パネルディスカッション
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「被害者参加・損害賠償命令をめぐって」
- パネラー:
- 東京大学大学院法学政治学研究科 川出敏裕教授
第一東京弁護士会犯罪被害者保護に関する委員会委員長 大澤孝征弁護士
第二東京弁護士会犯罪被害者支援センター運営委員会委員長 番敦子弁護士
全国犯罪被害者の会代表幹事 岡村 勲
- コーディネーター:
- 常磐大学理事長 諸澤英道教授
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【被害者参加・損害賠償命令制度の基本的なポイント 川出敏裕 教授 |
今回の法案により被害者が「被害者参加人」という一定の地位で刑事裁判に参加することは非常に大きな意味があります。
ただし、あくまで検察官が犯罪事実の主張立証を行うという大前提に立っており、検察官の活動の中で被害者とコミュニケーションをとって、その意向も取り入れていくという構造になっています。
今までの二当事者の対立構造は変わっていないと言えば、その通りだろうと思います。
その上で検察官の権限行使について被害者が意見を言うことができ、かつ説明を受けられるというのは大きな意味を持っています。
被害者が独立して検察官とやるよりは実効性という点で望ましい面もあると私は考えています。
ですから基本構造を変えないという前提の下で、実質必要なことはこの法案で十分取り入れられていると思います。
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【被害者参加制度に対する反対意見を巡って】 |
【1】「被害者が感情的になって法廷が混乱する」のか?
- 大澤弁護士
- 1972年に検察官になりましたが、当時、法廷が混乱するのは常に被告人と弁護人が荒れたことが原因でした。最近の事例でも暴言を吐いたり、法廷で寝転ぶなどの対応をとるのは実際には被告弁護側です。
私が経験した中で被害者が法廷を混乱させたという事例は皆無だと思います。
- 番弁護士
- 被害者が混乱して、例えば傍聴席でわめいて騒いでというような経験は私もまったくありません。
被害者は事実を知りたいので、傍聴席で一言一句聞き漏らすまいとして涙をこらえて聞いています。
法廷内に入ると、さらに一生懸命きちっと知らなければいけないという意識で裁判に参加されると思います。
- 会場から
- 被害者あるいは遺族の感情について、なぜ否定的な見方しかしないのでしょうか。 感情というものをもう少し積極的に評価してもいいのではないか。
それを刑事訴訟の中である程度、表現することは遺族や被害者にとても大切なことではないかと私は感じています。
- 岡村代表幹事
- 私は身代わりに妻を殺害されたわけですから、大変な悔しさと復讐心を持ちました。法廷で私が証人になったとき、家内がやられたのと同じようにサバイバルナイフでこの男を私に死刑にさせてくださいと述べました。
しかし、法廷へ行ったときに罵声を被告人に浴びせたり、裁判所の制止を聞かないで何かしたかということはまったくありません。
素直な気持ちは持ちながら、法廷においてはルールをきちっと守ってやるのが法律制度ではないかと私は思っております。
- 諸澤教授
- 腕力で報復するのは許されないけれども、法律に則って敵討ちをすることが何で問題なのかと素朴に感じます。
長年にわたって人前で誰も「極刑を!」と言わなかった。本村さんがはじめてメディアの前で「極刑を!」と言い人々に共感を与えた。
最近は記者会見とか法廷外で率直な気持ちをおっしゃる方がたくさんいて、それはいいことだと思うんです。
- 会場から
- 私の息子は一昨年、精神障害者に通り魔殺人されました。
刑事裁判では意見陳述でかなりしっかりとしゃべらせてもらいましたが、裁判長を見てどのような裁定を下すだろうかということを考え、相手に相当な罪を受けてもらうために自分に冷静であれと言った上で参加する。
法廷で加害者を罵倒すればするほど罪が軽くなるのではということを恐れます。
【2】「法廷内に入ることによって被害者が傷つく」のか?
- 岡村代表幹事
- 被害者が傷つくとよく言われますが、私はその意味がわかりません。傍聴席で嘘八百言われて傷つく。
どうせ嘘を言われるのならバーの中に入って、しっかりこちらの目を見て嘘をついてもらいたい。そうすれば嘘は半分くらいになるんじゃないかと私は思っています。
そして被告人が敵視して被害者を怯えさせると言う人がいます。加害者を怒らせてはいけないと言うなら告訴・告発もはじめからしちゃいけない。これも理屈にならないんですよ。
- 番弁護士
- その話はふたつのことが混乱して出てきていると思います。反対の方は裁判が負担であると言う。
これは当然です。その事件と向き合い犯行が生々しく語られるのを聞かなければならない。しかし、それに関わらなければ一歩も進めない。
それから2次被害についても言われますが、この問題は逆に証人などで出廷したときのほうが大きいのではないかと思っています。
つまり証人で出廷すると心無い弁護士の反対尋問を受けるとか、そういうようなことがよくあるわけですね。
【3】「任意による参加制度が被害者を苦しめる」のか
- 諸澤教授
- 被害者が参加できるようになった。でも任意だからといって参加しないと被害者感情が弱いなどとまわりから言われて、参加を望まない被害者にとっては逆につらい制度だと指摘する人がいます。
- 岡村代表幹事
- これは参加させたくないから考え出した理屈ではないかと思います。不起訴になって検察審査会にかけなかったら亡くなった人に対して冷たいという批判を誰かしますか。傍聴だってそうです。つらさに耐えられなかったり、休みがとれなくて傍聴しない人もいます。それを「あの人は被害者感情がない」と言って批判する人がいるでしょうか。
- 番弁護士
- この参加制度は、被害者と同じように弁護士に行ってもらってすべてOKなわけです。また援助制度がありますので資力に乏しい方でも弁護士にアクセスは可能です。そういうことを考えますと、現行制度以上にそれをやらない、参加しない被害者が何か言われるということも解消できます。
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【参加制度を支える弁護人・検察官を巡って】 |
- 会場から
- 検察官がどのくらい被害者の方を理解して協力してくれるのかという不安があります。そういうときのためにも被害者に精通し、検察官との仲介役もしくは保護者としての国選弁護人の制度をぜひ作ってほしいと思います。
- 大澤弁護士
- 最近は若い検事になってきておりまして、犯罪被害者基本法を知って法廷に立つ検察官が多くなり、だんだん理解が進んでいくだろうという気がします。
また弁護人も若い先生を中心に志を立てて、犯罪被害者の代理人に志望してくれる人が増えることが期待できると思います。
国選あるいは公費による被害者に対する代理人制度の実現は、こういう運動を始めた当初から考えています。
裁かれている人間に国費によるプロがついて、被害者は自分で代理人を選んだり雇わなければならないというのはフェアではありません。
- 番弁護士
- 今、支援活動は犯罪発生直後から、いつどんな段階でもアクセスしていただければ支援をするというかたちで全国の犯罪被害者支援・援助に精通している精通弁護士が行っております。
現在、全国で千人以上が登録しています。基本計画で「公費による弁護士選任制度」と言っているのは、いつからいつまでと決まっていない何でもやりますよという支援活動なんですね。
それから「公的弁護人」というのがもうひとつ基本計画に書いてあります。これは今回、新たに決まるであろう法案として出されている法廷内での活動に対する弁護人のことを言います。
公費による弁護士選任制度は犯罪発生直後から必要だと強く思っていますが、今度、法律としてできるのであれば、この被害者参加制度は何をするかも始期・終期もはっきりしていますので、これはぜひ国選というかたちでしてもらいたいし、可能性としては非常にあると思っています。
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【損害賠償命令制度を巡って】 |
- 番弁護士
- 裁判劇の中での損害賠償命令制度では、簡易迅速に解決するということで判決言い渡しをした直後に次に第1回をしてしまうということになっています。
ですから難しい案件や後遺障害が固定していない事例では難しいのではないかと思います。ただ非常にメリットがあるのは刑事記録を全部使えることです。
現在は、有償で公判記録閲覧謄写制度でとっていますがそういうことがいらず、便宜を図ってくれることになっています。
- 川出教授
- この制度は簡易迅速に処理するということですので、長引くような事件は、通常の民事裁判でやらざるを得ないところがあります。
ただ、はじめからこの制度を使わないほうがいい事件があるかと言われれば、そうではないのではないでしょうか。
- 番弁護士
- 私が担当したケースで、この制度があったらよかったと思う事件があります。
刑事裁判で被告人は本当に申し訳ないというようなことを言っていたけれども、被害者はまだ示談金を受け取らず供託になっていました。
裁判官は最後の説諭で「あなたはまだ賠償していないんだから、ちゃんとやるんですよ」ということをかなり強く言って執行猶予になりました。しかし民事になったら弁解がずいぶん違ってきました。
刑事が終わってすぐ民事となったら、被告人側ももう少し真摯に向かい合ってくれるのではと思います。
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