VOICE (ニューズレター)


犯罪被害者等基本法と司法
代表幹事 岡村 勲 (2005.8.31)

犯罪被害者等基本法(以下基本法という)によれば、國が、被害者等のための施策を総合的に策定し、実施する責務(義務)を負っているのであるが(4条)、そのための犯罪被害者等基本計画(以下基本計画という)の策定や実施等については、政府がおこなうものとされている(8条、24条以下)。8月9日に決定された基本計画案の骨子も、政府(犯罪被害者等施策推進会議)が作成したのである。

基本法は、司法の果たす役割については定めていない。内閣府の基本計画案の検討会には、最高裁から人は出ているが、オブザーバーであって正式のメンバーにはなっていない。  被害者等は、司法(裁判所)の場で多くの二次被害を受けている。 刑事法廷の傍聴席で、被害者等が加害者の家族や暴力団関係者と混在して座らされるのも、苦痛であり恐怖を覚える。

 検討会の席で、衝立か何かで遮蔽して被害者等が加害者関係者と顔を合わせなくてすむような配慮をして欲しいと要望したが、法廷警察権行使の上で問題があるといって、最高裁は受け入れなかった。

損害賠償請求の訴状には、被害者等の住所を記載しなければならないことに法律上なっている。このため加害者の仕返しを懼れて民事訴訟を起こせない被害者等も少なくない。

 外国では、警察署を住所として訴えを起こせる制度がある。わが国でも、住所を警察署または代理人弁護士事務所として訴訟提起できるよう検討会で提案したが、最高裁側は、裁判管轄 の存否や本人確認のために本当の住所を訴状に記載する必要がある、といって応じなかった。

そこで、裁判所には真実の住所を内密で知らせるからという妥協案を出したが、これも蹴られた。

 「マイクの音量を高くして下さい。傍聴席に聞こえませんから」と裁判所に頼んだ遺族が、「傍聴人に聞かせるために裁判しているのではない」と言われた例がある。

 ドイツの裁判官にこの話をしたら、
「それは公開の原則違反です。
傍聴席に声が聞こえないと、公開したことになりません」

という返事が即座に返ってきた。ドイツと日本では、どうしてこうも裁判官の意識が違うのか。

 司法は、権威の象徴ではなく、国民に対するサービス機関でなければならない。ユーザーである国民、被害者等の要求に応じ、二次被害を与えず、また利用しやすい裁判制度をつくるように務めるべきである。

 司法は、競争者のいない独占的組織であり、潰れる心配がないから、サービスが悪いのかもしれない。それならいっそ、司法を民営化して、裁判所間で競争させればよい、という意見が出る。  

基本法で「責務」を課せられた「國」のなかには、当然司法も含まれる。
基本法に具体的に書かれていなくても、
その精神から超然としていることは許されない。

 民営化がいやなら、最高裁も、被害者、有識者を集めて検討会を開き、被害者等の権利保護のためになすべき施策を策定し、実施すべきだ。
【私たちの声がとどきました】
訴状に仮住所の記載が可能に
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