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全国犯罪被害者の会■マーク シンポジウム・大会
全国犯罪被害者の会(あすの会)第10回大会・シンポジウム
2010年(平成21年)1月23日
場所  日比谷三井ビル8階ホール
2010年1月23日に創立10周年を迎えた全国犯罪被害者の会(あすの会)では「創立10周年記念大会・シンポジウム『あすの会10年の歩みと今後の課題』」を開催致しました。
当日、会場となった日比谷三井ビルのホールでは300名以上の方にご来場いただき、例年にも増して熱気に包まれた大会となりました。
-■ あすの会創立10周年を迎えて 代表幹事 岡村 勲 開会の辞 代表幹事 岡村 勲
-祝辞 加藤公一 法務副大臣 祝辞 石原慎太郎 東京都知事
-講演 常磐大学理事長 諸澤英道 講演 代表幹事 岡村 勲
-講演 弁護士 河野 敬 パネルディスカッション
-大会決議・役員選任・総括 参加者のご意見
-人形劇「悲しみの果てに」 新たな活動の展開を祈って 弁護士 北尾哲郎

あすの会創立10周年を迎えて
代表幹事 岡村 勲
1月23日、全国犯罪被害者の会(あすの会)の10周年記念大会が行われました。
当日は寒い日ではありましたが、朝早くから大勢の方が詰めかけられ、準備した300部の資料はあっという間になくなりました。

 11時30分から始まった林良平さん脚本・演出のクライシス座による、糸あやつり人形劇「悲しみの果てに」は、大変な好評を博しました。

 午後1時からは、ご多忙の中をご出席下さった加藤公一法務副大臣が「凶悪犯罪の公訴時効の廃止、延長」について、その実現に向けたなみなみならぬ決意を披露してくださいました。

あすの会設立当初からご支援いただいた石原東京都知事からは、犯罪被害者よりも加害者の人権を重視する制度に疑念を示され、当会の果たした役割を高く評価するご祝辞を頂きました。

 続いて、「10年の歩み」をまとめた映像が上映され、会の活動を回顧しました。 諸澤英道先生のあすの会が世界に与えた影響についての講演に続いて、私が「被害者参加・損害賠償命令」についての実情報告を致しました。

河野敬弁護士の公訴時効廃止に向けての講演があり、「望ましい経済的被害回復制度」についてのシンポジウムが開かれましたが、会員2人の経済的に困窮している報告は、会場をしんとさせ、あちこちですすり泣きの声が聞こえました。

その後、総会にて幹事、新幹事、会計監査の選任があり、3つの決議案の採択があって午後5時半に終了しました。今後は被害者の経済的補償に重点を置いて活動することになります。

 大会・総会の様子は、大会要旨をご覧ください。 6時から始まった懇親会には、125人が出席してにぎやかに行われました。その後の二次会には40人も参加者があったとのこと。

創立以来、会の世話をしてくれている 北尾哲郎弁護士は、「出席者の表情が明るくなった」と感想を述べていました。いままでやったことの達成感、充実感が現れたのでしょうか。
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【 開会の辞 】
代表幹事 岡村 勲
1990年代の犯罪被害者の権利は、まことに惨めなものでした。
 人任せにしてはいられないで、自らの手で勝ち取ろうという思いで、犯罪被害者が集まり、被害者の権利や被害回復制度の確立を求めてシンポジウムを行ったのは、ちょうど10年前の今日のことです。以来、10年が経ち、犯罪被害者を取り巻く環境は、大きく変わりました。あすの会顧問の諸澤先生も、諸外国との差を一気に縮めていったとおっしゃっています。

 こうした成果を収めることができたのは、ひとえに国民各界の皆様のご援助の賜物であります。まず、石原東京都知事、そして高橋宏首都大学東京理事長の肝入りで、犯罪被害者を支援するフォーラムを作っていただき、これにより財政的な基盤を固めることができました。

それを元に、外国での調査や署名運動など、いろいろな活動を行うことができました。それ以外の方からもご寄付をいただき、事務所の提供や職員の派遣もいただき、今日までやって参りました。ひとえに皆様のおかげと感謝しております。

 ここまでも道のりは平坦ではありませんでした。ことに日本弁護士連合会は、我々の主張にことごとく反対してきましたが、それを切り抜けることができたのは、各地で支援くださった皆さん、報道関係者の皆さんが、一生懸命応援してくださったおかげです。

 今、思い起こしますと、1年間にわたる署名活動は、本当に大変でした。しかし署名活動のおかげで、小泉総理にお会いすることができ、総理自身「これは大変だ。やろう」とおっしゃっていただき、それを契機に今日のような制度ができました。

 もちろん何よりも感謝したいのは、犯罪被害者である会員の皆さんです。どんな制度を作っても、会員は裁判をすでに終え、裁判中の被害者も恩典を受けることはありません。しかし我々の受けた苦しみをこれからの被害者に味わって欲しくない。

その一念で日本各地を飛び回り、署名活動をしてくれました。私自身、この会を立ち上げるまでは生きる希望を失っていましたが、大勢の皆さんと知り合い、法律の専門家の私を信頼し支持してくださった。

その思いに応えなければならないという一念から、私は今日まで生きながらえることができました。この会は被害者の会ですが、私にとっては私を生かしてくださった会でした。
 皆さん本当にありがとうございました。
 
 
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【 祝辞 】今国会会期中の公訴時効見直しを目指して
加藤公一 法務副大臣
  昨年9月より法務副大臣に就任しました加藤公一でございます。本日は第10回の記念大会にお招きいただきありがとうございます。これまでの皆様のご努力の結晶として、この大会を迎えられましたことを心よりお慶び申し上げます。

加藤公一 法務副大臣あすの会の皆さんが、日々、地道に活動を続けてこられたこと、そしてその活動によって、今日の犯罪被害者の権利に対する国民の意識の変革に大変大きな役割を果たしていただいたことに対して、深く感謝いたします。

 政治家という立場上、私もいろいろなご意見を頂きます。その中で、被害に遭われた皆さんからは、ひとつひとつの犯罪による痛手や苦しみももちろんですが、その後の司法手続きや社会生活などにおいて、大変大きな困難を抱えているという声をお聞きします。

また、被害に遭われた皆さんの心の痛みの深さは、私どもには容易に理解できるものではないことも承知しており、私のみならず新政権の下、法務省としましても皆さんの困難や苦しみに対して、できる限りのサポートをさせていただきたいという気持ちでおります。

 皆さんのご努力もあって、犯罪被害者等基本法が成立して5年以上が経ちました。この基本理念に、犯罪被害者の個人の尊厳を重んじ、相応しい処遇を保障する権利を有することが明記されております。この理念に基づき、千葉大臣、中村政務官ともども、法務省の政務三役として、これまで以上の努力をしていきたいと考えています。

 一昨年の暮れには被害者参加制度が始まり、ちょうど1年が経過しました。1年間で850名の方が裁判所の許可の下、被害者参加人として裁判に参加したと承っています。一昔前であれば、このような制度が日本の司法制度に組み入れられることは想像できませんでした。

この制度はまさに、犯罪被害者の会の皆さんのご努力があり、そしてそれが多くの国民の理解につながり、世の中を動かした成果であると感じております。 ここで、皆さんが関心をお持ちの、これから先の課題である公訴時効の見直しの件について少し触れておきたいと思います。

公訴時効の見直しについては、これまでも多くのご意見、ご要望をいただいています。数年前、すでに公訴時効の延長がなされました。しかし、これについては昨年9月の新政権発足直後から、皆さんの思いを受け止めながら政務三役でも議論を重ね、昨年10月に法制審議会に諮問をいたしました。

今、審議会で深い議論を期待しているところです。岡村先生にも委員としてご参加いただき、ご意見を賜っております。 ちょうど通常国会がスタートし、予算の議論に続いて各種法案の審議に入ります。

私自身、この国会のうちに何とか公訴時効の見直し、刑事訴訟法の改正案を国会に提出し、6月16日の会期末までに成立を目指したいと考えております。今、確定的なことを申し上げることはできませんが、法案提出に向けて準備に入っていますし、数年前の公訴時効延長から、僅かな期間を経てさらに一歩進めるということになれば、ある程度皆さんが想像されているような中身になるのではないかと考えております。

かなり思い切ったことも含めて法案を作成し、国会でご理解を得て、会期末までに成立をさせたいという強い意思を持っていることはお伝えしておきたいと思います。あわせて現在、時効が進行している事案への適用をどうするのかということも大きな課題です。

これについても法制審議会で議論をしており、国会においてもさまざまなご意見があることは承知していますが、このタイミングで法案を出す以上、小手先だけで少し変えるだけではない。そういう覚悟でいることはお伝えいたします。

これから先、与野党問わず議員の皆さんにご議論いただき、ご意見を出していただきながら、審議が進められればと思います。

 皆様からも、積極的にご意見、ご要望をお聞かせいただき、私や政務三役のみならず、国会のメンバーひとりひとりに皆さんのお気持ちを伝えていただければ、審議もスムーズになるものと存じます。

 これまで大変なご苦労があってここまでの道のりを歩んでこられた皆様ですが、今後、さらに社会をよりよきものにするために大きな力を発揮していただけますよう、またあすの会がますますご発展されますとともに、ご来会の皆様のご健勝をお祈りいたします。
本日はお招きいただきありがとうございました。

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【 祝辞 】 歴史に刻まれる岡村さんと会員の尊い闘い
石原慎太郎 東京都知事
 お招きをいただきありがとうございます。10周年記念でおめでとうございますと言いたいところですが、そういうことはできません。普通の国であればあって然るべきものが、皆さんの力でようやく成就してきたということだと思います。

石原慎太郎 東京都知事この運動の推進者である岡村弁護士と私は同世代であり、また同窓のひとりです。卒業生の数は国立大学ではきわめて少ない中、多士済々ございまして、岡村さんも優れた弁護士として活躍しておられました。私が彼とはじめて仕事をしたのは、私が運輸大臣をしていたときのことです。

当時、岡村さんの郷里である土佐の高校の生徒が、上海で列車事故に遭いました。岡村さんはこの事故の補償交渉の弁護士を務め、私にいろいろ相談をされ、それ以来、親交を持つようになりました。

 それからさらに時間が経ち、あの恐ろしく忌まわしい事件が岡村さんの身に起こった。奥様がご主人の代わりに殺されてしまった。その後、岡村さんがこの運動を展開されるようになって、数年経ってから述懐されたことがあります。

「石原なあ、俺は妻がああやって殺されなかったら、今頃、それまでと同じように当たり前に加害者の弁護士をしていたに違いない。妻のおかげで新しい弁護士として、司法人としての自覚ができたんだ」 そのとき私は感無量になりました。

飢えて人をやたらと食い殺す虎の話が、お釈迦様の教えに出てきます。お釈迦様自身が化身となって、虎に我が身を食べさせて飢えを抑えるという話でした。まさにそれと同じように、岡村さんの奥さんは菩薩の化身だったのではないか。

また、それに賛同されて人間にとって本当の人権のために戦っておられる皆さん、それぞれ被害に遭われた方がいらっしゃる。その方々すべてが、きちんとした人の道を立て直していくために身を以て犠牲になった菩薩ではないかと思います。

また、そう思わなければ、この運動に対する励みも出ませんでしょうし、それではじめて自分に不可知なものとして与えられた宿命を知ることができるのではないかと思います。

 その後、ここにおります私の年来の親友で、首都大学東京の理事長をしている高橋宏くんと諮りまして、「とにかく岡村を援護しようじゃないか」と同窓会館で、そのとき経団連の会長をしていたトヨタの奥田社長も加わってくれまして、百人近くの幹部とで岡村さんの話を聞きました。

岡村さんの被害は皆さん承知していましたが、そのとき、たまたま東名高速の出口で飲酒運転のトラックに追突されて、お子さん2人を亡くしたという方の無惨きわまりない話がありました。

捜査をしている警察が、どう考えても杜撰というのか、加害者に対しては親切で、被害者は考えられないような扱いを受けているという挿話が披瀝されましたときに、私たちは暗澹とした気持ちになり、慄然として強い問題意識を持ちました。

 以来、私たちはたいしたことはできませんでしたが協力をして、岡村さんが孤軍奮闘し、皆さんが団結することで今日、こうしたしっかりした組織ができました。その過程で、私は岡村さんからいろいろと話を聞きました。

その中で「近代刑法がそもそも誕生したのは、中世まで続いていた復讐を禁じるためだ」という話になるほどなあと思いました。中世までは当たり前であった復讐の正当性を、ルネサンス以来、人間の歴史を染め変えたヒューマニズムが否定して、ひとつの方式を整えた。

歴史の流れとしてそれは納得もできますが、しかし、皆さんの胸に恐らく鬱々としてあるであろう憎悪に近いエネルギー、それを人間が操る法律というもので裁いて刑を下す。しかも人権というものを過剰にとらえて、今日まで被害者がないがしろにされて加害者の人権ばかり尊重されるという、滑稽を通り越して理解ができない現象がまかり通ってきました。

人間がやることですから、当然歪みはあります。そういったことを法律の専門家である一部の弁護士さんたちが維持し守ろうとする中で、被害者という限られた方々が、人間としての当然の心情を冷静に抑えて、法律の枠組みの中でいろいろ改善していこうとされた。

これから起こりうる事件の将来の被害者のために協力されている。誰もやらなかったことをはじめてやっておられる。こういう尊さは歴史に刻まれて残るものだと私は思います。

 岡村さんが、皆さんと語らって行った仕事は、日本の歴史、法律の歴史にとどまらず、社会全体の歴史の中に残る大きなモニュメントだと思います。

これをさらにしっかりしたものにしていただきますようお願いいたします。いつどこで何が我が身に起こるかわかりません。しかも社会の風潮を見ますと、犯罪件数は減っていますが、今まで起こったことがないような事件が起こっています。

また、未解決事件も頻発しています。こういう状況の中で、被害者の人権、本当の意味での人権を守っていく。本来であれば行政や司直の当事者が行っていかなければならないのでしょうが、いわゆる役人はなかなかわからない。

痛々しい現実を我が身のこととして心得た皆さんのお力こそ不可欠だと思います。 立場、イデオロギーを超えて、人間が人間として垂直に継承していかなければならない価値観があります。今後、私たちの存在を左右しかねない未曾有の犯罪が頻発するかもしれません。

こういったことを防ぎ、また正当に裁かれ、それによってそうした事態が抑制されていくために、痛々しい経験をされた皆さんに、これから先の世代のために引き続きご努力願いたいと、都民、国民を代表してお願いする次第です。よろしくお願いいたします。

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【 講演 】 あすの会が世界に与えた影響
常磐大学理事長 諸澤英道
 まず、「あすの会10周年おめでとうございます」と申し上げるべきなのですが、あすの会には、2000年1月の設立から、準備段階を含めて、すべての行事に参加させていただいていまして、私もあすの会の一員のような気がしており、祝辞を申し述べる立場ではないような気もしております。

常磐大学理事長 諸澤英道 本日は、被害者問題に関して「世界の中の日本」「世界の中のあすの会」という視点で話をして欲しいというご依頼を受けました。

昨年の8月に私の大学で国際被害者学会が開かれ、岡村先生には開会式における基調講演をしていただきました。

国際被害者学会には世界56カ国から、500人を超える参加者が集いました。過去36年間の国際学会の歴史の中で、参加国数は過去最大でした。

あすの会の活動については、国外の研究者から熱い視線を受けておりますので、岡村先生には時間をたっぷりとって話していただきました。また、あすの会の会員の皆様も多数、水戸までお越しいただき、国際学会を盛り上げていただきました。この場を借りて改めて御礼申し上げます。

90年代までほとんどなかった
日本の犯罪被害者問題への取り組み
 あすの会の過去10年を振り返りますと、「あっという間」という気がしないでもありませんが、他方で、少し考えますと、まだ10年しか経っていないのかという気もして、大変不思議な気持ちになります。と言いますのは、10年間であすの会は非常に多くのことを成し遂げてきました。

おそらく20年、30年かけてやることを、わずか10年でやってしまった。そう考えると、まだ10年しか経っていないのかという気がするわけです。それだけに、会員の皆様にとって非常に大変な10年であったと思います。

 今日、ここに来るために、第1回シンポジウムの資料を見直してみました。タイトルに「犯罪被害者は訴える」とあり、サブタイトルに「権利の確立と被害回復を求めて」とあります。

権利の確立というのは、実は、あすの会の10年間を物語る大事なキーワードなのです。岡村先生と私は会設立の前の年から知り合い、何度も電話で、あるいは直接お会いしてお話をする機会がありました。先生は常に「権利」という言葉にこだわっておられました。

1975年というと今から35年前になりますが、私は、当時、日本人としてはじめて「被害者の権利」というものを主張し、以来常に、被害者の問題というのは権利の問題、すなわち人権の問題であると考えてきたのですが、それは、岡村先生という存在があったからこそではないかと感じております。

岡村先生は、ずっと「被害者の権利」ということに信念をもって声を上げ続けたわけです。私は、ある意味で岡村先生に引っ張られ背中を押されて、被害者の権利を主張してきたような気がしております。

 世界的な動向を言えば、被害者問題は1950年代から取り上げられるようになりました。イギリスから始まった運動が欧米へ、そして世界へと広がっていき、今まさに、地球の裏側の日本にも届いてきたのであります。世界の動向を見れば、60年代に各国で被害者補償制度が始まりました。

1963年にニュージーランドで被害者補償制度が作られ、翌年から毎年2~3の国が制度を作っていったということで、10年経ったときには40カ国以上が制度を作っていました。70年代の中頃のことです。この段階では、日本は被害者の補償などということへの意識はなかったと思います。

 ご存じの通り、80年にようやく犯罪被害者等給付金支給法ができました。日本は補償という問題で大きく遅れていたのです。しかし補償制度ができたと言っても、まだまだ問題の多い制度です。これを是非改めなければならないということで、あすの会はヨーロッパ調査団を派遣し、調査をし、それを元にいろいろな提案を行いました。

 世界的な動きを見ますと、まず国連を中心とした動きがあります。被害者問題が国連で議論されるのは国連犯罪防止会議という場です。1955年から5年に1回開かれてきた会議で、今年の4月には、ブラジルのサルバドルで開かれます。

1980年の犯罪防止会議のとき、5年後に被害者について取り上げることを決めました。それから学者も真剣になって議論をするようになりました。80年代にいろいろな議論がなされているとき、日本は「空白の80年代」でした。

日本にも被害者のための給付金制度はあるけれど、それ以外はまったくなかった。欧米が大きく動いた時期に、日本は江戸の末期と何も変わっていなかったのです。

 85年の国連犯罪防止会議で被害者人権宣言が採択され、11月の総会で正式なものとなりました。このとき、日本政府も大掛かりな代表団を送り込んで賛成票を投じています。それを受けて85年から日本も動き始めるかなと思っていましたら、まったく動きがない。海外と国内ではこれほど違うのかと強いショックを受けました。
着実に成果を上げてきたあすの会
海外でも注目されているその活動内容
 90年代になって、ようやく少し動き始めます。95年1月の阪神淡路大震災、そして3月の地下鉄サリン事件といった大きな災害、事件が起きて、ようやく人々の目が被害者に向き始めました。この辺りから動きが始まったように思います。

私も92年に「日本の被害者支援を考える会」を発足させ、専門家と議論を重ね、95年に水戸被害者援助センターを設立して今日に至っています。

 90年代になって、ようやく諸外国から日本の状況に問いかけがあり、国際被害者学会の場などで、当時、日本における被害者支援の取り組みについて講演を求められました。

当時の日本は何もないに等しかったわけですから、大変歯がゆい思いをしたことを覚えています。「何もない」ということを30分かけて話すことのつらさです。そうした中で非常に印象深かったのが、6年前、南アフリカでの国際学会で、「刑事裁判は被害者のためにあるのではない」という最高裁の判例を紹介したときのことです。

このとき、会場からはどよめきが起こりました。日本はそれほど遅れているのかという感じです。法律はいろいろ整備されてきましたが、この判例はまだ変わっていません。この最高裁の判例は必ず改められなければいけないと思っています。

 2000年代になると、海外でも「あすの会」の存在が注目されるようになってきました。私は、機会がある毎に、求められて「あすの会」の活動について話してきました。その話を是非直接聞きたいということで、昨年の国際被害者学会で岡村先生にご登壇いただいたわけです。

こういう機会を設けてくれと最初に言われたのは2003年のシュテレンボッシュでの大会でした。そのとき、日本では被害者が立ち上がって熱心に運動に取り組んでいました。

学者や専門家が中心となって動かしていった国、政府が率先してやった国などもあります。日本の場合は、あすの会が風を起こし、確実に成果を出している。

それもひとつのやり方であるということで、「日本方式」などと言われていました。岡村先生の話を聞いて、日本がどれだけ大変なことをやり遂げたのかと、学者たちの反応は非常に熱いものでした。

しかし、岡村先生は、講演の最後に「被害者が立ち上がらなければならなかった、こういう国は、日本が最初で最後であって欲しい」とおっしゃった。日本のやり方がひとつの理想だと思っていた学者たちは、被害者遺族がこうしたことに取り組むことがいかに問題であるか、わかったわけです。

それをやり遂げた、やり遂げつつあるのが、あすの会の会員の皆さんだということです。国際会議の場では、常に日本がこれだけのことをやってきたということを非常に高く評価されます。

4月の国連犯罪防止会議では、5年後の会議で「被害者人権条約」を作ろうという動きが始まります。そのための議論を始める流れを作ろうと今、準備をしているところです。

 私の手元にある「被害者人権条約」案を見ますと、国連被害者人権宣言から20年以上を経て、日本の犯罪被害者等基本法や基本計画が確実にモデルになっている。

いろいろなことが権利として明確になっています。今、国際的に、犯罪被害者への取り組みは次のステージに上がろうとしている。その流れを作ったのはまさにあすの会の運動でした。

そして、今、世界から熱い視線を向けられています。基本精神を確実に実現していくために、各地の現場で、実務のレベルで、また裁判の場で取り組んでいただければと思います。
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【 講演 】 動き出した被害者参加と損害賠償命令
代表幹事 岡村 勲
 あすの会の発足は、ただいまご講演いただいた諸澤先生のアドバイスによるものが大きかったと言えます。私ども最初に集まった5人は、国民に被害者の窮状を訴え、理解してもらおうということを考えてきました。

諸澤先生に相談すると「それだけではもったいない。被害者が団体を作って欧米のように発展させていくべきだ」とおっしゃいました。その忠告に従って、「あすの会」を作ったのでございます。

先生のご助言がなければ、シンポジウムを何回かやって、それで終わっていたかもしれません。改めて諸澤先生には感謝の意を表しますとともに、引き続きご指導をお願いいたします。

被害者参加制度の導入で
大きく変わった裁判所の雰囲気
 さて、私たちの求めておりました訴訟参加、損害賠償命令の法律は一昨年の12月1日から法律上施行されましたが、法廷においてそれが現実のものとなったのは昨年1月からです。
代表幹事 岡村 勲奇しくもあすの会設立9周年にあたる日に、東京地裁においてはじめて2つの被害者参加裁判がありました。

私どもも傍聴券を手に入れるべく朝早く法廷に行きました。残念ながら1枚しか当たりませんでしたが、当たった会員が私に傍聴券を回してくれました。

交通事故で夫を亡くした奥さんとお兄さんが参加された件を傍聴しました。その裁判を見て思ったのは、被害者が法廷の中に入ることにより、裁判所の雰囲気が変わったということです。

 これまでの裁判では、弁護士は加害者を救うために、被害者に全面的に過失があったと平気で言っておりました。私の事件の場合も、被告人は私の妻が飛びかかってきて、突き飛ばされた、それで、とっさに刺したと妻のせいにしました。

現場の状況からはあり得ないことにもかかわらず、弁護人はそれに基づいて堂々と被告人の正当性を訴えました。加害者側の言いたい放題だったのです。

 傍聴した裁判でも、以前であれば100%被害者の過失を主張していたでしょう。ところが参加した被害者を目の前にすると、被告人の弁護士が「遺族の前では言いにくいことですが、もしこの事件を民事訴訟の損害賠償に当てはめれば、30%は被害者の責任が認められるでしょう」と述べたのです。

丁寧なその言葉を私はとても気持ちよく聞くことができました。裁判官もそうだったと思います。遺族も黙って聞いておりました。やはり被害者が入ることで、裁判は変わってきたのです。

 札幌で、女子高校生が自転車で帰宅中はねられた事件では、参加した父親は当然のことながら重罰を求めました。

裁判所は被告を実刑にすることはしませんでしたが、裁判の終わりに「お父さん」と呼びかけて「先ずはお悔やみ申し上げます」と述べた上で「お父さんがお嬢さんに対して深い愛情を持っておられることはよくわかりました。わかった上で、裁判ではこれしかできませんでした。ご納得ください」と裁判官が父親に話しかけています。

父親は泣きながら頷いたそうです。今までなら考えられなかったことです。このように裁判所の雰囲気が変わってきました。

 また、被害者が参加すると応報的になる、裁判が長引く、被告人が萎縮すると言って日弁連は参加に反対しました。これは戦前、特高警察の時代に、あまりにも被告人の人権が守られていなかったという事情があります。

歴史的背景から「国家」対「被疑者・被告人」、「強者」対「弱者」という立場をとり続けてきたのです。私もかつてはそうしておりました。

そうした伝統があるため、どうしても加害者ばかりに目がいって、被害者には目がいきませんでした。しかし、犯罪には加害者がいれば被害者もいる。そしてどちらにも人権はあり、とくに害された被害者の人権を守らなければならなりません。

 私どもはドイツ、フランスで調査をして、反対論には根拠はないと、自信をもって改革案を提案しました。被害者参加制度について、私どもが提案した内容は、もっと被害者の権利が強いものでしたが、現行のようになりました。

 犯罪の立証責任は検察官にあります。ただし検察官も見落とすことがありますから、そのような場合は問いたださなければなりません。ただ、一般的には私は、参加人は自分が言いたいこと、聞きたいことに絞って言うべきだと思っています。凶悪犯罪において、被害者と加害者が会える場所は法廷しかありません。

しかも3、4回で裁判は終わってしまいます。その間しか、対峙できないのです。このとき、言いたいこと、聞きたいことをよく絞るほうがいい。

 53歳のある独身男性が殺されました。その姉が裁判に参加しました。そして被告人に対して「私は弟の臨終に立ち会うことができませんでした。最後に弟は何と言って旅立ったのでしょうか。その言葉を聞きたいのです」とだけ質問したのです。

水を打ったように静かになった法廷で、被告人は身を震わせながら「私が首を絞めていたので言葉は出せませんでした。恐らく私を恨んで逝ったのだと思います」と言いました。

また別の交通事故の裁判では、事故で視力を奪われた被害者が被告人にひとこと聞きました。「私は目が見えなくなりました。この私を見て、あなたはどう思いますか」と。

 これを弁護士が代わりに質問したのでは効果がありません。被害者自身が自分の言葉で言うから感動を与えるのです。

弁護士の方に理解を深めていただきたい
被害者参加代理弁護人の役割
 この制度は、もともと被害者が中心になって行動すべきものとして作られています。ただし裁判は法律的な技術が要りますから、被害者に、アドバイザーとして弁護士がつくことになる。国選でつく必要があります。

ただし、これは被告人の国選弁護とは異なります。被告人の国選弁護の場合、「選任」と言い、被告人の意思にかかわらず、被告人に有利になると思えば、弁護人は独自に弁護行為をする固有権を持っています。

しかし、被害者参加弁護人を選ぶ場合、「選定」と言い、固有権がありません。つまり被告人から委託を受けた事項についてしか関われません。

 被害者参加弁護人の制度については、被告人の国選弁護人と同じように何でもできると考えている弁護士もいるようで、実際、ある被害者が法テラスの紹介で国選の被害者参加弁護人に会ったとき、「この被害者参加制度は弁護士会も検察庁もみなやりたくなかった。

ところがある団体が無理矢理ねじ込んで作ったのだ。俺もやりたくないから、そのつもりでいてくれ」と言われたことがあるそうです。これに不満を持った被害者は、あすの会に何回も相談に来られました。

極端な例ではありますが、こういうことが行われている。「訴訟行為だから、弁護士主導でやるべきだ」と言っている人もいるようです。

 この制度の趣旨を理解していただきたい。被害者参加制度は、3回か4回しか加害者に会う機会がない中で、被害者が本当に言いたいことを言い、聞きたいことを聞くために作られたものです。

被害者の意向に従った行動をしていただきたいと思います。そして被害者もわからないことが多いでしょうから、被害者参加弁護士は検察官と十分に打ち合わせをしていただく必要があります。

被害者だけではできないことも、弁護士が関わることでできることがあります。弁護士には、黒子として被害者を立てて、アドバイスをしていただくようお願いいたします。

 最高検察庁で、昨年11月までの被害者参加申し込みの統計があります。約1年で、552件でした。その中で850人の方が参加されました。交通事件がいちばん多いのですが、詐欺、強盗などもあります。

まだこの制度は十分に知れ渡っていません。7月までは参加該当案件の2%ぐらいしか参加がありませんでした。今、3%ぐらいになり、徐々に上がっているようです。参加は、ほとんどは、検察官に制度があることを教えられたためということです。

法テラスや弁護士会からも参加制度を積極的にお伝えいただきたいと思います。また、国選の被害者参加弁護人がつくことで、かえって被害者を傷つけることがないようにお願いいたします。

 損害賠償命令についても大変助かっております。1億円の損害賠償を起こすために、32万円の印紙代がかかります。これが損害賠償命令制度を利用すれば、2000円の印紙で済みます。

刑事裁判で有罪を言い渡した裁判官が、引き続き裁判をしてくれますから、記録の謄写代も印紙代もかからず、スピーディーに進むということで被害者は助かっております。

この制度も、今後、広まっていくことでしょう。  どうかこうした制度を、被害者の方々が十分に活用されるとともに、弁護士の方々に宜しくお願いいたします。
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【 講演 】 時効廃止に向けて
弁護士 河野 敬
被害者より加害者を厚遇
非常に不合理な公訴時効の制度趣旨
 犯罪被害者に関する大きな問題としては、被害者参加や附帯私訴、補償などがありますが、喫緊のものといえば公訴時効の問題です。先程、加藤法務副大臣からもお話がありました。

まさにこれから2週間程度で法制審議会刑事法部会の方針が出され、法案が上程され審議されるというスケジュールが迫っている状況にあります。そこで今回、この問題について分かりやすく説明するようにとのお話をいただきました。

弁護士 河野 敬 公訴時効とは、罪を犯しても一定の期間を経ると起訴ができなくなるという制度です。つまり裁判ができなくなり、判決が出ない、そして刑罰が科されないということを意味します。
つまり加害者に対して、一定期間が経てば「あなたを罪に問いません」ということを国家が認めることになるわけです。

 普通に考えれば、これは非常に不合理なことです。そもそも法治国家においては、罪を犯せば適正な裁判を受けさせ、刑罰を与えるのが大原則です。

時間が長期間経過したから罪に問われなくなるというのであれば、相応の理由がなければなりません。

その理由として言われているのが「公訴時効の制度趣旨」と言われているものであり、これは3つあります。
  1. つめは長期間経過すると、証拠がなくなってしまうというものです。証拠がなければ正しい裁判はできず、被告人の不利益になるというわけです。

  2. つめは時の経過によって被害感情が薄れるというものです。お聞きになって憤りを感じる方は多数いらっしゃると思います。

  3. つめは、時の経過の中で形成された加害者の生活を保護しなければならないというものです。

例えば、加害者もこの間、結婚し、子どもが生まれているかもしれない。仕事に就いているかもしれない。それを保護しなければいけないということです。刑事訴訟法を学んでいると、教科書の公訴時効のところに、これらのことが書かれています。

私たちもこれを読んで、そんなものかなあと思ったりしました。でも、よく考えてみるとまったく違うのではないか。これが制度改革の出発点になったわけです。

 まず証拠の散逸で正しい裁判ができず、被告人に不利益になるという点です。そもそも刑事訴訟においては、検察官が立証責任を負っています。「この人が○○という罪を犯した」という「訴因」を掲げてこれを立証するわけです。

立証ができなければ無罪になるわけで、証拠がなくなって不利益を受けるのは被告人ではなくむしろ検察官ではないかということになります。

また、証拠がなければ起訴できませんから、誤判の恐れもありません。2番目の被害感情が時の経過によって薄れるという話は、今、ここにいらっしゃる方にとって非常に腹立たしいものだと思います。家族が殺されたり、あるいは傷つけられて重い後遺症があるような場合、時間がたてば仕方ないと思えるかといえば、絶対にそのようなことはありません。

このような制度趣旨は被害者の立場に立って考えていない机上の空論でしかないと思います。そして3番目の時の経過とともに形成される加害者の生活を保護すべきだという点です。これはそういう見方もあるかもしれません。

しかし、被害者から見れば、時間がいくら経っても亡くなった人は戻ってきませんし、元の状態には戻れないのです。重篤な後遺症がある場合、それが治るわけでもありません。それにもかかわらず一定期間経過すれば、加害者だけが処罰されなくなるという保護を受けるということを国が認めるというのはおかしいと思います。

 このように考えてくると、公訴時効の制度趣旨というものは、非常に観念的で、合理性のないものだと言わざるを得ないのではないでしょうか。

 被害者にとってとても受け入れられない公訴時効の制度趣旨は、昨今、一般国民からもおかしいと思われるようになってきました。これはあすの会をはじめ、さまざまな被害者の方々の意識が高まり、それが国民の間にも浸透してきたということだと思います。

その結果、公訴時効については改正の動きが出始めました。まず、平成16年(2004年)に、それまで15年だった殺人罪の公訴時効の期間が25年になるなど、時効期間が延長されました。この改正を受けて、今回はもういいではないかという議論もあります。

しかしこのときの改正は、刑法の改正に伴うもので、公訴時効について必ずしも突っ込んだ議論がなされていたわけではありませんでした。

 そして今、多くの被害者の方々から意見が出され、公訴時効が正面から取り上げられるようになりました。この動きを加速したのが、昨年1月に法務省内に設置された勉強会です。この勉強会は3月に中間のとりまとめを出しました。

その後、各界の意見を入れて7月15日に公訴時効に関する一定の方向性をまとめました。ここには非常にいろいろな論点が書かれており、議論の出発点と言えるものかと思います。

この内容については法務省のホームページにアップされていますので、ぜひご覧ください。
法務省(pdfファイル24ページ 180kb)
凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方について ~制度見直しの方向性~ 

公訴時効の廃止、延長の実現に向けて
ようやくスタートした議論
 そこで言われている公訴時効についての論点ですが、

第1の論点は凶悪重大犯罪についての公訴時効の在り方をどうすべきか、つまり殺人や強盗、強姦といった凶悪重大犯罪に限って議論されているわけです。具体的な在り方としては、公訴時効を廃止すべきか、あるいは期間を延長すべきか、対象となる犯罪の種類によって扱いをどうすべきかなどが問題になっています。

第2の論点は、新法によって時効が廃止、あるいは延長されたとき、新法が適用される前に起こった犯罪について新法を適用すべきかという問題です。これは、いわゆる「遡及効」を認めるべきかという問題です。

第3の論点は「刑の時効」という問題です。これは裁判を受けて判決が確定して、死刑、無期懲役と刑が決まった場合、とくに死刑が執行されないまま置いておかれることがあります。そのようなとき、刑の確定した被告人が刑務所から脱走して逃げ回っていると時効になるという話があるわけです。

そんなことがあるのかと思われるかもしれませんが、あるのです。刑が確定していない人について公訴時効を廃止するのであれば、確定している人についても廃止しなければおかしいのではないかという点についても議論されていることです。

 以上の点について、法務大臣が法制審議会に対して諮問し、昨年11月から法制審議会の刑事法部会において議論が行われています。今まで5回会議があり、この後、3回会議を予定しており、2月4日、あるいは8日までに結論が出される予定です。

そして、こうした議論と並行して、法務省は一般の国民に意見を求めました。この結果について時事通信がインターネットで配信をしており、とくに凶悪なものについては廃止、それ以外も延長すべきという意見が大勢です。

またすでに起こされた事件についても適用すべきとする意見も大半だったとのことでした。そして、あすの会でもアンケートを行いましたが、廃止を求める声が圧倒的多数を占めました。

 この法制審議会刑事法部会には、岡村先生が委員として参加され、私たちも随行しています。審議の状況を見ていますと、反対論がないわけではありませんが、廃止もしくは延長の方向に行くのかなと、個人的には思っております。

ただ、審議会で結論が出た後、国会に上程されるまでがひとつ問題となるでしょうし、国会に上程された後、本会議で採決されるまでは予断を許さないところですので、皆様のご協力をいただきながら活動を進めて参りたいと思っております。

あすの会としては、できる限り被害者の意向にそった結果になるようにがんばっていきたいと思いますので、皆様のご協力をお願い申し上げます。

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「全国犯罪被害者の会・あすの会」space.gif
【 パネルディスカッション】 「望ましい経済的被害回復制度」
[コーディネーター]
 高橋正人 あすの会幹事・弁護士
 
[パネリスト]
 岡本 真寿美 あすの会会員
 川本 弥生 あすの会会員
 小木曽 綾 中央大学法科大学院教授
 白井 孝一 あすの会副代表幹事・弁護士
 松畑 靖朗 弁護士
 
パネリスト(敬称略)
【 高橋 】あすの会を設立した時、刑事手続きと刑事司法における被害者の権利の獲得、経済的・精神的な被害の回復というふたつの大きな目標を掲げました。被害者の権利獲得については被害者参加制度の施行で大きく前進しました。

他方、経済的な被害回復制度は、平成20年7月から犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律(以下、犯給法)が拡大され、以前よりは救われるようになったとはいえ、3分の1、5分の1ぐらいしか被害が回復されていないというのが実情です。

そこで今日は、犯給法の拡大や新しい被害者補償制度の創設を目指し、望ましい制度の在り方について議論していきたいと思います。
 議論に先立ち、まず被害者の実情を知っていただきたいと思います。

基調報告 1 ------- 川本弥生
 人の命をお金に代えることはできません。ですが息子を殺された事件後に請求した「犯罪被害者給付金」の窓口で、担当者から適用外だと言われたとき、あまりにも報われない気がしました。

 私と夫(息子を殺した父親)は、87年に結婚し、その年に息子が産まれ、3年後に娘が産まれました。95年の阪神大震災をきっかけに夫は職を失い、家族、とくに息子に暴力を振るうようになりました。息子をかばう私も殴られました。

夫の行動はしだいにエスカレートし、何年も地獄のような日々を送った後、二人の子供たちを連れて離婚することを決意しました。

息子は、自分が一番つらい思いをしていたにもかかわらず、「また立ち直ってくれるかもしれへんから」と、私の強い説得にもかかわらず父親との同居を選びました。

 その後、私は息子がいつでも家を出られるように、息子の通う中学の近くに部屋を借りました。毎日、お弁当を作って玄関ドアに袋をぶらさげ、息子は学校に行くときにそれを持っていき、帰りに戻してきました。

その中には、私は「寒くなってきたから、お布団かぶって寝なさいよ」とか、「期末試験が近いね。頑張ってね」などと息子に宛てた手紙を入れました。

空のお弁当箱に、プリントの切れ端に書いた息子の返事が入っていることもありました。私の誕生日には「ママ、お誕生日おめでとう」と書いてくれました。

 そんな中でも、夫は私たちに執拗にストーカー行為を繰り返したのです。当時15歳の息子は、それをやめるよう父親に訴え、逆上した夫は、そんな息子をナイフで刺したのです。

 事件後、裁判が2年続きました。私は加害者が怖く、裁判所の建物にすら入れませんでしたが、1度だけ、証人尋問のとき、勇気を振り絞り法廷の中に入りました。衝立を立てていただきましたが、その向こうにいる夫の存在を感じ、法廷を出てすぐに失神してしまいました。この裁判のことが衆議院法務委員会で紹介され、被害者参加制度導入の一助になったと伺いました。

息子の死が無駄ではなかったと思えました。  息子の葬儀は、私が出しました。当時、すでに生活保護を受けていたため僧侶に来ていただく余裕はなく、人前葬で、息子はたくさんのお友達に見送られました。生活保護は、離婚直前の別居中から娘と二人分を受けていました。PTSDのため長時間働くことができず、パート代はわずか7~8万円で、生活保護費は9万円ほどでした。

 事件後、ずっと不登校だった娘は、子ども好きだった兄の影響で「保母さんになりたい」と言いましたが、生活保護を受けながら大学へ行くことはできないとケースワーカーに言われました。

現在、私の収入は、パート代が月に約10万円、生活保護がおよそ4万円です。一人世帯の生活基準が、約14万円ですので、収入の約10万円が差し引かれ、残りの4万円が支給されています。実際には二人で暮らしているのに、一人分の生活基準で暮らしていることになります。

今、娘は奨学金を受け、大学に通っています。娘が大学に入る前は、二人で7万円ぐらいの保護がありましたが、昨年4月より娘の分がうち切られ、3万円がカットされました。

一昨日、届いた通知には、今年2月の保護費はさらに少なく、3万円と書いてありました。理由はわかりません。娘が18歳になるまでは、母子手当の支給がありましたが、それも今はありません。

 娘の授業料は年間約100万円で、奨学金は年間60万円。足りない分は、月に3~4万円を収入の中からまわしています。家賃は二人世帯のときの上限の52,000円のアパートに住んでいますが、娘の保護が打ち切られた今、一人世帯上限分の42,000円の家賃のところに引っ越すよう、毎月、指導されています。

公共の住宅は不便なところが多く、私の通勤や娘の通学が困難です。一般のアパートでも、42,000円の家賃では、不便な場所かワンルームになります

 現在、約14万円の収入のうち、家賃・光熱費・授業料の合計が約12万円、残りの2万円で食費や日用品、病院代をまかなわねばなりません。

 夫の出所は、あと1~2年後に迫っており、身の安全のためには転居しなければなりませんが、今年48歳になる私は、転居し、新たに職を探せるかどうかわかりません。転居しなければ、出所した夫がいつ来るかもわからない緊張感の中で暮らさなければいけません。

 何度も「もう息子のところへ行きたい」と思いましたが、それを止めたのは娘の存在です。娘の心のケアをして、しっかり学校へ行かせてやることが、私の償いだと思いました。

娘を月に一度のカウンセリングに連れていく5,000円の交通費も苦しい生活の中からやりくりしました。今まで生活保護以外の助けは、給付金もお見舞い金も、補助金も何もありません。

 私は、生活のために働くことで精いっぱいで、自分のケアが後回しになったせいか、今も涙が止まらなくなるときがあります。乳母車に乗った男の子の赤ちゃんを見たとき、黒いランドセルを見たとき、学生服の後ろ姿を見たとき……。涙のスイッチはいたるところにあります。

 娘もこんな思いをしながら、それでも希望を持って大学に通っているのかと思うと、せめて、普通の暮らしをさせてやりたいと思います。

 犯罪被害者給付金制度は、自分が尽くした父親の手によって命を絶たれた息子を被害者と認めてもらえないのでしょうか。親族間とういことで、一律にすべて排除されてしまうというのは、あまりにも切ないです。せめて息子に立派なお経をあげてやりたい。せめて、娘にコートを買ってやりたいと思います。

 事件後なおも、ずっと苦しみ続けなければならない被害者や被害者遺族に、救いの手が差し伸べられますように、充実した制度が作られていきますように、切にお願いいたします。ありがとうございました。

基調報告 2 ------- 岡本真寿美
 仕事もプライベートも充実した毎日を暮らしていたある日のこと、加害者は同僚の女性に好意を抱き、交際を求めたが断られました。そしてうまくいかないのは私のせいだと因縁をつけられ、いきなり体にガソリンをかけられ、火をつけられ、90パーセントの大火傷を負わされました。

加害者は「俺、警察に捕まりたくないからタバコの火で引火したと言え。いいな」と言ってきました。やっと、病院へ運ばれたものの、先生は両親に「娘さんは一週間持てばいいでしょう。一応覚悟しておいてください」と告げられました。

先生、家族の努力と願いで意識は取り戻すことはできたけれど、目を開けることも、話をすることもできませんでした。ただ人の声、足音を聞き取ることが私にとって唯一の望みでした。

 その後、元の体に戻していくには皮膚が必要なため、兄や父は私に何も言わず皮膚提供手術を行っていました。家族も犠牲にしてしまい、私は自分を責めるばかりでした。

自分の皮膚をとっては移植手術をくりかえし、治療とリハビリの猛特訓をつづけ、先生の支えもあり、やっと立てるようになった頃、刑事裁判が始まりました。

 証人尋問に立つか迷っていた時、「加害者が一生面倒みるから俺と結婚してくれ」と言って罪を軽くしようとしていることを検察の方より聞き、私は、裁判所へ行きました。

私は裁判官に「もし、あなたの娘、息子が何もしていないのに、こんな体にさせられたらどう思いますか。そこのところよく考え刑を下してください」と短パン、タンクトップ姿で言いました。

求刑7年、判決6年。それは納得できない判決でした。その一方、加害者の親は、「息子は20歳までしか育てていませんので後は知りません」と言って開き直り、家も他人に売り、行方をくらましたままです。

 入退院の日々で、後遺症との闘いが続く中、一生懸命、治療してくださり先生はには感謝しています。その一方で、医療費の問題でとても苦しめられました。

事件直後から入院費用を工面するため家族が走り回りましたが、市役所に生活保護を申請すると「加害者が支払うべきだから手が出せない」、法律扶助協会からは「こういう場合、加害者が支払えないなら、泣き寝入りするしかない」と言われました。

やっと生活保護が認められたときには、入院から2ヶ月たっていました。退院後、地元で生活保護を受けようとしましたが、当時の保護課の課長より「犯罪被害者と関わって、この町まで被害に遭いたくないから」と却下されました。

やっと2ヶ月かけて隣町で保護が認められましたが、最初の2ヶ月と退院後の2ヶ月間の医療費合わせて4百数十万円を請求されました。

 医事課の方より「どうして、ここの病院に運ばれてきたのか。他の病院に行ってくれればよかった」「あなたが病院代を支払ってくれれば、この病院は成り立っていくんだから、早く支払ってください」「あなたが刑務所へ病院代を取りに行け!」「被害者は味方もいないし、いつも頭を下げていないといけない」などと言われ続けていました。

 私は、医事課に「母、一人に対して5、6人で請求するやり方はおかしいのではないですか」「加害者が支払うと言ってますので、加害者に請求してください」と言いましたが、請求は何年も続き、ついに家まで押しかけてきました。

 生活保護を受けていく中で、私は被害に遭い発汗作用がないため、クーラーの使用を認めてほしいとお願いしましたが、保護課から「クーラーはぜいたく品だから駄目だ」と却下されました。体調を崩したのち、やっとクーラーの使用を認められたのです。私が担当者に「何のために生活保護はあるのですか。

社会復帰のためじゃないのですか」「もし、あなたが私のように犯罪の被害に遭わされた時、どんなに屈辱的な思いをするか、わかりますよ」と言うと、担当者は「そんな馬鹿な犯罪には遭いませんから」「だから保護費を出してやってんだろう。

ガタガタ言うな!」「カウンセリングに通いたいなら、勝手に自費で行ってくれ」などと言われ続けました。

 現在、加害者は出所して苗字を変え、のうのうと結婚し家庭をつくり、会社を経営しています。加害者からは一切の治療費の支払いも補償もありません。私は、やっと社会復帰を考えられるようになり、職業訓練学校へ行きパソコンを覚えましたが、事件発生から現在に至るまで空欄なため、なかなか職が見つかりません。

 今は、月2万円の生活保護と月6万円の年金で生活しています。年金は以前、勤めていた厚生年金が適用されたため、申請を行ったことで今の金額となりました。

光熱費、食費、病院へ通う際の交通費などやり繰りをしていますが、とても厳しい状況にあります。もし職場に採用されたら、今後は自分で治療費など支払っていかなければならないという問題もあり葛藤する思いです。

何も悪いことをしていないのに、被害に遭わされ後遺症が残ってしまった費用をどうして自分で支払うのか、悔しさは増すばかりです。加害者は、今では何もなかったように楽しく生活していることでしょう。いわゆる逃げ得です。

謝罪してほしいのではありません。加害者は治療費、一生の補償をすべきであり、事件前のすべてを返してほしいのです! ありがとうございました。

パネルディスカッション
改正された犯給法ではまだ不十分な
犯罪被害者救済の実情
【 高橋 】:ありがとうございました。これほど社会性に反することはないと思います。被害に遭うと国が補償をしてくれるものだと誤解している人がほとんどなのではないでしょうか。平成20年7月1日に、犯給法は大きく改正され、これにより被害者は十分に保護されていると誤解している人もおります。お二人が、今、同じような被害に遭われたとして、改正犯給法で救済されるのでしょうか。犯給法の拡大に内閣府審議会の委員として参加された白井先生、犯給法が積み残した部分について教えてください。

【 白井 】:犯給法の制度拡大で、重傷者や死亡した方の遺族への補償は、自賠責補償の政府事業並みになったことが大々的に報道され、十分に補償されるようなイメージを与えました。確かに改正された部分は以前よりよくなりましたが、積み残しはたくさんあります。

 あすの会では、犯罪被害者への国の補償制度を充実したものにするための改革案を検討し、イギリスとドイツへ調査に行きました。そのとき、今、報告された岡本さんのようなケースについて、「もし、お国の制度で補償したらどのような内容になりますか」と具体的に聞いて歩きました。そして帰国後、被害者の実情に合った補償制度について要綱を作り、それを元に内閣府での経済的支援に関する検討会で希望を出しました。しかし、残念ながらかなりの部分は残されたままになっています。

 まず医療費について。岡本さんの場合、400万円の治療費が請求されたとのことでした。その際、皮膚移植のために行ったお父さんやお兄さんの手術代も自己負担です。このように日本では、被害者が一旦お金を払って、後で治療費の補償を請求するシステムになっています。

これでは被害者が困るので、治療費を負担しなくて済む制度にしてほしいと再三お願いしましたが、実現していません。今後、被害に遭われた方も、まず自分でお金を払わなければならないという問題が相変わらず生じます。また、医療費の額についても、今の医療費保障制度では1年間、休業補償も含めて120万円しか保障されません。

 また、親子では保障の対象にされないという川本さんのお話がありました。DVなどで夫が妻を殺した場合、以前は補償の対象にされませんでしたが、改正後、通常の3分の2ぐらいは補償されるようになりました。しかし加害者と被害者が親子であった場合は以前と変わっていません。

これについて私たちは、親子、恋人といった関係であっても補償すべき場合はあると主張しましたが、実現していません。カウンセリングの費用も私たちは無料にしてほしいと主張しましたが、これも実現していません。

 もうひとつの大きな問題は、法律が大きく改正される前に被害を受けて、いまだに苦しんでいる方がたくさんいるということです。そこで過去に遡って法律を適用してほしい。適用する場合も、安心して生活できるように、家賃や生活費で苦しい思いをしないように、将来にわたって年金を出してほしいという主張をしました。しかし、年金については、けんもほろろの状態で積み残しになっています。

 金額面についても、1級の障害で4,000万円、死亡の場合3,000万円という最高額が決まりました。しかし金額が上げられたのは、障害の場合、3級以上の方で、4級以下の方は金額が上がっていません。等級は労働能力の何%を失ったかで定められています。4級は76%。ほとんど働けません。

そういう人の金額が上げられていないのです。本来、被害を受ける前の平穏な生活を取り戻せるような支援をすべきだという基本法の理念からすれば、より充実した被害金額の補償が必要ではないかと思います。

高橋正人 あすの会幹事・弁護士【 高橋 】:医療費についてつけ加えますと、我々は普通、健康保険を使っています。3割負担ですから、100万円の治療費であれば、通常70万円を健康保険組合が負担し、残りを自己負担します。しかし、第三者の不法行為による場合、加害者の承諾がないと健康保険が使えないという建前があります。

そして、岡本さんのような事案では、加害者は承諾しないでしょうから健康保険は使えない。加害者は払わないということがわかっているから、病院も健康保険を使わせたくない。事実上使えない。

その結果、400万円もかかってしまうのです。そして改正犯給法では自費の診療ではなく、健康保険の自費負担分だけ国が払うということになっています。

 お二人のケースは、今の改正犯給法では十分に解決できません。ではどうしたらいいのかということですが、その前に、諸外国の例を紹介します。

【 松畑 】:我が国における犯給法の支給実績は、人口1億3,000万人に対し21億3,600万円です。1人当たりの負担額にして16円43銭です。これに対してアメリカは2006年の実績で、人口3億人に対し総支給額が500億円。1人当たり167円です。イギリスは人口6,000万人に対し、総支給額330億円。

1人当たりの負担額は550円。フランスは人口6,000万人で総支給額356億円。1人当たりの負担額593円。ドイツは人口8700万人で総支給額278億円。1人当たりの負担額は339円です。諸外国に比べて日本がいかに低い実績かがわかります。

【 高橋 】:ひとことで言えば、ケタがひとつ違います。国連の分担金で、日本は全体の12.5%を負担し、世界第2位です。その我が国が、自国民に対しては、これだけの予算しか配分していない。ではこのことが制度上、どのような違いとして現れてくるのでしょうか。 まず医療費について、ドイツはどういうシステムになっていますか。
海外における犯罪被害者救済のための
医療制度・後遺障害への施策
【 松畑 】:ドイツでは補償が適用されると、医療費は全額無料化されます。健康保険組合の負担分、被保険者の自己負担分は、すべて国が負担します。

自己負担部分については、一旦、被害者が納めなければならないとされていますが、実際には被害者に負担をかけさせないために、支給を司る援護庁から前倒しで払う制度が多数運用されていると聞いております。

元々ドイツでは健康保険制度が充実しており、対象外の疾病がないということです。入院の場合も、自己負担の上限が年間で280ユーロ、日本円で1ユーロを150円で換算すると、約4万2,000円。それ以上の自己負担がないため、被害者が高額医療費で苦しめられることはありません。

 ドイツの場合、再就職のためのリハビリテーション費用や介護援助、訪問看護、マッサージといったサービスを受けることも含めてすべて無料化されています。また、実際の医療器具として、メガネ、車いす、プロテクターなどの現物給付もあり、きわめて充実した制度となっています。

【 松畑 】:イギリスはどうなっていますか。

白井孝一 あすの会副代表幹事・弁護士【 白井 】:イギリスも医療費は無料です。
これは犯罪被害者補償というより、そもそも国民健康保険で無料になっているということです。アメリカのマイケル・ムーア監督の「シッコ」という映画でも、イギリスの病院の様子が取り上げられ、患者さんからお金をとる会計係がそもそも病院内に設置されていないことが紹介されていました。
そのほか、障害に伴って必要となる自宅の改造といった環境の整備費、特別の治療などについては、犯罪被害者補償が特別支給金として出されます。


【 高橋 】:あわせてお聞きしたいのですが、川本さんはすぐに仕事を始めなければ立ち行かなくなるため、事件から1週間で復帰されたそうです。本来なら1カ月、2カ月は心の整理をしてから社会復帰できればと思いますが、その場合の休業補償、所得補償はイギリスではどうなっているのでしょうか。

【 白井 】:当面の休業補償については、犯罪被害者に特別の制度はありませんが、勤労者の場合、雇用主から毎月給料が払われます。雇用主から支払われなければ、28週以内であれば国が代わって補償するシステムがあります。

また、自営業者の場合、金額は低くなりますが、不就労給付というものがあり、一定の金額が出されます。休業期間が28週以上になると、別の所得補償があります。

【 高橋 】:ドイツではいかがですか。

【 松畑 】:ドイツは犯罪被害の補償法としてではなく、一般的な法律として被害者が労働者であれば、事件後6週間は雇用主から100%の賃金が支給されます。また、法定健康保険の強制被保険者であれば、事件後最大78週目まで健康保険から疾病手当として事件前の8割が補填される仕組みになっています。

【 高橋 】:では次の論点に進みます。岡本さんのような重篤な後遺障害がある場合の手当はどうなっているのでしょうか。

【 松畑 】:ドイツの補償制度の最大の特徴は年金支給にあります。ドイツには基礎年金、所得調整年金、調整年金という3種類の年金があります。年金が保障される要件として、働く能力が30%以上喪失した状態が半年以上継続しなければならないというものがあります。

その中で所得調整年金は、たとえば事故に遭う前に得られていた収入が月に50万円、事故後得られている収入が10万円とすると、40万円という差額の42.5%を保障しようというものです。17万円が支給されるわけです。

【 白井 】:イギリスは年金ではなく、一時金方式です。補償の仕方が2段階になっており、まず等級表に従った支給がなされます。さらに28週以上の休業を余儀なくされるような障害が残った場合、所得補償が加算されます。

等級の最高額が日本円にして約5,500万円、それから後の所得補償も含めると、1億円ぐらいまで支払われます。私たちが調査に行った際も、1億円を支給された方が何人かいるということでした。

 金額だけではなく等級の区分も日本とはだいぶ違います。日本の場合の等級は、労災も自賠責保険も、犯給法の補償もほぼ同じですが、イギリスでは、犯罪被害の実情に合った等級表になっていて、犯罪行為の対応とそれに伴う補償の内容が細かく定められています。

川本さんのようにPTSDでカウンセリングを受けなければならないような場合、日本では書かれていませんが、イギリスではその内容がきちんと書かれています。

海外における併給調整・親族間犯罪・遡及効に関する制度の実態
【 高橋 】:次にいちばん問題とされている、いわゆる併給調整について。これは一方からお金が支給されると、他方からの支給分が減額されるというものです。川本さんの例でもありました。生活保護を受けていたが、高等教育のために奨学金を受けたら、生活保護費を減額された。結局、総額は上がらないということになります。海外ではどうなのでしょうか。

【 松畑 】:ドイツにも併給調整はあるようです。ただ、日本の犯給法のように加害者から賠償金が入ったら、その分、減らされるというようなことはありません。つまり健康保険の疾病手当、労災保険に基づく年金、年金保険と呼ばれるものなどは、併給調整がないまま支給額に加算されます。

そのようにして最終的に加算された額が、先程の例でいえば、元の月額50万に対して、30万円になった場合、差額の20万円に対して42.5%が所得調整年金として支払われることになります。

【 高橋 】:日本では、1級の後遺障害を受けて1億円の損害が発生しても、国からは4,000万円しか支給されない。加害者から1,000万円もらったら、国からの支給は3,000万円に減額される。ドイツの場合はほとんど完全補償なので、一方にもらったからと言って、減額されることはないということですね。イギリスはどうですか。

【 白井 】:イギリスには併給調整があります。ただ、等級表の補償と所得補償とを合わせると高額になるので、きちんとした収入は確保されます。

【 高橋 】:ありがとうございます。次に、川本さんのような親族間の犯罪について、ドイツではどうなっているのでしょうか。

松畑靖朗 弁護士【 松畑 】:ドイツでは加害者と被害者の身分関係といった形式的な理由で補償は制限されません。ドイツでは補償を制限されるケースは2つです。まず、補償することが不当と評価される場合。

これは被害者自身が被害を引き起こしたり、政治的な争いに積極的に参加して被害に遭ったり、組織犯罪者が組織内で被害に遭ったというようなケースです。

そしてもうひとつは被害者が事件の解明に協力しなかったり、遅滞なく犯罪の届け出を行わず、犯人の訴追に尽力しなかったといった場合です。親族関係だからといって、支給されないということはありません。

【 高橋 】:ドイツであれば、川本さんのケースでも救済される可能性はあるわけですね。

【 松畑 】:その通りです。

【 高橋 】:遡及効についてはどうでしょう。遡及効というのは、今日、法律ができた。その法律が、過去の犯罪にまで遡って適用されて補償されることです。

【 松畑 】:ドイツには遡及効があります。補償法は1976年にでき、当初は1976年以降の犯罪被害者しか補償の対象になっていませんでした。

ところが法律の施行後も、過去の性犯罪被害者や児童虐待について申告するケースが見られ、それらを救済する必要性が認識され、8年後に法改正を行いました。これにより1949年から1976年についても補償の対象となりました。

【 高橋 】:ここでフランスのケースについて、小木曽先生にうかがいたいのですが。

小木曽 綾 中央大学法科大学院教授【 小木曽 】:フランスでは、まず補償の対象になる犯罪が過失を含み、さらに一定の財産犯が対象になります。補償される人の範囲は、フランス国籍を有する人だけでなく、EU国籍を有する人、適法に滞在している外国人も含まれます。

外国で犯罪に遭った場合もフランス国籍の人は補償の対象になります。被害者に責任があれば、補償金減額の対象になります。犯罪の種類との関わりで言えば、被害者が亡くなっていたり、あるいは1カ月以上働けなくなるような重大な障害を受けたり、強姦などの性犯罪では全額補償の対象となります。

ただ、保険に加入しているかどうかは考慮されます。働けなくなる期間が1カ月未満の障害や財産犯の場合は、収入条件があります。2008年には家計の総収入で、月収1,328ユーロ未満です。犯罪によって重大な物的心的な損害を被っていて、他の補償が受けらないという条件が満たされると、補償される金額は上限で3,984ユーロ、1ユーロ130円で50万円前後です。

 申請する場合、まず地方裁判所に設けられている補償委員会に書類を出します。これが補償基金へ送付され、2カ月以内に基金から被害者に補償額が提示されます。被害者が同意すれば、そのまま支給されます。

支給額に不満があれば、裁判所に設けられた審査委員会に書類が戻され、そこで補償基金と検察官および被害者の間で審理が行われ、裁定が下ります。この裁定には不服申立てをして争うことができます。

 補償される損害には、葬祭の費用、心理的苦痛、遺失利益、働けなくなったことによる収入の減額、介護の費用なども含まれます。岡本さんのような火傷などの場合には、その痕が残ることについても勘案されます。

 また、最近の法律改正で、程度の軽い障害といった補償制度から漏れるケースの補償や、裁判所から損害賠償命令が出たにもかかわらず加害者に資力がないというケースに関して、補償基金から立て替えられる制度が始まりました。1,000ユーロ以下の場合は全額、それを超える場合は3,000ユーロを限度として、言い渡された額の30%が立て替えられます。

実りある犯罪被害者救済制度の早期実現を目指して
【 高橋 】:日本にも損害賠償命令制度ができましたが、加害者がお金を持っていないケースが多いため、判決が紙切れになっています。フランスでは国が少しでも立て替え払いしてくれる制度が昨年から始まったようです。

 あすの会では、こうした海外事情を踏まえ試案を作りました。

【 松畑 】:まず補償法は、犯罪被害者等は固有の権利として国から補償を受ける権利を当然有しているということを前提とします。

補償の程度については、被害者が事件以前の生活水準を回復するに足りるものでなければならないとします。そして過去の被害についても、遡って補償の対象とします。

また、加害者と親族関係にあるといった形式的なことで制限するようなことはできないものとします。併給調整についても、加害者からの賠償金や他の社会給付等が得られた場合の減額は行いません。

最も重要な補償内容ですが、医療費、カウンセリング、介護といったサービスについては無償で受けられるものとする。病院への通院費、住宅や車をバリアフリーにするといった改造費、環境整備費、車いすや義肢等の補装具の費用も全額補填します。

一時金としての給付金は、自動車事故の慰謝料額を基準に支給します。療養を必要とする場合、その期間、休業補償を支給し、付き添い等で休業する家族の分も補償します。被害者に後遺障害が残ったり、亡くなった場合は、一時金だけでなく年金を支給します。以上が試案の内容です。

【 高橋 】:試案は年金の支給について触れています。岡本さん、川本さんは、被害者のお立場から、一時金と年金、どちらがよいと思われますか。

【 川本 】:私はPTSDと戦いながら、日々の生活をしていかなければなりませんから、毎月支給される年金を希望したいと思います。

【 岡本 】:私もこれからいろいろ治療をしていきたいですし、今後、どうなるかわからないので、生活の安定ということからも年金方式のほうがいいですね。

【 高橋 】:こういった制度ができれば誰でも救済されますが、問題は財源をどうやって確保するかということです。

【 白井 】:充実した保障を考えた時、財源問題はいちばんの壁となっています。罰金を活用する、宝くじにする、税金として徴収するなど、いろいろと検討をしましたが、現実にはいずれも非常に難しいといえます。

【 高橋 】:このことについて、フランスでは面白い制度を採用しているとうかがっています。

小木曽:それは損害保険に自動的に被害者補償のための税金をかけるというものです。1件あたり3.3ユーロ。400円ぐらいです。損害保険にかける目的税が原資になっています。

2006年には申請の数が18,761件で、2億3,700万ユーロが支払われていますから、単純に平均すれば12,600ユーロ、167万円くらいになります。

【 高橋 】:損害保険に加入していない人もいるのではないですか。

【 小木曽 】:いるとは思いますが、損害保険についての感覚が日本とは少し違っていて、日本よりも広く浅い資金源として適当だと考えているようです。

【 高橋 】:白井先生、日本にもいい案はないでしょうか。

【 白井 】:これは岡村先生からアイディアをいただいたのですが、未成年者と年金受給者を除いて、国民1人当たり年間500円程度を保険料として払ってもらう方式をとれば、300億、400億という資金になります。

国民健康保険や国民年金を徴収するときにプラスしていただければ、特別会計でできるのではないか。基本法ができて5年も経ち、犯罪被害者を社会全体で支えていこうという国民の理解も深まり、このような財源方式をとる素地はできてきているのではないかと思っております。

【 高橋 】:こうした制度ができればこれからの被害者は救われます。特に強調したいのは、過去の被害者であっても、現在の生活に苦しみ、後遺障害で苦しんでいる。そういう人たちに遡って補償をしていただきたい。そういう制度を作っていきたいとあすの会は考えています。ありがとうございました。
パネルディスカッション
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第10回 全国犯罪被害者の会(あすの会)大会決議
1.第一決議 2.第二決議 3.第三決議
 1.第一決議
被害者参加及び被害者参加弁護士の制度は、犯罪被害者等の意思を十分に尊重しながら運用されることを求める。提案理由
 平成20年12月、被害者参加制度の運用が始まった。各地の犯罪被害者等から、「被害者等の思いや悔しさを直接、裁判官や裁判員、被告人に伝えることができ、本当にこの制度が作られて良かった」と喜びの声を多く聞く。

 だが、その一方で、被害者をサポートすべき被害者参加弁護士が、被害者の意向を尊重することなく、「訴訟行為だから弁護士主体で訴訟を進行すべきだ」として、犯罪被害者等が傷ついた例も多く報告されている。

 本来、この制度は、被害者等が自らバーの中に入り、直接、被告人や証人に質問・尋問をし、真相を明らかにし、名誉を守り、求刑したいという切実な思いで作ってきた制度である。ただ、技術的な知識を要する裁判では、専門家のサポートが必要であるとの理由で被害者参加弁護士制度が創設されたのである。

 国費で被告人の弁護人を選ぶことを「選任」と呼び、同じく国費で被害者参加弁護士を選ぶことを「選定」と呼ぶのは、被告人弁護人は被告人の意思を離れて行為できる固有権を持つが、国選被害者参加弁護士は固有権がなく、参加人から委託を受けた事項に限って行為できるという、権限の相異からきているのである。

 以上の制度の趣旨を理解し、被害者参加弁護士は、犯罪被害者等の意思を尊重し、よきサポーターとして行為するよう、運用されることを求めるものである。


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2.第二決議
 凶悪重大犯罪についての公訴時効の廃止と、それ以外の罪についての大幅な公訴時効期間の延長を求めるとともに、過去に起きた事件についても遡って公訴時効を廃止し、また、延長されることを求める。提案理由
 加害者が一定期間逃げ延びれば、裁判にかけることができず、逃げ得を許す公訴時効の制度は、犯罪被害者等にとって許し難い制度である。犯罪被害者等、特に凶悪犯罪の被害者等は、時間が経てば経つほど、悔しさや無念さは増してゆき、絶対に犯人を捕まえて欲しいと強く願っている。

犯罪被害者等が苦しい中で、懸賞金を掛け、ビラを配り、必死になって犯人探しを行うのも、絶対に犯人を逃したくない一念からである。

 公訴時効制度は、犯罪被害者等だけでなく、国民の社会正義や倫理観にも著しく反するもので、国民に対する各種の世論調査においても、凶悪犯罪については公訴時効の廃止、その他の犯罪については公訴期間の大幅な延長をすべきだという結果にも表れている。

 我々は、凶悪犯罪についての時効期間の廃止、その他の犯罪についての公訴期間の大幅な延長を求めるものである。 このことは、過去に発生した犯罪の被害者等も、同様であり、公訴時効期間の廃止、延長は、過去に起きた犯罪についても遡及適用を強く求める次第である。
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 3.第三決議
  犯罪被害者等の受ける経済的・精神的・身体的な損害は計り知れず、その尊厳はおろか、生存すら脅かされている現状にある。加害者から損害賠償を得ることのできない現実から考えると、その救済は公的な補償によるしかない。

 「被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援を途切れることなく受けることができるような施策を講ぜられるものとする」という犯罪被害者等基本法の規定に従い、犯罪被害者等が十分な補償を受けられ、また、過去に起きた犯罪の被害者等で、現在も生活や後遺障害に苦しんでいる者に対しても、遡って補償が及ぶ新しい制度を創設することを求める。

提案理由

 平成20年7月、改正犯給法が施行された。
しかし、そこでは、医療費の補償が1年間に限られていること、休業補償も治療費と併せて120万円が限度であること、将来の介護費用やリハビリ費用については特に補償されていないこと、逸失利益の補償についても上限額が自賠責保険並みに確保されただけであることなど、多くの点で十分な補償がなされておらず、欧米諸国に比して大きな隔たりがある。

 支給が一度限りであることも被害者等の救済に十分でない。過去に起きた犯罪の被害者等で現在も後遺障害や生活に苦しんでいる犯罪被害者等に対しては、民間基金を作ることが提唱されたが、その基金も現在、十分とは言えない。

 誰でも犯罪被害者等になる可能性がある今日、犯罪被害者等に対する補償は国民全体で負担すべきであるから、現在生じた犯罪被害者等だけでなく、過去の事件の犯罪被害者等に対しても、犯罪被害者等が平穏な日に立ち返るまで、安心して生活できる新しい補償制度の確立を望むものである。

以上のとおり決議する。
2010年1月23日
全国犯罪被害者の会(あすの会)
 役員選任
今回の総会で再任された役員の方は下記の通りです。
幹 事 岡村 勲 猪野京子 内村和代 岡崎后生 假谷 実
  高橋幸夫 林 良平 土師 守 松尾明久 松村恒夫
  宮園誠也 本村 洋 渡辺 保  
幹事(弁護士) 白井孝一 高橋正人  
会計監査 田村紀久子  
顧 問 諸澤英道(常磐大学理事長)
 総 括
代表幹事 岡村 勲
 長時間、大会・シンポジウムにご出席いただきありがとうございました。本日は人形劇に始まり、シンポジウムまで実に充実した一日となりました。

 あすの会は、司法上の権利の確立と被害回復制度の確立を求めて運動をして参りました。2002年には司法制度について、2004年には経済的補償制度についてヨーロッパで調査を行い、詳細な報告書を作成しました。行く先々に質問状を再三送るなど、調査には大変な準備を要しており、報告書の資料的価値は多くの人から認められています。

 調査に行った2004年には犯罪被害者等基本法が作られ、2005年1月には調査報告書を作成、そして同じ年に基本計画が作られ、さらにその後、被害者参加制度が作られ、あすの会にとっても忙しい日々でした。調査報告書は、内閣府に置かれた経済的支援に関する検討会でも活用されています。

 今、公訴時効の問題が残っていますが、やがてこれが解決すれば、犯罪被害者に関する司法の大きな柱はできたことになります。

 シンポジウムの基調報告にもありましたが、司法制度が完備されても、日々の生活に困る被害者を出しては意味がありません。被害者にとっては、何よりも食べていくことが大事なのです。今後、あすの会は経済的な補償問題について資源を投入したいと考えております。

 最後に無償で講堂をお貸しいただき、職員の方にもご協力をいただきました三井不動産に心から御礼申し上げます。 本日は長時間お付き合いいただきありがとうございました。
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10周年記念大会  参加者のご意見
  • 10年の歩みのご苦労と成果に深く敬意を表します。いまだ大きな課題が残っておりますが、今後の活躍を応援いたします。

  • 10周年おめでとうございます。岡村幹事始め、幹事、会員の皆様の血のにじむような運動が日本を変え、また、新たに被害に遭う被害者がどれだけ助けられたことかと思うにつけ、「敬意」「感謝」、どんな言葉を尽くしても適当な言葉が見つかりません。タイムリーな課題を大変分かりやすく組み入れていただき、内容の濃い充実した大会でした。

    時効撤廃の問題や被害者の経済的回復について双方ともに一朝一夕には解決できる問題ではありませんが、諦めずに声を上げ続けることがいつか実を結ぶのだと信じています。

  • あすの会創立以来10年間、被害者会員皆様の大変なご尽力によって、刑事司法制度が格段に正しい方向に導かれるようになったことは、一国民として本当に頭の下がる思いでいっぱいです。

    岡村先生は「明日は私達のような被害者が出なくて済むように、自分たちは法改正によって恩典を受けることはないけれども、明日に希望がもてるように『あすの会』と名付けました」と仰っておられたこと、とても感銘を受けました。

    ただ、まだまだ凶悪犯罪が日々のニュースで後を断たず、私達市井に暮らす国民にとっても『あす(は我が身)の会』という感じも致します。

  • 今日の参加で一層被害者の立場や気持ちが理解できました。法の隙間も感じますし、社会の責任を感じます。来賓各氏の話も印象に残るものでした。時効問題も出てきていることに関心があります。世界的な動きになっているとは驚きです。刑事と民事の連動には感心しています。普段考えていたものです。

  • あすの会10周年誠におめでとうございます。初めて参加させていただきました。最初の人形劇からすばらしい内容でありました。これまでの皆様方のご苦労とご貢献に敬意を表します。

    あすの会の目的、行動等が単純・明確でわかりやすい。どうして10年間の短期間で素晴らしい成果を挙げられたのか、大きな参考になりました。心、魂、passionが根底にあり、それを礎としたのでしょう。今後のご活躍と、関係団体との連携を強く望みます。
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【 人形劇 】 「悲しみの果てに」    第37回公演
今回の「創立10周年記念大会・シンポジウム」では、開会宣言に引き続き、あすの会関西集会有志の皆さんが結成した糸あやつり人形劇団『クライシス』による人形劇「悲しみの果てに」が上演されました。

誰もが犯罪被害者になりうることや、犯罪被害者の置かれた立場がいかに弱いものであるかを、この人形劇は切々と訴えかけます。そして、被害者参加制度の実現によって、刑事裁判がどのように変わったのかを、わかりやすく伝えてくれました。

公演の経緯
 「犯罪被害者の置かれた立場を社会にわかってもらうにはどうしたらよいだろう……」と悩んでいた時期、新聞に人形劇団を主宰している方の写真入り記事が掲載されました。

人形劇人形劇で何かできないだろうか。その方に連絡して相談したところ、自分の娘さんが誘拐に遭ったという体験をお持ちの方で、「お役に立つのなら応援しましょう」と引き受けてくださいました。

最終的に人形2体と舞台装置作成、人形操作の指導、セリフのCD吹き込みなどまで協力していただきました。

 2002年2月の関西集会で「人形劇による社会への訴え」を提案したところ有志が集結、集中練習が始まります。シナリオも6月頃完成し「悲しみの果てに-- 絶望-- 」という副タイトルを付けたものとなりました。

こうして、犯罪被害者の立場を理解してもらうための人形劇公演がスタートしたのです。
 2008年12月には、被害者参加制度が実現し、第29回公演で人形劇も役目を終えたと安堵していました。その後、周囲の皆さんから参加制度を組み入れた新しい劇にするべきだという勧めもあり、シナリオの追加をしました。

以来、第30回から「-- 絶望 --」という副タイトルを外し「悲しみの果てに」として公演しています。あの時、こんな制度があったら……! という思いと願いを込めて。

出演
あすの会関西集会の有志6人とその友人2人

ストーリー

人形劇夫婦と一人娘の3人家族が事件に遭います。刑事裁判は公正な判断をし、加害者は厳しく裁かれると被害者は思っていました。しかし裁判では被害者は蚊帳の外。

マスコミや社会からも疎外される存在でした。

 犯罪被害者等基本法成立で被害者の権利が確立しました。裁判員裁判で、被害者参加する母親の事実と真実を追究する執念と、検事さんと二人三脚で助け合う法廷の姿があります。
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懇親会にて 創立10周年記念大会を終えて
 大会・総会に引き続き、ニュートーキョー数寄屋橋本店9階 LA STELLAに会場を移して懇親会が開かれました。懇親会には120名以上の方が参加し、にぎやかな交流の場となりました。これまであすの会の活動を陰で支えてこられた岡村綜合法律事務所の北尾哲郎弁護士も、懇親会の席上でメッセージを寄せてくださいました。
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新たな活動の展開を祈って
岡村綜合法律事務所 弁護士 北尾哲郎
 岡村法律事務所に所属している北尾哲郎と申します。私は、岡村の奥様が亡くなられたその日に現場に駆け付けました。そのときから今日に至るまで、奥様を犯罪によって奪われた岡村の姿を直ぐ近くで見ておりました。

当初の落ち込みようはひどいものでした。岡村がどれほど苦しんでいるのかは何となく分かるものの、本当のところは私には分かりませんでした。

今日ここにお集まりの皆様をはじめとする犯罪被害者の方お一人お一人も、おそらくは岡村と同じだったと存じます。どれほどの悲しみと苦しさに耐えてこられたのか、と思います。

 その岡村も、「あすの会」が設立され、たくさんの方の支えを得て会の活動が始まるとともに、徐々に立ち直っていったように思います。皆様方は、悲しみや苦しみの中から声をお上げになり、今日まで10年にわたって活動をしてこられたわけですが、この10年間で、「あすの会」は本当に力強く成長したと思います。

 この10年間の活動は、法制度の改革に向けてのもので、会員の皆様に直接の利益をもたらすものではなかったのに、会員の皆様は、本当に献身的な活動を繰り広げてこられました。心から敬意を表します。

今日の懇親会の様子を拝見しておりますと、最初のころとかなり印象が違って、達成感からか非常に雰囲気が明るく、元気が溢れているような感じがいたします。

 今日のシンポジウムでもお話があったように、法制度の改革が一段落着き、これからは、犯罪被害者の方々の経済的補償の問題に重点が移っていくという状況になりました。

初めて皆様のためにもなる活動が始まるということで、本当に嬉しく存じます。どうぞこれまでにも増して皆様が活動を繰り広げられますよう心からお祈りいたします。

 私ども岡村事務所の者は、特段何をしたわけでもなく、皆様のお役に立つことが少なかったと思っていますが、これからも今までと同じようなサポートができればと願っております。

 どうぞ今後とも岡村のことをよろしくお願い申し上げます。た。
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