シンポジウム |
「犯罪被害者等基本計画の策定と今後の課題」
基調講演
内閣府大臣官房審議官/犯罪被害者等施策推進室長 加地 隆治 氏
一昨年の12月1日、議員立法により犯罪被害者等基本法が成立した。その中で、政府が総合的、計画的に取り組んでいくための枠組みとして、犯罪被害者等施策推進会議の設置が定められた。
また、政府が地方公共団体、民間団体、関係団体と連携しながら、総合的、長期的に取り組むべき犯罪被害者等のための施策の中身を、犯罪被害者等基本計画という形で策定するように規定された。推進会議の下に、各方面の有識者と、関係する行政の局長クラスの職員で構成された犯罪被害者等基本計画検討会が設置され、実質的な議論はそこで進められることになった。
基本法にある基本的施策は、犯罪被害者等、支援者の方々のご意見に基づいて、非常に具体的に定められている。基本計画は、それをさらに先に進めるものだったため、どういう形で進めていけばよいかと頭を悩ませた。
また、関係省庁では、基本法制定前から施策に取り組んではいたが、それでは不十分であるというご意見があり、現状との大きな隔たりをどうやって埋めたらよいかと考えあぐねた。
しかし、やはり犯罪被害者団体、支援団体の方々から広くご意見を伺うべきだと考え、具体的な検討を始める前にヒアリングを行った。多岐にわたるその要望は全部で615にものぼったが、例外的なものを除いて、その一つひとつを全て盛り込む方向で取り組むことになった。
それぞれのテーマについて、白熱した議論がなされたので、1回2時間半を予定していた検討会の会議は、5時間半に及んだこともあった。
しかし、それでもご意見が615と膨大で、会議だけで議論していたのではとても間に合わないため、事前に構成員の方々に、電子メールを飛び交わせながら、一つひとつ丹念に意見交換をしていただいた。そうしたやりとりをすべて踏まえて会議に臨んでいただき、非常に密度の濃い議論をしていただいた。
夏の段階で、615のご意見、ご要望を225の施策にまとめた骨子を公表し、これに対してまたご意見を伺った。パブリックコメントを実施したほか、全国9カ所で、犯罪被害者団体や、支援団体からご意見を伺ったりもした。そうしたところ、検討すべき課題として、新たに451のご意見、ご要望をいただいた。それらについて、再度検討会で同じように白熱した議論をしていただいた。
結局、合計11回の検討会を行い、
基本計画の四つの基本方針
1.尊厳にふさわしい処遇を権利として保障すること、
2.個々の事情に応じて適切に行われること、
3.途切れることなく行われること、
4.国民の総意を形成しながら展開されること を策定し、
五つの重点課題
1.損害回復・経済的支援等、
2.精神的・身体的被害の回復・防止、
3.刑事手続への関与拡充、
4.支援等のための体制整備、
5.国民の理解の増進と配慮・協力の確保 を取りまとめた。
最初の615と、骨子に対するご意見451を足した1,066のご意見、ご要望を258の施策にまとめた。1,066も意見があったのに、なぜ施策が258しかないのかと思われるかもしれないが、それは残りを全て切り捨てたわけではなく、例えば一つの施策で幾つかのご要望にお応えしているというものが相当数あるなどからである。したがって、犯罪被害者等と支援者の方々からいただいたご要望のほとんどすべてにお応えする内容になったと考えている。
盛り込まれた施策のうち、直ちに取り組むものが218(約8割)で、残りの46については、さらなる検討に委ねられることになった。当初は基本計画ができたら、すぐに施策に取り組めるようにしなければならないと考えたが、施策によっては、多くの検討すべき問題点や課題があり、基本計画の策定の段階ですべての結論を出すということになると、基本計画全体の完成が遅くなってしまい、1日も早く被害者等の方々のための施策を前進させるべきだという考えとは相容れなくなってしまうので、さらなる検討がどうしても必要なものについては、のちの検討に委ねた。ただし、方向性と結論を出す期限については、明記した。
しかしながら、その期限にとらわれず、できるだけ早く結論を出して、実施につなげたいと考えている。昨年12月末の閣議決定後、それぞれの施策を実施、あるいはのちの検討に委ねた課題について結論を出すべく、鋭意作業に取り掛かっているところである。
基本計画は、基本法を受けて、総合的、長期的、そして計画的に進めていく施策を取りまとめたものである。これからは、その258の施策をしっかりと実施に移していくことが重要になってくる。
それぞれの施策が、基本計画検討会等で議論された方向に従ってきちんと進められているか、あるいはのちの検討に委ねられたものがしっかりと検討されているか、といったことを推進会議の中でしっかりと検証して、施策の積極的な推進を図っていく必要があると考えている。また、基本計画の実施に当たっても、引き続き犯罪被害者の皆様からのご意見やご要望を承りながら進めていきたいと思う。
パネルディスカッション
コーディネーター 弁護士 白井 孝一 氏(静岡県弁護士会)
弁護士 石山 貴明 氏(東京弁護士会)
[テーマ1] 基本計画具体化にあたって全体的な取り組み方など
- 1. 三浦 守 氏(法務省大臣官房審議官〔刑事局担当〕)
- 基本法が制定され、犯罪被害者等の権利が法定されたという新たな状況のもとで、今後の基本計画の具体化にあたり法務省としての取り組みは、従前よりさらに項目を広げスピードを上げて対処する。
- 2. 廣田 耕一 氏(警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者対策室長)
- 基本計画の具体化により、司法支援センター、民間支援組織、地方自治体窓口、医療関係者、社会福祉関係者など総合的な連携のもとでの広い範囲の支援を警察庁としては、より積極的に進めていく。
- 3. 加地 氏
- 基本計画作成にあたって苦心した点、力をいれた点については、多数項目のうち、8割を即時実施とし、2割を2〜3年実施としたが、その分について必ず方向性を明示したことと、会議にあたって事前準備をメールを駆使して周到に行ったことである。
- 4. 大久保 恵美子 氏(被害者支援都民センター事務局長)
- 検討会に参加しての感想として終わってホッとしている。この会議を通して内閣府を始め官庁も犯罪被害者に対し協力的に変わってきた。基本計画が一日も早く具体化され、施行されることを願っている。
- 5. 諸澤 英道 氏(常磐大学理事長)
- 基本法および基本計画に対する国際的な評価は大きい。85年の国連被害者人権宣言来、日本は大幅に遅れた。しかし、遅れた故に、今般よいものが出来た。とくに、8、20、23条など。これを犯罪被害者団体が推進したことも画期的。
[テーマ2] 訴訟参加、附帯私訴の検討について
- 1. 三浦 氏
- 訴訟参加及び附帯私訴は難しい問題。しかし、2年以内に実現するということで方向性も示され具体化は法務省が担当することになった。大臣も急げと言っている。あすの会から具体的提案もあるので、作業を急ぐ。
- 2. 高橋 正人 氏
- 訴訟参加、附帯私訴についてあすの会の要綱作成を担当し、検討会にも岡村委員のバックアップとして11回全部出席し、特に、訴訟参加、附帯私訴について力を入れた。基本計画の41頁の表現(刑事手続への直接関与)は法務省の原案だが、この実現を監視していきたい。
- 3. 岡村 勲
- 13名の支援弁護士の協力でここまできた。法律家のなかには、現行法に凝り固まった人が多い。訴訟参加、附帯私訴、補償制度の具体化検討にあたっては、犯罪被害者に詳しい人を複数委員に入れるよう希望する。
[テーマ3] 国による新たな経済的支援策の検討について
- 1. 廣田 氏
- 基本計画では、現行の犯罪被害者等給付金制度とは別に、国の補償のあり方等について、新たに設置される検討のための会において検討されることになっているが、警察庁としては、現状より手厚くすることとされていることを前提に、検討会の議論に対して積極的に参画していく。
- 2. 大久保 氏
- 犯罪被害者の多くが経済的に困窮している。その資料は提出済み。加害者に国が使う金は膨大。早急に、治療費の負担・住居の確保等を実施して欲しい。
- 3. 岡村 勲
- 英独など諸外国は犯罪被害者のために、巨額の金を使っている。日本は少ない。日本は、被害者に対する補償の財源をどうするかということを問題にするが、加害者を逮捕するためなら、財源がないからこれ以上やらない、とは言わない。加害者のためなら一般会計からどんどん出している。被害者の場合も同様に、一般会計から出すべきだ。国が金をかけることを望む。また、年金制度なども検討して欲しい。
- 4. 加地 氏
- この問題は、多方面に渉りかつ財源の関係もあるので、省庁横断的な検討会を設置して推進する。
[テーマ4] 今後の具体化作業にあたり望むこと
- 1. 林 良平(全国犯罪被害者の会幹事)
- 世間の犯罪被害者に対する偏見をなくして欲しい。そのため、犯罪被害者週間に期待する。
- 2. 岡村
- 基本計画の具体化作業にあたり一番要望されることは、是非早くということだ。
- 3. 加地 氏
- この計画の実現は、基本法の推進会議が統括する。具体化作業を監視、監督する内閣府としては着実に進める。
- 4. 諸澤 氏
- 基本法も基本計画も良く出来ており、90点と評価できる。しかし、楽観は出来ない。
近代法において犯罪被害者の報復権を国が奪った補償として抜本的に考えるべきだ。5年後、10年後の目標を定め、国民の支持を得られる改革案を作成しなければならない。
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