を問わず、移送されれば、もはや附帯私訴ではなく、通常の民事訴訟に過ぎないから、原因判決の拘束をうけることはない。 しかし、刑事手続で取り調べた証拠が、移送後も証拠となることはいうまでもない(第12)。

第12 (証拠)
刑事手続で取り調べた証拠は、附帯私訴についても取り調べたものとみなすものとする。

■ 趣旨説明 ■
旧刑事訴訟法586条と同じで、当然の規定である。

第13 (合意)
刑事判決言渡し前に、附帯私訴の請求について当事者間で合意が成立した場合は、犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律4条によるものとする。

■ 趣旨説明 ■
附帯私訴については、刑事判決言渡し前は、訴状及び答弁書陳述のための口頭弁論しか開くことができない(第10の1項)。 そこで、請求認諾や和解のように当事者間で合意が成立する場合は、上記法律に従って和解調書を作成するものとした。

第14 (移送)
【1】私訴原告は、民事部又は民事訴訟について管轄を有する他の裁判所に、附帯私訴を移送する申立てをすることができるものとする。
 
【2】裁判所は、刑事判決言渡し後、口頭弁論を開いた結果、附帯私訴の請求が複雑で、刑事部で審理をおこなうことが著しく困難であり、審理の長期化が予想される場合には、私訴原告及び私訴被告の意見を聞いた上で、民事部に移送することができるものとする。
 
【3】前項の移送の決定には、理由を付するものとする。
 
【4】私訴原告及び私訴被告は、前項の決定に対して、不服申立てができるものとする。
 
【5】附帯私訴の移送があった場合は、第12の規定を適用するものとする。
 
■ 趣旨説明 ■
[第1項について]
私訴原告は、附帯私訴を提起した後に、通常の民事訴訟に切り替えたくなるときもあるだろう。事実関係の立証はできたのに、刑事事件が引き延ばされ進行が遅れているときなど、すでに現れた証拠で民事訴訟をした方が早く判決が出るという場合もある。

また「殺人」の訴因が「傷害致死」に縮小認定されそうになったときも、民事部で裁判してもらいたいと考える場合もあるだろう。

さらに刑事判決が、私訴原告の挑発によって犯行が行われたなど、私訴原告にとって不利な認定がなされたときなどにも、刑事判決を原因判決として附帯私訴の判決をしてもらいたくないときもある。
刑事事件が犯罪地又は私訴被告の住所を管轄する裁判所に起訴されたため、私訴原告にとって不便になり、私訴原告の住所地の管轄裁判所で審理してもらいたいときもある。 このような場合は、民事部又は他の裁判所に移送の申立てができることとした。 いずれの場合でも、民事訴訟を民事部に起こすか、他の管轄裁判所に起こすかは、もともと犯罪被害者等である私訴原告が選択できることだから、私訴被告の意見を聞く必要はない。

[第2項について]
附帯私訴の請求が複雑で、民事の専門的争点に係わるなど、刑事部での審理では著しく困難で、審理の長期化が予想される場合には、民事部で審理する方が早く判決が出る場合もある。これは当事者にとっても有利であるから、このような場合は、民事部へ移送できることとした。

しかし、裁判所の民事訴訟回避につながるおそれもあるので、事前に、私訴原告、私訴被告の意見を聞くこととした。

[第3項について]
附帯私訴は、刑事事件の審理を担当した裁判所が、その延長線上で審理することによって時間、労力、費用等を節約するための制度であるから、民事部への移送は、あくまでも例外である。合理的な理由もなく移送することが許されないのは、当然である。
そこで裁判所の移送決定には、理由をつけるものとした。理由は抽象的でなく、当事者を納得させるものでなければならない。

[第4項について]
合理的理由のない移送を抑制するために、必要な制度である。

[第5項について]
移送後であっても、刑事の審理で得られた証拠資料が、移送後の民事訴訟においても証拠とするものとした。従前の審理を無駄にせず、時間、労力、費用等を節約するためである。

第15 (附帯私訴の却下)
【1】刑事手続に無罪、免訴、公訴棄却の判決又は決定がなされた場合は、裁判所は、附帯私訴について却下判決をするものとする。
 
【2】附帯私訴につき却下判決があった場合でも、附帯私訴を提起した時点で、時効中断があったものとみなすものとする。
 
■ 趣旨説明 ■
[第1項について]
刑事手続について無罪、免訴(判決後の法令による刑の廃止、時効完成、大赦など)、公訴棄却(親告罪で告訴がないときなど)の判決や決定(公訴の取り消し、起訴状不送達による公訴提起の失効など)がなされたときは、裁判所は、附帯私訴の請求について判断せず、却下判決をすることとした。 私訴原告は、改めて第1審から民事訴訟を提起することが可能である。

[第2項について]
附帯私訴を却下判決した場合でも、時効の点で私訴原告に不利益を与えないため、附帯私訴を提起した時点で時効中断があったものとみなすこととした。


第16 (取り下げ)
私訴原告は、第1審刑事判決言渡し後、口頭弁論を開くまでは、私訴被告の同意なくして附帯私訴を取り下げることができるものとする。

■ 趣旨説明 ■
私訴原告は、附帯私訴を取り下げることができることとした。しかし、附帯私訴は、早期に民事紛争を解決する制度だから、私訴被告にとっても有利な制度であり、取下げが私訴被告に不利益を及ぼすこともある。
そこで、一方で、第1審刑事判決言渡し後、口頭弁論を開くまでは、私訴被告の同意がなくても附帯私訴を取り下げることができるとしつつ、他方、反対解釈により、口頭弁論開始後は、私訴被告の同意がなければ訴えの取下げはできないものとした。

第17 (上訴)
【1】刑事判決、民事判決については、それぞれ別個に上訴するものとし、刑事の審理・判決は刑事部で刑事訴訟法により、民事の審理・判決は民事部で民事訴訟法によるものとする。
 
【2】上訴審の民事判決は、第1審刑事判決を原因判決としないものとする。
 
■ 趣旨説明 ■
[第1項について]
上訴にともない生じうる複雑な問題が起きないように、上訴すれば、通常の刑事事件、民事事件として扱われるということである。 上訴において附帯私訴はなくなるということであり、非常にシンプルな制度となる。 なお、民事の上訴審が、刑事第1審判決を原因判決とする審理をすることがないのは、移送を受けた裁判所と同様である。 念のため起きうるケースをまとめると、次の表のとおりとなる。
  第1審の刑事判決に
控訴あり 控訴なし
第1審の私訴判決に 控訴
あり
刑事と民事は控訴審で別々に審理 刑事判決のみ確定
附帯私訴は控訴審に移審
控訴
なし
附帯私訴判決のみ確定
刑事は控訴審に移審
刑事判決も附帯私訴判決も共に確定

[第2項について]
当然のことだが、念のため規定した。

第18 (弁護士代理人)
【1】私訴原告は、弁護士を代理人として選任しなければならないものとする。
 
【2】私訴原告は、公費で代理人を選任することができるものとする。
 
■ 趣旨説明 ■
[第1項について]
起訴状や冒頭陳述の範囲内で、訴状を作成するといっても、法律家でないと正確に理解できない。
第10の2項による鑑定人、証人等に対する証拠調べをするときも、法律家でなければ、刑事訴訟法の証拠法則を知るはずもない。
公判記録の閲覧、謄写も弁護人を介しておこなうことが望ましい。 そこで、弁護士を代理人に選任しなければならないこととした。

[第2項について]
弁護士を代理人に選任するといっても、弁護士を知らなかったり、経済的事情で私選弁護士を依頼することができない場合がある。
そこで公費によって代理人をつける制度を設けた。

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