犯罪被害者のための新しい制度について |
被害者参加・損害賠償命令について 高橋正人弁護士
今年の6月20日に国会を通った被害者のための刑事訴訟法の大改正について、その内容を簡単に説明いたします。
まず、今回の改正により、検察官に対して説明を求めることが権利として認められるようになりました。被害者の求めに応じて、検察官は、どのような手続を裁判所に対して行う予定か、あるいは行ってきたのか、被害者に分かり易く説明しなければなりません。
たとえば、なぜ、殺人罪で起訴せず、傷害致死罪という軽い罪名で起訴したのか、被害者からの要求があれば、検察官は、十分に納得のいく説明を被害者にしなければなりません。
今までは、検察官の好意で説明が行われていましたが、被害者が求めれば検察官は必ず説明しなければならない義務が明記された訳です。
次に、被害者は、検察官の近くに座って(在廷権)、検察官とともに刑事裁判に直接参加することが認められるようになりました。
今までは傍聴席で検察官の訴訟行為を見守るしか方法がありませんでしたが、改正により、バーの中に入って検察官とともに直接裁判に参加することができる訳です。
具体的には、検察官とは別に、被告人や証人に被害者自ら反論する権利が認められるようになりました。これを被告人に対する質問権及び証人尋問権と言います。
具体的には、被告人やその家族(情状証人)が、言いたい放題述べていた場合、その場で直ちに検察官に申入れをし、裁判長から発言の許可を得ることを取り次いでもらい、許可があれば、被害者自ら、または被害者が依頼した被害者のための弁護士(これも近いうちに国の費用で選定してくれる制度ができる予定です)が、被告人や情状証人に反論することができる訳です。
今まで被告人の勝手な言い分を、傍聴席でただただ黙って見ていることしかできませんでしたが、それが自分で、あるいは被害者のための弁護士によって、問いただすことができるのです。
最後に、検察官が行う求刑とは別に、被害者の視点で独自に求刑する権利も認められるようになりました。 このように、「被害者参加制度」では、5つの権利が被害者に認められました。
次に「損害賠償命令制度」です。
これまでの制度では、被害者が蒙った損害を被告人に金銭的に償ってもらうためには、刑事裁判とは別に被害者自ら民事裁判を起こす必要がありました。
しかし、今回の改正により、刑事の判決が言い渡されたら、ただちにその場で、刑事の裁判官が刑事の裁判で使った証拠資料を用いて損害賠償の審理を始めてくれるようになります。
しかも、審理は、原則4回以内で通常、3ヶ月くらいで終わらせなければなりません。短期間のうちに、刑事の裁判官が民事の賠償命令を言い渡してくれる訳です。
費用の負担も格段に少なくなりました。印紙代は、損害額如何に関わらず、一律2000円で済みます。 日本の刑事裁判の法廷の風景は、裁判員制度と相まって、来年の秋ころから一変します。
これは戦後60年続いてきた被害者を蚊帳の外に置いてきた刑事裁判に、新たなページを切り開くものです。
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記録閲覧・謄写、情報保護について 京野哲也弁護士
今回の法律改正の中で、記録の閲覧・謄写関係と被害者の情報保護の2つをご説明いたします。
被害者には、刑事裁判の記録を通じて事実を知ったり、民事の裁判を起こしたいというニーズがあります。
2000年の法律改正で、それまで一切できなかった記録の閲覧・謄写が認められるようになりましたが、それは損害賠償請求など正当な理由がある場合に限られていました。
今回、とくに理由を明らかにしないでも被害者が求めれば閲覧・謄写ができるようになりました。
また犯罪被害者、とくに性犯罪被害者の方は、プライバシーの侵害を受けたり、危険にさらされないように、公開の法廷で起訴状や証拠書類の読み上げの際、被害者を特定できないような形で述べることができるようになりました。
加害者の弁護権との関係で、すべてが認められるわけではありませんが、一定の進歩と言えると思います。
この制度はまだ十分なものとは言えません。加害者のプライバシーを守るという理由で、記録のほとんどが黒く塗りつぶされていたり、被告人の身上調査が出てこないなどの問題点はあります。
しかし、被害者保護のために前進した内容であり、適正に運用されることを引き続き求めたいと思います。
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新しい被害回復制度について 白井孝一弁護士
「あすの会」ができた目的のひとつは、犯罪被害者の権利確立と経済的援助のための被害回復の充実にありました。
犯罪被害者等基本計画を実現するために作られた「被害回復、経済的支援のための検討会」の中で、岡村先生が新しい保障制度のあるべき姿について意見書を提出しました。
私も「あすの会」の300名近い会員の方々の実態調査や、何人かの会員の方の具体的な資料を出し、実際に経済的にこれだけ困っているからこういう改革をしてほしいという提言をしました。
その結果、抜本的な保障制度の創設はできませんでしたが、最大限の改正・改善をすることで最終的に取りまとめられました。
まず理念として「社会連帯共助の精神に基づき、犯罪被害者等の尊厳ある自立を支援する」、目的として「犯罪被害者等が、その置かれている状況等に応じて、被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援を受けられるようにするための施策の一環として、犯罪被害者等が受けた被害による経済的負担の軽減を図るための必要な支援を行うこととする」という内容が明記されることになりました。
この理念と目的は、基本法3条の「犯罪被害者には、その尊厳にふさわしい処遇を受ける権利がある」ということを前提としており、今後、作られるであろう保障に関する法律は、それに基づき解釈・運用されることになります。
それから給付水準が引き上げられ、遺族給付・障害給付とも最高額は自賠責保険政府保障事業並みになります。
重度障害者の引き上げを重点的に行うこと、引き上げ基準の設定や金額の算定には、将来得られるであろう利益の遺失も考慮することや、若年層の被害者が中高年齢層と比べて不当に低額とならないよう配慮することなどが定められました。
カウンセリングについては、とくに性被害の方、重篤なPTSDの被害の方などは保険で受けられるようになります。また地方自治体に対策を求めることも定めてあります。
また現在は保障の請求期間に時効がありますが、やむを得ない事情であったことが証明されれば申請できることになりました。
仮給付などを迅速に受けられるように、運用面の改善も期待されています。このほか被害者の方の経済的支援に関する総合的なアドバイザーを育成することが定められています。
この制度は一般財源を原則として、政府全体として予算を取るべきであるということが盛り込まれ、同時に民間基金を設立して保障から外れた人たちを救済していくことも言及されています。
今後、制度の充実のために、皆さんの関心とご意見を寄せていただくようお願いします。
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祝辞 早川忠孝衆議院議員
このたび自民党政務調査会の「犯罪被害者等基本計画の着実な推進を図るプロジェクトチーム」座長に就任をさせていただきました。
まず第2回犯罪被害者週間を迎えるに当たり、ご尽力をいただいた関係者の皆さんに心から敬意と感謝を申し上げたいと思います。
平成16年に犯罪被害者等基本法が成立しました。岡村弁護士が多くの犯罪被害者の家族の方々を集められ、さらに全国に署名活動を展開し、国会議員を動かすところまでいかれた。
私は平成15年まで東京弁護士会の副会長を務めた後、衆議院選挙に当選させていただき、最初に取り組ませていただいたのが、犯罪被害者等基本計画の策定の作業です。
多くの自民党の国会議員が、犯罪被害者の方々の権利、利益を保ち、名誉を尊重していかなければならないという意識に燃え立ち、自民党を大きく動かしました。
今回の犯罪被害者等基本計画の策定と3つの検討会における報告が、犯罪被害者のための支援策を大きく前進させるということを私は確信しております。
犯罪被害者の方々に対して、少なくとも自賠責並みの損害賠償を実現していくことが今回の検討会の大きな目玉だと思っております。
さらに犯罪被害者の方々に公的な費用で弁護士をつける制度の構築も大きな課題です。
被害者の方々に対して、国としての特別の給付を、党派を超えて全会一致で実現していきたい。そのための懸命の作業を今、行っています。
何とか我々ができることをして参りたいという決意を表明して、ご挨拶に代えさせていただきます。
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