署名簿提出後の動き


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平成15年11月15日(土)
本日2003年11月14日貴委員会において意見をのべましたが、時間的な制約もあって意を尽くすことができませんでしたので、補足させていただきます。
犯罪被害者のための施策を研究する会の補充意見
弁護士  岡 村  勲全国犯罪被害者の会スペース

 私は、治安維持法、特高警察による人権侵害の余韻が残っている昭和34年に弁護士になりました。国家権力による人権侵害を防ぐことに情熱を燃やすいわゆる人権派弁護士で、60年日米安全保障条約改定に反対して国会に乱入した学生たちの弁護をはじめ、八海事件、丸正事件など冤罪事件を担当しました。

裁判官の訴追請求もし、法廷等の秩序維持に関する法律による制裁を受けそうになったこともあります。従って、刑事司法は、国家対被疑者・被告人の関係を定めるもので、被害者が入り込む余地はなく、被害者の刑事司法上の地位、権利について念頭にありませんでした。
ところが、弁護士生活38年目に犯罪被害者遺族になって、被害者を手続から排除する刑事司法制度がいかに被害者を苦しめているか、その不合理さを身をもって知らされました。
被害者が苦しめられる具体的内容は供述書に記載していますが、その根本は、事件の当事者でありながら、捜査、裁判の資料、証拠品として扱われ、人格、尊厳が無視されていることにあります。
前回の研究会で、「検察官が被害者の立場に立って法廷活動をすれば、被害者が訴訟参加しなくても十分ではないか、それでも参加したいというのは気分の問題か」といった趣旨の質問をうけ、「検察官は公益の代表者であって被害者の代理人ではなく、被害者を完全に代理することはできない」旨の回答をしましたが、この答えは正確ではありませんでした。

妻の事件の例で申しますと、一審の途中から担当された立会検察官は、極めて優秀な方でした。事件の経過、真相、法律家に対するテロ行為の社会的影響、加害者の性格など充分に把握し、不可能と思えるような証拠品を探し出し、被告人の主張に適切な反論を加えていかれました。さらに温かい心情の持ち主でもあり、遺族感情を十分に理解し、代弁してくださいました。この検察官によって私たちはどれだけ救われたかも知れません。

これ以上望むべくもない検察官にめぐり会えたことに深く感謝いたしております。裁判所も、判決に不満はあるものの、同じ法曹である私には気を遣ってくださいました。捜査についても、情報提供その他に充分でなかったとはいえ、同様に気を遣ってくださいました。このように通常の被害者に較べて恵まれた環境にあった私でさえ、司法制度に根本的な不信を抱いたのです。

被害者が捜査、公判に協力するのは、
  1. 加害者と犯罪事実の詳細を知り、

  2. 被害者の名誉を守り、

  3. 加害者に対して適正な刑罰が下されることを願っており、
    国がこの願い(被害者の利益)に応えてくれることと期待(信頼)するからであると供述書に記載しましたが、被害者はこれを国に期待するだけではなく、自らもその実現に努めたい願望を持っています。

特に被害者は、国家によって復讐権を奪われましたが、復讐権を奪われたからといって口惜しい気持ち、無念を晴らしたい気持ちがなくなるわけではありません。
実力で反撃できないのなら、せめて法廷で加害者と言論で戦い、反撃したいと思うのは当然です。もちろん戦う、反撃すると言っても感情的になって法廷を混乱させることではなく、正々堂々と反論、質問することです。ところが、傍聴席に座らされて、なに一つ加害者に問いただすこともできず、虚偽の言い逃れに対しても反論できない、名誉を傷つけられてもじっと我慢しているしかありません。被告人は、法廷で言いたい放題言えますが、被害者は言えません。被害者は不公平感を抱くのです。この無念さ、口惜しさは想像を絶するものがあります。

私は、毎回公判の後は、この口惜しさと事件のフラッシュバックで、1週間くらい寝込んでしまいました。

証人になったとき纏めて反論しようとしても、時期的にも遅くなり、気の抜けたビールのようになってしまいます。しかも被害者は検察官の質問に答えるだけで、自主的な活動をすることはできません。

検察官と詳細に打ち合わせしていても、被害者の思いをすべてカバーすることはできません。被害者は別の角度から質問や反論したいことがあるのです。妻の事件では、検察官はじつによく反論して下さいましたが、それでも自分が反論できる立場に置かれていないことは堪えられない苦痛でした。ましてや検察官一般が妻の事件の検察官と同じように優秀な方ばかりだとは限りません。


ミュンヘン大学のシェヒ教授は、ヨーロッパ調査団に対して、ドイツにおいて

被害者の参加を認めるのは、憲法の人格権に由来し、被害者の尊厳を守るためである、

といわれました。わが国において被害者が刑事司法に不信を抱くのは、その人格、尊厳が守られていないからです。
被害者の人格、尊厳を守るには、被害者を証拠品として使い捨てにせず、当事者として参加させ、加害者と対峙させる以外にありません。
刑事司法を、国家対被疑者・被告人の関係だけでなく、被害者対被疑者・被告人、国家対被害者の関係に再構築することです。被害者の権利をできるだけ被疑者・被告人の権利に近づけて不公平感をなくすことです。そうしなければ司法不信はなくならず、「こんな司法制度ならいらない。被害者の手で裁判所をつくる必要がある。復讐権を返せ」などという意見が出てきます。犯罪に遭いながらどうして公の秩序維持の証拠に使われなければならないのか、被害者の利益が公の利益の中に埋没してしまわなければならないのか、反射的利益ではなく被害者の利益自体をどうして守ってくれないのか、権利意識に目覚めた被害者の思いは広がっていくのです。


検察官が被害者にできるだけ近づいたとしても、被害者そのものになりきることはできませんし、また気分の問題ではなく、もっと本質的な次元の問題です。

フランスでは、被害者にできるだけ加害者に近い権利を与えようとしていますし、ドイツも同様です。
当事者主義のイタリアでも参加は行われています。

アメリカでも多くの州で態様は別として参加が行われています。「犯罪被害者に関する大統領作業部会」の最終報告書で、「被害者たちは被告人に劣らず裁判所で重視される資格を有する。被害者たちは被告人に劣らず、自分たちの見解を斟酌してもらう資格を有する。裁判官は、その犯罪が被害者にどのような負担を与えたかを知ることなくしては、被告人の行為の重大性を評価することはできない。被告人が被害を生じさせた者の声を聞くことなくしては、被告人によって与えられた危険についての正確な情報に基づいた決定を行うことができない」とあるとおり(日弁連第46回人権擁護大会シンポジウム第一分科会基調報告書96ページ)、参加の問題は進みつつあります。

刑事司法は公の秩序維持のためばかりでなく、 被害者のための正義(Justice for Victims)を実現する ものでなくてはなりません。


以上私たちが、もっとも重要な問題としている点について申し上げました。是非とも被害者の人格と尊厳を守る、被害者のための刑事司法を実現して頂きたく、お願い申し上げます。

また、公判記録の謄写については、1枚につき40円ないし45円の費用を負担させられ、数十万円の支出を余儀なくされた被害者もいます。被害者保護のためにも、無料にしていただきたいと存じます。
以上
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平成15年11月14日(金)
2003年11月14日に第3回研究会が開かれ、当会の岡村勲代表幹事が以下のように意見を 述べ、その後、補充意見書を提出しました。
犯罪被害者のための施策を研究する会の供述要旨
弁護士  岡 村  勲全国犯罪被害者の会スペース

 1.
国民に信頼される刑事司法とは何か
刑事司法は国民の信頼の上に成立つものであるが、刑事司法に関係を持つ国民は被害者(遺族を含む。以下同じ)と加害者であり、一般の国民は刑事司法とは無縁である。

従って国民に信頼される刑事司法という場合の国民とは、被害者と加害者であり、被害者に信頼されない刑事司法は、国民に信頼されない刑事司法ということになる。

私が会った被害者の殆どは、現在の刑事司法に対して大きな不信を抱き持ち、中には怨嗟の念を持っている者もいる。司法改革推進審議会や司法制度改革本部も、国民に信頼される刑事司法といいながら、この点の認識に欠けている様に思える。

 2.
犯罪被害者はなぜ刑事司法に協力するのか
捜査、公判は、被害者の協力がなければ成り立たないが、この協力は被害者にとって精神的、肉体的、経済的に大きな負担である。葬儀の済まないうちから、何回も事情聴取され、家宅捜索、実況見分の立ち会いなど疲労困憊する。

司法解剖後の遺体の引き取費用や、家宅捜索のため自宅の立ち入りを禁止された遺族、親族のホテル宿泊料(数十万円支出した者もいる)も被害者の負担である。性犯罪の被害者が捜査官の前や法廷で被害状況を説明するのは、筆舌尽くしがたい苦痛を伴う。

被害者は、
  1. 加害者と犯罪事実の詳細を知り、
  2. 被害者の名誉を守り、
  3. 加害者に対して適正な刑罰が下されることを願っており、国がこの願い(被害者の利益)に応じてくれるものと期待すればこそ捜査、公判に協力するのである。

 3.
期待を裏切る刑事司法
ところが捜査、公判と進むにつれて被害者は期待を裏切られてゆくのである。頼りにしていた捜査官から十分な情報は貰えず、報道機関から教えられてはじめて知ることも少なくない。起訴、不起訴について意見を述べる権利も無く、最近まで、送検や起訴の事実や公判の期日まで知らされず、知らないうちに裁判が終わっていたというケースも多かった。

情報も少なく、捜査記録も閲覧できない被害者が真相を知るには、公判傍聴が唯一の手立てであるが、公判期日は一方的に決められて傍聴できないこともある。

被害者の協力の結果できあがる起訴状、冒頭陳述書、証拠カード、論告要旨、判決書は、加害者や報道機関に渡されても、被害者には渡されない。傍聴席は報道機関の後ろであることも多く、加害者の関係者と混在して座らされることもある。現場写真や実況見分調書、証拠類も傍聴席には廻ってこない。

供述調書の朗読も要旨だけのときもあるから、本当のところは分からない。甲号証、乙号証などの専門用語が飛びかって理解に苦しむ。加害者は嘘をついても、被害者の名誉を傷つけても、反論することができない。「違います」と2回叫んだだけで退廷させられた被害者もいる。

「マイクの音量を高くしてくれ」と頼んだ被害者は「傍聴席に聞かせるために裁判しているのではない」と一蹴されたこともある。ここに至って被害者は、裁判の資料、証拠品として利用されているのであって、自分のために捜査、公判が行われるのではないことに気づく。そして平成2年2月20日の最高裁判決を知るに及んで、刑事司法に対する不信は頂点に達することになる。

 4.
被害者の利益を守らない刑事司法
最高裁判所判決は「犯罪の捜査及び検察官による公訴権の行使は、国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われるものであって、犯罪の被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものではなく、また、告訴は、捜査機関に犯罪捜査の端緒を与え、検察官の職権発動を促すものにすぎないから、被害者又は告訴人が捜査又は公訴提起によって受ける利益は、公益上の見地に立って行われる捜査又は公訴の提起によって反射的にもたらされる事実上の利益にすぎず、法律上保護されたものではないというべきである。」という。

刑事司法は公の秩序維持のためのもので、被害者の利益のためにあるのではない、というのである。被害者が、自分のために、捜査、公判をしてくれると思ったのは錯覚であった。国はこの錯覚を利用して被害者を刑事司法に協力させていたのである。

被害者は詐欺にあったような気になり、こんな司法ならいらない、と思うようになる。損害賠償請求訴訟を起こしても、多くの時間と費用がかかるうえ、勝訴しても加害者が無資力のために実効がないことと相俟って、被害者は司法に絶望する。

 5.
現行の被害者保護施策
被害者を保護することは、80年代から世界の潮流になってきたが、わが国でも96年警察庁が被害者対策要綱を策定してから被害者連絡制度、被害者通知制度などが設けられたのに続き、2000年には刑事訴訟法、検察審議会法の改正が行われ、被害者保護法が成立した(いわゆる犯罪被害者保護2法)。これによって被害者保護は前進したといえるが、しかしこれは皮相的な手当てであって被害者の司法に対する不満を解消するものではなく、被害者保護の視点も不充分である。
被害者は、
  1. 優先傍聴についていえば、その範囲が狭すぎる。優先傍聴者は被害者が原則で、被害者が死亡し、または心身に重大な故障のあるときに限り、その配偶者、直系の親族、兄弟姉妹が優先傍聴できることになっている。

    犯罪の被害は、現実に被害を受けた者だけでなく、その周辺の者に及ぶのだから、配偶者等は優先傍聴させるべきである。また被害者の親、兄弟姉妹も優先範囲の範囲に入れるべきである。強姦の被害者に母親が付添うことは当然のことであろう。しかもこの規定は、裁判官の配慮義務を定めるもので、被害者の権利として定めたものではない。

  2. 裁判は犯罪を再現するため、傍聴する被害者は苦痛を伴うから付き添いが必要とされる。ところが保護法の付添いは、証人に対する付添いであって、被害者に対する付き添いではないため、傍聴のときは付き添いがいないことになる。被害者の視点が欠けているといわなければならない。

  3. 遮蔽措置も証人だけが必要なわけではない。被害者も暴力団である加害者などには顔を見られたくないのである。

  4. 公判記録の閲覧謄写制度は有益な制度であるが、要件が納得できない。被害者が公判記録閲覧謄写を求める最大の理由は、真実を知りたいからである。ところが法は「損害賠償の行使のために必要があると認められる場合その他正当な理由がある場合であって、犯罪の性質、審理の状況、その他の事情を考慮して相当と認めるとき」と規定し、真実を知るためというのは、要件に当たらないといわれている。

    これは経済的要求を真実発見要求よりも優先させるもので、被害者の尊厳を害する。実務では、否認事件に閲覧謄写させないというが、公開の法廷に顕れた記録である以上、閲覧謄写を許さなければならない。

  5. 和解条項の公判調書への記載は評価されるが、真実履行する意思がなく、刑事事件を有利に導くために和解する事案が余りに多い。和解条項を守らない加害者に対しては、執行猶予の取り消し、仮出獄させないのどの制裁処置が望まれる。

  6. ビデオリンク方式、性犯罪の告訴期間撤廃は評価できる。特に意見陳述は、被害者が僅かに刑事手続にかかわりを持ったもので歓迎する。

  7. 検察審査会の審査請求人の中に遺族が加えられたことはよいが、請求人に意見を述べる権利、その前提として捜査記録の閲覧権、証拠提出権、検察審査会の議決に拘束力をもたせるなど、起訴便宜主義に対する弊害防止の制度設計が更に必要である。保護法は、被害者保護の第一歩を踏み出したことは間違いないが、被害者を証拠品扱いにすることから抜け出せず、現象面の手当てだけであるから、被害者の司法不信は解消されない。

 6.
司法制度の改正被害者の信頼を得るためには、刑事司法を抜本的に改める必要がある。
  1. 刑事司法は公の秩序維持のためでなく、被害者の利益のためにも存在することを明確にする必要がある。被害者は被害を受けたうえに、公益のために協力する義務はない。被害者は自己の利益(真実を知ること、名誉を守ること、適正な刑罰を課すること)を守るために協力するのである。

    被害者の利益の集積が、公の利益になると発想を転換する必要がある。ドイツ、フランスの調査において、大勢の法律家や学者にこの点を確かめたところ、皆刑事司法は被害者のためにも存在すると答えてくれた。

  2. 訴訟参加事件の当事者である被害者を、証拠品として利用だけするのではなく、当事者としての地位と権利を認め、刑事手続きに参加させることが必要である。

    被害者には、ドイツと同じく、在廷権、証拠調請求権,証人・鑑定人に対する尋問権、被告人質問権、手続について意見を述べる権利、裁判官・鑑定人に対する忌避権、裁判長の訴訟指揮、質問に対する異議申立権、審判対象設定権、弁論権、求刑権などを認めるべきである。勿論参加したからといって被害者が期待するような判決が下されるとは限らないが、被害者にはやることはやったという満足感が残る。これが重要である。

  3. 附帯私訴刑事被告事件と民事損害賠償事件とは、別々の裁判所で審理されるが、同一の裁判所で審理されるならば、時間、費用の点で被害者の負担は少なくてすむ。証拠も共通に利用できるから効率的である。

  4. その他
    〔1〕捜査開始命令告訴、告発あるいは被害届けを提出しても、捜査官が捜査に着手せず、そのうちに重大な犯罪が発生する事例が稀ではない。捜査官が捜査に着手しないときは,捜査開始を命ずる制度が必要である。

    〔2〕捜査情報と捜査記録の開示 被害者が、加害者と犯罪事実の詳細について「知る権利」を有することは、世界的に認められている。「知る権利」は捜査公判を通じて保障されるべきもので、法廷に現れない捜査記録の中に被害者の知りたい情報が多く含まれている。

    さらに加害者死亡事件、精神障害者の不起訴事件、長期未解決事件などにおいては、起訴すれば当然訴訟記録として閲覧謄写できる捜査記録を見ることができないという不公平が生じている。 捜査、公判に支障をきたし、または悪用されるおそれがある場合を除き、被害者は、捜査情報の提供を受け、捜査記録の閲覧謄写する権利を有するようにすべきである。

    〔3〕起訴不起訴の処分について意見を述べる権利被害者の知らないうちに不起訴処分が行われたり、軽罪で起訴されたりすると、被害者は不満を持つ。処分に当たっては必ず被害者の意見を聴取する制度が望まれる。

    〔4〕検察審査会のにおける被害者の権利前述した通りである。

    〔5〕公費弁護士代理人制度現行の司法改革において被疑者にも国選弁護人が付けられるようであるが、被害者にも弁護士のサポートは必用であり、公費による弁護士代理人制度を創設すべきである。

    〔6〕仮出獄中に「お礼参り」によって被害者は被害を受けることが多い。安易に仮出獄させることなく事前に被害者の意見を聞き尊重するようにすべきである。

    〔7〕出所情報法務省は仮出獄や満期出所の時期、帰住先についての情報を提供するようになったが、詳細の情報はないので被害者の保護に充分ではない。特に満期後の住所変更については被害者は知ることができない。加害者の住所を知ることができるような立法措置を講ずるべきである。

 7.
諸外国の状況全国犯罪被害者の会は、 昨年9月ドイツ、フランスへ被害者の刑事司法上の地位、権利について調査を行った。
  1. ドイツ軽罪については私人訴追が原則であり、重罪については検察官が訴追するが、起訴法定主義である。約20年前、被害者が証拠品に過ぎなかったことに対する反省が現れて、刑事手続に被害者を当事者として参加させるように1986年被害者保護法が制定され、刑事訴訟法が改正された。

    証拠品から当事者に格上げされ、権利が大幅に強化された。被害者は、一定の重大な犯罪について、参加して検事の横に座り、証拠を提出し、証人尋問、被告人質問ができ、意見を述べ、裁判官を忌避し、無罪判決に対しては上訴することができる。被害者の参加によって法廷が混乱したり、刑罰が重くなるおそれはなく、むしろ参加によって真実発見が容易になり、加害者の更正にも役立つという。参加によって厳罰化する心配もないとのことである。

    ドイツでは、附帯私訴はあまり利用されていないが、これは刑事裁判官が民事事件を処理することを嫌がり、附帯私訴の申立てを却下するからだといわれる。却下決定には理由は不要で、かつ不服申立ての方法がないことが、却下を容易にしている。却下決定に理由を付し、かつ不服申立てできるよう法改正し、附帯私訴を原則とするよう準備中とのことである。

  2. フランスでは、被害者は私訴権をもつ。これは損害賠償請求の形を取りながら、実質は国に対して処罰請求するのである。検察官によりすでに公訴提起がなされていれば参加し、起訴されていないときは、予審判事に対して告訴状を提出して予審開始を求めることができる。その地位は私訴原告人と呼ばれる。

    私訴の制度は、ごく僅かの金銭を請求する場合にも認められており、検察官による公訴権の運用のチェック、被害者の保護及び国家刑罰権の適切な運用の点で有用であると評価されている。

    私訴権行使の制度はナポレオン時代からあったが、20年くらい前から被害者は証拠品ではないという反省が生まれ、次第に権利が強化され、記録閲覧謄写権、証人請求権、尋問権、弁論権などを持ち、加害者と同等の権利を持つよう配慮されている。

  3. その他ヨーロッパにおいては、多くの国で参加が行われているが、当事者主義の国であるイタリアもそうである。 アメリカにおいては、1982年の大統領特別委員会の「被害者およびその家族に対し、裁判に参加することを認めるべきである」という勧告以来、被害者の訴訟参加が進められている。

 8.結び
犯罪被害者は、事件の当事者でありながら証拠品とされるだけの刑事司法に絶望に近い不信を抱いている。権利意識が向上すると共に不信が強まってくる。

このままでは、70年代からアメリカが心配したように、被害者は犯罪が発生しても警察に通報せず、捜査に協力もせず、自ら復讐に走らないともかぎらない。

刑事司法に対する信頼を取戻すためには、刑事司法を公の秩序維持のためばかりでなく被害者のためにも存在するとの理念の明確にし、被害者を被告人に近い権利をもつ当事者として刑事手続に参加させ、附帯私訴の創設によって損害回復訴訟を容易にし、その他被害者保護の諸施策を講じることことが必要である。

被害者の刑事手続への参加は、真実の発見につながり、被告人の反省矯正のためにも役立つものである。
以上
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平成15年9月25日(水)
小泉総理大臣が国会で所信表明「犯罪被害者の人権を尊重」
 9月25日、小泉内閣総理大臣は、衆議院において所信表明演説をされましたが、その中で「犯罪被害者の人権を尊重した捜査、裁判の実現を目指します」と力強く明言されました。

 所信表明演説は、極めて重いものですから、総理の犯罪被害者の権利確立に向けての強い意志が感じられます。

これも署名活動に基づいて要望した成果だと思いますが、 犯罪被害者の人権を尊重した捜査、裁判の実現を目指す ために、更に署名活動を続けてゆきます。
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いよいよ犯罪被害者保護施策研究会発足へ
署名運動の効果実る

 全国犯罪被害者の会では、それまでに集まった40万人近くの署名を添えて、犯罪被害者のための刑事司法、訴訟参加、附帯私訴を求める総理大臣宛の要望書を、7月9日、法務大臣宛に提出しました。
 これを受けて法務大臣は、8月1日、法務総合研究所のなかに、研究会を立ち上げて研究することを表明されましたが、この度「犯罪被害者保護施策研究会」が立ち上がり、9月17日、第1回研究会が開催されました。
 研究会の目的、研究会のメンバー、日程、活動の概要は、次の通り法務省から発表されています。「全国犯罪被害者の会・あすの会」space.gif
平成15年9月17日(水)

「犯罪被害者保護施策研究会」 第1回

 第1回研究会において、鶴田法務総合研究所所長は、つぎのような挨拶をされましたが、私たちの署名要望についても触れられています。 私たちの犯罪被害者の権利確立を求める署名運動は、この研究会の発足によって、効果をもたらし始めました。嬉しい限りです。

 しかし、研究会でよい結論が出され、被害者の権利を確立する法律が制定されるには、さらに署名運動を続けて、多くの国民がその実現を望んでいることを示さなければなりません。 引き続き署名運動のご協力をお願い致します。

第2回研究会10月3日に開催され、
井上保孝さん、郁美さん(当会会員)、長戸雅子さん(産経新聞)が参考人として出席されました。 井上さんは自分の体験から、刑事訴訟手続から排除されている被害者の心情を話されました。
 長戸雅子さんはドイツの裁判所での研修中に、実際に体験した被害者の訴訟参加の様子を話し、訴訟参加がドイツに於いて定着していること、参加によって法廷が混乱することはなく、犯罪被害者にとって必要な制度であることを述べられました。

「犯罪被害者保護施策研究会の概要」
第1 研究会の目的等
法務総合研究所において、関係者からのヒアリングや海外法制の研究等を通じて、幅広い観点から、更なる犯罪被害者に対する保護・支援の在り方について、調整・検討を行い、今後の施策検討に役立てる。

第2 研究会のメンバー
(学者) 今井猛嘉(法政大学)教授
上原敏夫(一橋大学)教授
大澤 裕(名古屋大学)教授
奥村正雄(同志社女子大学)教授
川本哲郎(京都学園大学)教授
佐伯仁志(東京大学)教授
堀江慎司(京都大学)助教授
松尾浩也(法務省)特別顧問
山本和彦(一橋大学)教授
(オブザーバー) 警察庁
最高裁判所
(法務省) 法務総合研究所
刑事局
民事局
矯正局
保護局
第3 日程等
平成15年9月17日から月1回程度開催

第4 活動の概要
  • 犯罪被害者等からのヒアリング
  • 我が国の現行制度の運用等の紹介
  • 海外法制の研究等
以上
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「鶴田法務総合研究所長のあいさつ」
法務総合研究所長の鶴田でございます。犯罪被害者保護施策研究会の開会に当たりまして、一言ごあいさつを申し上げます。本日は、皆様方におかれましては、公私共に御多用中のところ、ご出席いただきまして、誠にありがとうございます。

 犯罪被害者やそのご遺族の苦痛、悲嘆、怒り等を真摯に受け止め、その立場に配慮し、保護・支援を図ることは、刑事司法に課せられた重要な責務であります。そこで、法務省におきましても、平成12年のいわゆる犯罪被害者保護二法や少年法等の一部改正による法整備のほか、運用上の措置を講じ、被害者等に対する情報や記録の開示、被害者等の意見陳述制度、その他様々な保護・支援のための施策の拡充に努めてまいりました。

 法務総合研究所におきましても、有効かつ適切な被害者施策を講じるための資料を提供するため、「犯罪被害の実態に関する調査」等の一連の調査とその分析を行うなど、犯罪被害者関係の調査・研究を重ねてきております。

 しかしながら、近時も、現行の制度では不十分であり、訴訟参加や附帯私訴の導入等の法整備を行うべきであるなどの要望が、多数の方々の署名を添えて、犯罪被害者やその遺族の方々から寄せられるなど、被害者保護の充実を求める国民の声が高まりを見せており、先月には、法務大臣から事務当局に対し、現行制度に加えて、更にどのような形で犯罪被害者の保護・支援を図ることができるかについて調査・研究するようにとの指示がありました。

 そこで、法務総合研究所において、犯罪被害者保護施策研究会を立ち上げることとし、刑事法、民事法などの分野でご活躍の研究者や関係当局の方々にご協力をお願いいたしましたところ、研究会への参加を快くご承諾いただき、本日、第一回の研究会の開催の運びとなったものであり、皆様には、心より感謝申し上げます。

 新たな犯罪被害者保護施策の検討に際しましては、犯罪被害者やその遺族の方々の要望事項、現行制度の運用の実情、諸外国における諸施策等について十分に調査し、我が国の刑事訴訟制度に合う形で導入可能な犯罪被害者保護のための施策としてどのようなものがあるか、これを導入する場合の留意事項は何かなどについて、幅広い観点から検討を行い、議論を深める必要があるものと思われます。

 研究会におきましては、今後の犯罪被害者の保護・支援に資する施策を実現する上で有益な資料が得られますよう、活発な調査・研究をお願い致しまして、簡単ではござい ますが、私のあいさつとさせていただきます。
以上
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署名提出後、小泉首相と森山法相から犯罪被害者対策について前向きな発言がありました。「全国犯罪被害者の会・あすの会」space.gif
平成15年8月1日(金)
「閣議後の記者会見における森山法務大臣の発言要旨」
 犯罪被害者やそのご家族の苦痛、悲嘆、怒り等を真摯に受け止め、その立場に配慮し、保護・支援を図ることを目的に、刑事司法の手続きの抜本的な見直しを法務局に指示しました。法務省においては、平成12年のいわゆる犯罪被害者保護二法などの法整備のほか、被害者通知制度などの運用上の措置も、順次講じております。

 さらに近時、犯罪被害者やそのご家族の方から、刑事裁判への積極的な関与等について、具体的な法整備を行うべきであるとの要望も寄せられています。そこでこの度、法務省は9月に法務総合研究所を中心として有識者による研究会(*1)を設置します。今後、その調査検討の結果等を踏まえ、被害者の方々の保護・支援に資する必要な施策の実現に努めてまいりたいと考えています。

(*1)研究会では、当会が実現を目指している下記のことが、検討内容に含まれています。
  1. 犯罪被害者の訴訟参加
  2. 附帯私訴
  3. 公費による被害者弁護士制度
犯罪被害者対策の充実については、自民党の司法制度調査会(会長 保岡興治氏)も近くプロジェクトチームを設置する予定です。

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平成15年7月23日(金)
「 党首討論会における小泉総理大臣の発言 」
−民主党菅直人党首に昨今の凶悪犯罪の現状についての考えを問われた折りに−

 私も先日、犯罪被害者の代表の方々とお会いしました。その際に、被害者の家族の方々は、「今あまりにも被害者の立場というものが軽視されているのではないか」と、「加害者の人権も結構ですが、被害者の人権というものも十分に配慮してください」というようなお話を伺いました。捜査状況が全く被害者の兄弟、家族、親にも知らされていない、裁判にも立ち合わせてくれないと。

 これは一体どうなのですかと、非常に憤慨の気持ちを受けました。もっともな点もずいぶんあるなと、思いました。加害者の人権もそれは当然十分配慮しなくてはなりませんが、同時に被害者の立場というもの、人権というものも十分に配慮して、少しでも今のような憂うべき状況を改善するように、これは党派を越えて考えなければいけない問題だと思っております。

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